自分で見つけた道が一番

アレクサンドラ・スターリン&渡辺啓子・共著

Inspired Universe Books・刊

スターリンさん
渡辺さん

 ニューヨークで活動するアーティストの渡辺啓子さんがこのほど、米国人作家のアレクサンドラ・スターリンさんとの共著の絵本『 You’ll Always Find Your Way』をインスパイアード・ユニバース・ブックスから出版した。物語は、主人公が木の下に座り、完全に迷子になったように感じる自然の中で始まる。次にどこへ行けばいいのかわからない。そして、自分の心の声を聞くために目を閉じ、静かになる。このとき、主人公は自分の心に導かれて、自分自身の旅に出る。彼は、自分の心に従うことで、才能を発見し、素晴らしい人生を築き、新しい友人を作り、その過程で人々を鼓舞することができることに気づく。児童書ながら人生の重たいテーマをストレートにそして優しく、また、カラフルで躍動感ある絵と文章で子供たちを未来への心の旅立ちへと誘う内容になっている。

 絵を担当した渡辺さんは、東京都出身で、多摩美術大学(絵画科油画専攻・版画コース)を卒業後、イラストレーターとして活躍。1999年に渡米し、2004年NYCoo ギャラリーのアートディレクターとして活動後、作家として現在に至る。著者のスターリンさんは、ニューヨーク州立大学パーチェス校で心理学を学び、コーネル大学で植物ベースの栄養学を学んだ。これまで子供達の健康的な食事と行動習慣を身につけるための絵本を4冊出している。

 渡辺さんは「自分の夢を持ち、自分の心に導かれたとき、人生がいかに美しいものになるかを描いた。子供から大人まで楽しんで欲しい」と話す。スターリングさんは「ケイコの作品は、鮮やかな色彩、星、そして大きな手で星や夢に向かって手を伸ばすキャラクターがいっぱいで、とても刺激的」と話す。自分の道を進むことの楽しさと豊かさが読者にしっかりと伝わるのは、二人の作家自身が手にしたライフスタイルとも重なるからだろう。 (三浦)

https://inspireduniverse.com

キスとハグのおすそ分け

ニューヨークの魔法
岡田光世

 その年のバレンタインデーの朝を、さみしい思いで迎えた。アメリカでは、男性が女性に贈り物をする。夫は日本にいる。何も贈ってくる気配はない。仕事以外の予定は、何もない。 

 もらえないなら、あげればいいか。喜んでくれそうな友人を思い浮かべているうちに、ふと、マンハッタンの雑踏のなか、ビル風に吹きさらしにされ、冷たい路上にひとりで じっとすわっているホームレスの人たちを思った。 

 そうだ、ホームレスの人たちにチョコレートをあげよう。私は突然、思い立ち、さっそく買いに出かけた。この日のために並んだチョコレートの棚のなかから、ひとつずつ 包まれ、外側に「X」か「O」と書かれているものを選んだ。英語で「X」はキス、「O」はハグの意味がある。 

 街中の教会や非営利団体で、無料で食べ物を配給しているし、お金や飲み物をあげる人はほかにもいる。でもチョコレートはしばらく口にしていないかもしれない。一瞬で温かい気持ちになってくれたら、うれしいではないか。 

 地下鉄に乗ると早速、ホームレスの人が車両の隅のシートを三人分占領して、寝そべっていた。でも、顔が見えないし、ぐっすり寝ているのかもしれない。周りの人たちの視線も気になって、声をかける勇気がなかった。 

 人の集まるタイムズスクエアで、降りることにした。観光客で最もにぎわっている場所から少し離れた歩道脇の地べたに、青年がうなだれてすわっていた。右手はポケットに入れたままだ。人がひっきりなしに行き来しているが、誰も足を止めない。 

 前に友人のゲイルがベーグルを買ったときに、店の計算違いで安く払ったうえに二個もおまけにもらったので、珍しく親切心を起こして、いつも見かけるホームレスの男性にベーグルをあげようとした。 

