次期大統領のドナルド・J・トランプ氏は、就任初日に合法・非合法を問わず移民を大幅に削減し、強制送還を強化すると公約していると11月25日付ニューヨークタイムズが1面で報じた。それによると、移民たちは、トランプ政権による取り締まりに先んじて手を打とうと急いでいるとし、外国生まれの米国在住者たちからの問い合わせで移民弁護士事務所の電話が鳴り止まない状態だという。人々はコミュニティ団体など非営利団体が主催する説明会に詰めかけ、来年1月20日の就任後にトランプ氏が実施すると公約している大規模な取り締まり措置から身を守るためにあらゆる手段を講じていると報じた。
「本来なら恐れるべき人々が流入し、グリーンカードで問題ない人々が殺到している」と、オハイオ州の移民弁護士のコメント引用し、「米国永住権(グリーンカード)保持者はできるだけ早く米国市民権を取得したいと考えているようだ」とも報じた。法的地位が不安定な人々や不法入国者は、亡命申請に殺到しているという。その理由は、たとえ主張の根拠が薄弱であっても、ひとたび申請書がファイルされれば、現行法の規定では強制送還を免れることができるためだとしている。また米国市民と交際中の人々は、グリーンカードの申請資格を得るために結婚を急いでいるとも報じている。
米国に合法的に滞在できる永住権を持つ人は、米国内に合計で約1300万人いるという。また2022年の統計で1130万人の不法滞在者がいると推定されているとしている。ニューヨークで移民法を専門とする日系の加藤法律事務所にも電話やEメールでの問い合わせが増えているという。代表の加藤恵子弁護士によると具体的には▽今年中に米国の永住権申請をしたい▽合法的なビザを持っていてまだ1年も有効期限があるが12月までに更新申請をしたい▽永住権の期限が2025年5月とか6月に切れるので、必ず12月末までに永住権の更新をしたい▽米国の永住権を持っていてReentry Permit(2年間の再入国許可証)を取得して日本に滞在しているが、このReentry Permitは、今後申請できなくなるということを噂で聞いたが本当か▽外国人の親のもとで米国で生まれた子供は市民権を剥奪されると聞いたが本当か。またこれから生まれる子供は市民権を与えられないのか、など、中にはまだ永住権を申請していないのにも関わらず多くの問い合わせが続いている。
加藤弁護士は、強制送還の対象となるのは、合法的滞在ステイタスが期限切れなどして不法滞在になってしまった人と国境を違法に越えて入国してきた不法滞在者だとしている。
現在有効なグリーンカードを所持している人は、次期トランプ政権の移民政策がたとえ厳しさを増したとしても、その滞在ステイタスが脅かされることはないだろうという。ただし駐在員のビザの新規審査に時間がかかったり発給条件が厳しくなる懸念はあるようだ。前トランプ政権下では、寿司シェフのビザが取得困難になりNYの老舗寿司店が撤退に追い込まれたケースもある。
10年毎の永住権更新については、現政権下では、ニューヨーク州の場合、手続きは既得権益の更新として簡略化され、従来課せられていた移民官との面接なども省略、カードが2週間程度で申請者の手元に届くスピード化が計られており、他州でも同様の傾向が見られる。
第2次トランプ政権下での移民法の規則
11月5日の大統領選挙で、再度トランプ氏が大統領に選出されました。トランプ氏が選挙演説で繰り返し主張したように、不法移民の強制退去が来年1月から始まるようです。不法移民とは、すでになんらかの条件で移民の滞在資格が与えられている人たち、つまり永住権を持つ人たちのことではありません。ビザや滞在資格が切れてもそのままアメリカに滞在している人たちや、アメリカとの国境を超えて滞在資格がないままアメリカに滞在している人たちを指します。その方法として次のような方法が上がっています。
● 建設途中だったメキシコとの壁の建設を完成させること
メキシコとの壁は、第1次トランプ政権下で建設され、バイデン政権下では取り壊されることもなく放置されていました。その建設途中の壁を完成させるようです。それによりメキシコから地続きでアメリカに来る人たちを排除する方法です。
● アメリカ合衆国国土安全保障省内に不法移民強制退去部を設けること
この新たな管轄部署は、地続きでもなく何らかの方法でアメリカに入国して、正規の滞在資格のないままアメリカで暮らしている人たちを強制退去させるために設けられます。その部署では、職員が不法滞在移民の存在を調査し、発見とともに退去を促すようです。このことを聞いたときに私の脳裏には第2次大戦中のドイツでの秘密国家警察が思い浮かびました。21世紀の現代で当時のような過激な行動は阻止されるでしょうが、不安は残ります。
また、今後、外国人の両親のもとからアメリカで生まれた子供達に米国市民権を与えないのではないか、ということが噂されていますが、もしそのようなことをした場合、アメリカ合衆国憲法の改正第14条に反することになります。ゆえに憲法改正をしない限り、この規則は施行できません。それゆえ、アメリカで生まれた子供達はそのまま市民権を与えられるでしょう。そうなると、以前からあった子供と親が引き離されるという状況と問題が再現します。
この流れで難民受け入れを止めるという案も噂されています。こちらも来年度以降に明確な方針が出されるでしょう。
通常の移民法の規則に関しての変更はおそらくないと思います。ただし、抽選永住権がこのまま残されるか否かはわかりません。
非移民ビザに関しては、このまま現状が続行されると思います。毎年申請者が多くて抽選で選考されていた専門職に従事する人たちに発行されるH-1Bビザ申請ですが、このビザの申請者の大半はエンジニアなどコンピューターやIT関連の人たちです。このH-1Bビザの発行数を増やすことは以前から議論の対象になっていましたが、トランプ次期大統領はアメリカ人の労働者の権利を守ることを公約していましたので、おそらくH-1Bビザの発行数は増えずに今後も抽選での申請は続くと思われます。
(加藤恵子/ニューヨーク州弁護士)