中川直人の9・11

作品「森の星たち」を語る

 5月はヘリテージ月間。国立911記念博物館では、5月28日に日本人アーティストの中川直人さんと元港湾局警察署の警部補で、中国系のデービッド・リムさんの講演会が開かれた。

 中川さんは、1962年に500円だけを持ってニューヨークへ来米した。「期待に胸を膨らませ、アーティストとして成功すると決めていました」4年後の1966年にシアトル生まれで日系2世の建築家ヤマサキミノル (1912〜1986)の設計が、世界貿易センタービルに採用されたニュースが発表され、心を躍らせた。戦後の日本は貧しくアメリカでのヤマサキの活躍を誇りに思った。当時はローワーマンハッタンのチェンバーズ・ストリートにスタジオがあって、ツインタワーが上へ上へと建設されていく様子を人工のキリマンジャロのように美しいと眺めていたという。

 中川さんの作品「Stars of the Forest: Elegy for 9/11」(森の星たち: 911への哀歌、2001年、キャンバスにアクリル、76×108 inch.)は、2019年に所蔵していたギンズバーグ家から博物館へ寄贈され、同時多発テロ発生から20年後の2021年に常設展示された。飛行機がタワーに突っ込んだのをみる直前、絵の具を混ぜていた。ハドソンバレーに浮かぶ美しい星形の苔を描いていたのだが、テロを目撃したことにより、この絵はアメリカを讃え、犠牲者を哀悼する作品となった。色は国旗の赤・青・白を使い、星は犠牲になった人々の魂だ。そして勇気、決断、強さ、愛の象徴としてうっすらと十字架が見える。

 彼は、現在も人生の意味を追求する絵を描き続けている。「193+2」(2020年)は国連加入の国々をそれぞれ国花で表している。「People of the World」(2022年)ではAIロボットを含めた地球上の全ての人々80億人を1枚の絵に表され、黄色と青はウクライナに捧げている。(佐藤恭子 キュレーター)Jake Price撮影