 ところが、ベーグル? なんでオレがベーグルなんかほしいんだい? オレはベーグルなんか、ほしかねえよ、とその人にどなりつけられた、とゲイルが憤慨していた。 

 向こうでうずくまる青年はおとなしそうだが、ぐいっと顔を上げ、突然、怒り出すかもしれない。 

 チョコレート? なんでオレがチョコなんかほしいんだい? オレはチョコなんか、ほしかねえよ。チョコなんかじゃ、生きられねえんだよ。バレンタインだと? そんな 甘っちょろい世界は、オレたちにカンケーねーんだよ。

 悪いほうに大きく妄想がふくらむなか、しずしずと青年に近づいていく。

 Happy Valentine’s Day.(幸せなバレンタインデーを) 

 笑顔で声をかけて、チョコレートをいくつかそっと差し出した。 

 青年は驚いた顔で私を見てから、Thank you. とほほ笑み、受け取った。

 世間話をするにも、何を話題にしていいものかわからず、バーイとだけ言って、そのまま立ち去った。 

 食べてくれるだろうか。捨ててしまうだろうか。気になり、ふり返った。

 青年は左手だけでチョコレートの包み紙を開けようとしているが、うまくできず、悪戦苦闘している。右手は使えないのか。 

 思わず、彼のところへ引き返した。私が開けましょうか、と声をかける。

 ありがとう。けがをしてしまって、右手を使えないんです。

 彼の目の前にある段ボール紙に、自動車事故で負傷しました、と書かれている。

 事故にあって、一年くらい前からこうして路上で生活しているという。

 I’m a clean person. 

 僕はきれい好きなんだ。 

 だから、こんな生活は耐えられない。でも、仕方がないんだよね。

 チョコレートの包みをほどくと、彼が思わず口を開けた。 

 私も思わず、はい、あーんして、と言わんばかりに、自分も口を開けて、彼の口に入れてあげそうになった。目が合い、ふたりで笑った。 

 幼い頃、母親にこうして食べ物を口に入れてもらっていたのだろうか。ガールフレンドか妻が、愛情の証にそうしてくれた思い出があるのかもしれない。 

 つい先日まで仕事があって、ごくふつうに生活していた人が、人生でちょっとつまずけば、一転して路上生活者になってしまう。ニューヨークの不動産は年々上がり、失業すれば、すぐに家賃が払えなくなる。      

 暖かい春がやってくるから、今しばらくの辛抱だね。 

 そんな思いを込めて、彼の左の手のひらに、包みから出したチョコレートをそっとのせた。 

 甘い。美味しいなぁ。

 そう言って青年は、ゆっくりチョコレートをなめている。 

 私もゆっくり、包み紙をもうひとつ、青年のために開けている。 

 このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第9弾『ニューヨークの魔法は終わらない』に収録されています。

https://books.bunshun.jp/list/search-g?q=岡田光世

グランドセントラル駅に駐輪カプセル

 ニューヨーク交通局(MTA)は10日、メトロノース鉄道とブルックリンを拠点とするスタートアップ企業Ooneとのパイロットプログラムにより、グランドセントラル駅に自転車保管庫「6スペース・バイクパーキングポッド」が置かれたことを発表した。

 43丁目とバンダービルト街にあるこの保管庫を利用するためにはOoneのウェブサイト(https://www.ooneepod.com/oonee-nyc)から予約する必要がある。利用者はキーカードまたはスマートフォンを使用してポッド内のプライベートスペースのロックを解除できる。予約は先着順で、登録は無料。

 MTAの会長・CEOは「MTAネットワークの範囲拡大のため、マイクロモビリティの使用を真剣に考える時だ。パンデミック中に増加した自転車利用者を地下鉄に戻す1つの方法として、自転車へのアクセスを改善するための一歩になる」と述べている。

編集後記 2月12日号

編集後記

 ホークル・ニューヨーク州知事は10日(木)から、ビジネスでの屋内業務でマスク着用義務を解除すると発表しました。学校でのマスク継続は現在摂取率60%の5歳から11歳までの児童のワクチン接種動向を見極めながら3月までは継続を見込むとしています。またニュージャージー州のフィリップ・マーフィー州知事は7日、学校職員と生徒のマスク着用義務を3月7日に解除すると発表しました。ただしマスク着用を強く望む地区については引き続き着用義務を認めるなど段階的に行うそうで、感染者が再び急増した場合はマスク義務を復活させるとのこと。米疾病対策センター(CDC)は7日、世界各地の新型コロナウイルスの感染状況に基づいて毎週更新する渡航警戒レベルのリストで、日本を含む136か国・地域が最大の「レベル4」になったと発表しており、米国内での感染ピークが見え始めてマスク着用義務が徐々に解除される一方、渡航警戒レベルの引き上げはどんどん積み上げられて今や、世界の半数以上の国と地域がレベル4の最高警戒状況と拡散しています。ニューヨークでは下水から新たな変異種も見つかるなど、ワクチンを追加接種しながらコロナ禍を生きていくニューノーマルの時代がそこまできているようです。PCR検査で陽性となった人も知り合いの中から結構いるようになり、もう誰がどこで感染してもおかしくない状況になっているようです。最近は、取材先からPCRの検査結果を求められることも多くなり、私もそのたびに会社の近くのテント検査所に走りラピッドテストを受けてます。15分後には結果が来ますが、毎回ドキドキします。外に出たり、地下鉄にも電車にも頻繁に乗る私が感染しないのが不思議なくらいです。ワクチンのおかげなんでしょうねきっと。

【今週の紙面の主なニュース】(2022年2月12日号)

(1)新たな変異株出現か NYで不可解な4種発見

(2)甘さに酔うバレンタイン

(3)オンライン日本映画祭 世界25か国で無料配信

(4)いちご王国が米上陸 栃木からスカイベリー

(5)あめりか時評 冷泉彰彦

(6)ギャノン氏に在外公館長表彰

(7)石原慎太郎さん悼む NYタイムズ紙が訃報掲載

(8)街角ファッション SOHOを軽やかバレリーナ

(9)ミュージック・フロム・ジャパン

(10)高氏奈津樹が新作 シンボルと人間の心

新たな変異株出現か

新たな変異株出現か

 ミズーリ大学のマーク・ジョンソン博士らの研究チームはニューヨークの下水から新型コロナウイルスの「不可解な」変異の跡を4種類以上発見したと発表した。新たな変異株出現の潜在的兆候となる。「ニューヨークの廃水で検出された不可解なSARS-CoV-2系統の追跡」という研究で、査読付きのジャーナル「Nature Communications」に2月3日に掲載された。

 研究はジョンソン教授(分子微生物と免疫学)とニューヨーク市立大学クイーンズ校の生物学部のジョンソン・デニー教授が主導して行っているもので、研究チームは2020年6月からニューヨーク市内の14か所の下水処理場から採取して調査を行っている。ウイルスのRNAを分離後、PCR検査でコロナウイルスゲノムの欠片を培養してこの変異を確認した。最初に確認したのは昨年1月で、世界中のウイルスを追跡し掲載しているデータベースGISAIDEpiCoVにもこの変異の系統は確認されていない。

 昨年以来、この変異跡を持つものが毎週同じ下水処理場から繰り返し確認されている。その間にデルタ株やオミクロン株が出現したが、この系統のものは地理的には限定されており広がっていないようだという。ジョンソン博士らは、人間由来の可能性は排除しないが、下水道のネズミなど動物由来の可能性もあるとしている。

甘さに酔うバレンタイン

 14日はバレンタインデー。コロナ禍で多くのチョコレートの老舗、名店が看板を下す中、スイス生まれのトーシェ(Teuscher )は未だ健在。シグネチャー「シャンペーン・トリュフ」は少量ずつ手作業で作られ、極上のドンペリニヨンクリームが入っている。ダークチョコレートのガナッシュに包まれ、ミルクチョコレートのシェルに覆われ、コンフェクショナーズシュガーで仕上げられた完璧なチョコ。甘さに酔う大人の味。NYではロックフェラーセンター・プロムナード店とマジソン店。2個入り8ドル95セントから。

日本映画祭を開催 オンライン2022

世界25か国で無料配信

国際交流基金と日本大使館

「サマーフィルムにのって」(2021年)

 国際交流基金(JF)は日本国大使館と共催で14日(金)から27日(木)まで、世界25か国を対象にした「オンライン日本映画祭2022」を開催する。

 2019年度は12か国56都市でリアルな映画祭を実施し、年間17万人以上を動員した。そして初めての開催となった「オンライン日本映画祭20〜21」では世界20か国から計22万回以上の視聴を記録した。今年は韓国やタイ、メキシコ、スペイン、ドイツなど全25か国にて開催、最大15言語の字幕が使用される。アメリカでは全20作品のうち、16作品が無料で視聴できる。

 21年に日本で劇場公開され、大きな話題を集めた『あのこは貴族』や『サマーフィルムにのって』などの新作のほか、『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』や『ラーメンより大切なもの 東池袋大勝軒50年の秘密』といった日本文化を映し出すドキュメンタリー、アニメーションでは吉浦康裕監督が手掛けた『イヴの時間 劇場版』などが視聴可能。 期間中は作品配信だけでなく、監督やキャストを招いたインタビュートークや世界各国でさまざまなイベントも企画される。 視聴無料だが要ユーザー登録。詳細はウェブサイトhttps://jff.jpf.go.jp/watch/jffonline2022/を参照。

「しあわせのパン」(2012年)

●視聴者へ向けたメッセージ・許斐雅文(同映画祭プロデューサー)

 「コロナ禍の今、世界中で多くの人々が苦しみや悲しみ、孤独と戦っています。このような状況の中、日本映画が少しでも皆さんの気持ちを癒せるよう、最新作からクラシックまで、さまざまな作品の上映や配信を予定しています。四季折々の景観、見た目にも美しい色とりどりの日本食、伝統から現代へ変わりゆく社会、時空を越えた創造の世界など、さまざまな日本の世界を堪能してもらうことで、視聴者の皆さんの気持ちが少しでも晴れ、一人でも多くの人が、またいつの

日か日本を訪れるという夢を持つきっかけとなれば嬉しく思います」

(写真上)ハッピーフライト(2008年)

「いちご王国」栃木から直送スカイベリー

 いちごの年間生産量が53年連続日本一の「いちご王国」栃木県の、数あるブランドいちごの中でも最高級品種に位置する「スカイベリー」の販売が、このほど米国東海岸で始まった。

 「スカイベリー」は県をあげてのプロジェクトで17年かけて開発された品種。栃木県の主力品種「とちおとめ」と比較するとかなり大粒で、上品な甘さとほのかな酸味とのバランスが良く、果汁がにじみ出るジューシーさが特徴。日本では贈答用として人気を得ている。栽培が難しく大量生産ができないため、最高品質のものは一粒300円〜500円ほどで市販される高級いちごだ。

 今回、「スカイベリー」が米国に輸入されるきっかけは、日本酒や日本の食品の米国での市場展開を手伝うコンサルティング会社MU・GENインクの阿部嘉代子社長が、ワシントンDC地区で世界の最高級食材を集めて創る大胆な創作料理が評判の高級レストラン「JÔNT」のオーナーシェフ、ライアン・ラティーノ氏から、「デザートに使う日本の最高級いちごを入手したい」と相談され、阿部さんの出身県である栃木県の県庁に提案したことから実現。生鮮食品輸入・流通業者のトゥルーワールドフーズ社が、採れたてのいちごを産地直送、航空便輸送で輸入している。

 「スカイベリー」は生産数が少なく対米輸出できる数量にも限りがあるため、NY近郊では、一部のレストランへの卸し以外、一般販売はNJのミツワマーケットプレースでのみ行われている。価格は、1パック(平均6〜8粒)34ドル99セント(2月5日現在)。同店では当面、毎週水曜日に新しい商品が入荷し店頭に並ぶそうだ。バレンタインのギフトとして今年はチョコの代わりに「スカイベリー」を渡してみるのもアイデアだ。

岸田政権を待ち受ける3つの困難

 昨年秋に発足した岸田政権は、10月の衆院選で予想外の善戦を見せて以来、50%を超える安定した支持率をキープしている。当初は、デルタ株がほぼ収束したことでコロナ禍に「一息ついた」ことが政権の追い風となった。その後、オミクロン株の流行で年明け以降は一気に感染が拡大したが、現時点では支持率が激減するようなことは起きていない。

 一部には私たち在外邦人を含む入国者に対する過剰なまでの「水際対策」を徹底したことが、世論に歓迎されているという説がある。国外から見れば残念としか言いようのない政策だが、東京五輪を強行した前任者とは正反対の姿勢ということから好印象となっているようだ。加えて岸田総理の場合は、会見でも国会質疑でも受け答えは実に歯切れが良く、それだけでも過去数代の総理大臣より好感が持たれている。勿論、発言の内容は十分に予防線を張ったもので、切れ味があるわけではない。よく聞いてみれば答弁の多くは一般論に終始している。それでも「聞いたことにはちゃんと答える」姿勢は現時点では効果を上げている。

 では、このまま岸田政権は安定して行くのだろうか?

 一部には野党、とりわけ立憲民主党の人気が低迷している中では、7月に予定されている参院選では与党が有利という見方がある。従って選挙に勝った後の岸田政権はより強固となって、長期政権を視野に入れるだろうという楽観的な予測もある。だが、そう簡単には行かないであろう。どんな時代でもやはり、政局の「一寸先は闇」だからだ。

 一見すると盤石に見える岸田政権だが、実は3つの難題を抱えている。

 1つ目は、コロナ禍への対策だ。米国の例を見ていると、オミクロン株の感染拡大は、急上昇したのちは急速に減少に向かっている。だが、日本も同様の推移を見せるかというと不安材料がある。菅政権による2回接種は成功した一方で、3回目の「ブースター接種」が普及していない。岸田政権は、ファイザー社製のワクチンの入手が遅れる中でモデルナ社製のワクチン接種を推奨しているが、副反応の懸念が世論に広く行き渡る中で反発も出ている。ということは、アメリカのような急速な収束が遠のき、オミクロンとの戦いが長期化する危険がある。今回の「波」を受けて医療体制も再び翻弄されており、医療崩壊の可能性も出てきた。仮にそうなれば、今回も国民の不満が政権への批判となる可能性は十分にある。

 2つ目は、ここへきて浮上してきた憲法論議だ。岸田氏は宏池会という派閥の領袖だが、宏池会は創始者の池田勇人以来、経済を重視する一方で、全方位外交と軽武装を政策とする中道主義を掲げてきた。従って、自民党内では真ん中やや左の立ち位置である。だが、憲法改正問題に対して岸田氏は積極的な姿勢を見せている。改憲を党是として、保守票を多く抱える自民党にあって、政権を維持するには党内対策として改憲論を唱える方が得策ということが背景にはあるようだ。また、自公の与党に加えて維新を加えた改憲勢力が優勢となる中では、その政治的な波に乗りたいということもあるのだろう。

 だが、この問題は両刃の剣である。憲法論議に前のめりになれば、公明党が離反する可能性もある。コロナ禍など社会不安の中、直近の課題が山積する中で改憲論議ばかりが先行するようだと、第一次安倍政権の時と同じように民意が離れていく可能性もある。

 3点目は経済問題であり、これが最も深刻だ。コロナ禍の真っ只中である現在、政府は公的資金を投入して何とか危機を乗り切ろうとしている。従って危機の間は、良くも悪くもカネは回る。問題は、コロナが収束した後だ。支援の相当部分は貸付という形を取っている。ということは、社会活動が再開されるということは、凍結されていた返済がスタートすることを意味するわけで、その瞬間に多くの企業が淘汰される危険がある。これに伴って地方の不動産価値が下落すると、多くの地銀は困難に直面する。

 また世界的な原油高、原材料高が続く一方で、更に一段の円安が襲うと一転してインフレが制御できなくなる危険も指摘されている。問題はエネルギーであり、化石燃料依存体質を克服できなければ製造業は更に国外流出を加速するだろう。

 この3点の難題に取り組む姿勢を見せられるか、岸田政権の命運はここにかかっている。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)

ギャノン氏の国際交流称えギャノン氏の国際交流称え NY

 ニューヨーク日本総領事館は3日夕、米国法人日本国際交流センター(JCIE/USA)前事務局長のジェームズ・ギャノン氏への在外公館長表彰を行った。同氏は、2001年から2021年までJCIE/USAの事務局長として幅広いプログラムを手がけ、日米議員交流・日米交流の促進などに貢献した。また、東日本大震災発生直後には「東日本大震災NGO支援国際基金」を立ち上げ、約1600万ドルの支援金の収集に大きく貢献すると共に、震災の救援・復興に向けた国際協力の推進に関する会議や調査研究を主導した。さらに、国際保健分野においても、知見と人脈を活かして数多くのセミナーや研究を推進し、2020年10月には、山中伸弥京都大学iPS細胞研究所所長らを招いたウェビナーをNY総領事館との共催で開催するなど、長年にわたり米国における対日理解促進に向けて尽力した。 当日は後任の加藤和世同センター事務局長ら招待客が参列し、ギャノン氏への表彰状授与を祝福した。ニューヨーク総領事の山野内大使から表彰状を受け取った。ギャノン氏は、登壇し、参列者一人一人との関わりについて触れ、これまでのサポートに感謝の言葉を述べた。

(写真) 山野内大使(右)から表彰を受けるギャノン氏(写真提供・NY日本総領事館)

石原慎太郎さん悼む

NYタイムズ紙が訃報掲載

 今月1日に膵臓がんのため89歳で亡くなった石原慎太郎元東京都知事について3日付ニューヨークタイムズ紙が訃報を写真付きで大きく掲載した。同紙は、石原氏について中国との領有権問題をめぐって外交的緊張を高めたことで知られる作家、過激なナショナリストの政治家と紹介。一橋大学法学部在学中の1955年に処女作『太陽の季節』を発表して芥川賞を受賞し、戦後の日本に幻滅した若者の姿を描いて評判になったが、このテーマはその後の著作でも繰り返されたと評した。

 1999年から13年間、東京都知事を務め、日本を活性化し、米国への隷属から解放すると信じて、厳格な右翼キャンペーンを展開し、第二次世界大戦の原爆投下によって未だにトラウマを抱えている日本で、核兵器の開発を要求、日本が戦争をすることを禁止する(米国によって課せられた)憲法の規定を廃止するよう要求したなどと報じた。

 また、保守的な考えを貫き、女性や外国人への差別的な発言で批判されることもあったことや、2012年には東京都知事として、東シナ海に浮かぶ尖閣諸島と釣魚島を購入するために数百万ドルを集め、中国との外交問題に発展したことなどを紹介した。

(写真)モノいうナショナリスト(国粋主義者)の見出しで報じる3日付NYタイムズ紙