ハドソンヤードで6月7日から
ニューヨークに長く拠点を置き、今年3月28日に71歳で亡くなった坂本龍一さんの複合現実(バーチャルリアリティ:VR)コンサート『KAGAMI(鏡)』が、6月7日(水)から7月2日(日)まで、ハドソンヤードにある劇場ザ・シェッド(西30丁目545番地)にて開催される。
坂本さんとVRコンテンツ制作スタジオ「ティン・ドラム」のコラボで作られたKAGAMIは写真と現実世界を融合させ、これまでに経験したことのないVRを表現する。観客はVRヘッドセットを装着し(14歳以下は不可)、バーチャルな坂本がピアノで演奏する様子や、音楽に合わせた立体的アートを鑑賞するもの。演奏曲は坂本の代表作品である「エナジーフロー」や「メリー・クリスマス・ミスター・ロレンス」、「種をまく人」など10曲。観客は1時間のコンサート中、自由に動くことができる。
入場料は一般38ドルから、学生・シニア33ドルから。最初の3日間のみ一律28ドル。詳細はウェブサイトhttps://theshed.orgを参照する。
監督の言葉に耳を疑い七転八倒した坂本さん
2017年3月17日に日本クラブで坂本龍一さんをゲストに迎えた対談形式のトークイベントが開催された。ジャーナリストの津山恵子さんが坂本さんの仕事と日常を聞いている。本紙の当時の紙面から先ごろ亡くなった坂本氏へのオマージュの思いを込め、再掲載する。
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ニューヨーク在住の音楽家、坂本龍一さんの対談形式の講演会が17日夕、日本クラブで開催された。
坂本さんは音楽ユニット、イエロー・マジックオーケストラのメンバーとして活躍後、数々の映画音楽を手掛け、作曲家としてアカデミー賞を受賞するなど世界的な評価を得ている。講演会では、生い立ち、出会い、音楽を含むさまざまな活動やその思い出について語った。
対談したジャーナリストの津山恵子さんが「坂本さんが手掛けた映画音楽は26本にのぼる」と話題を振ると、印象深い思い出として、アカデミー賞受賞作品『ラスト・エンペラー』で組んだベルナルド・ベルトリッチ監督から93年の映画『リトル・ブッダ』で「世界一悲しい曲を作って欲しい」と頼まれた時のエピソードを面白おかしく披露した。
坂本さんが依頼に添って悲しさ満載の自信作を持っていくと、監督は「まだ悲しさが足りない。世界中の人が悲しみうちひしがれるような曲を作ってほしい」と頼まれる。坂本さんは、自宅の床に転がるほど悔しい思いをしながら再び「世界一悲しい曲」をこれでもかと持っていく。それでも監督は首を縦に振らない。3度目の正直で曲を持っていくと監督は一言。「悲しすぎる」。
「だって、あなた世界一悲しい曲を作れといったじゃないですか」と食い下がると監督は「これには『希望』が見えない」とボソリ。「え?」坂本さんは耳を疑った。「希望?ちょっと待ってください。希望なんて言葉いま初めて聞きましたけど?!」。最終的には監督に納得してもらう曲を作ることができたが、何十作も映画音楽を手掛けて分かったことは「映画監督はみんなそういうところがあるってことですね。昨日言ったことと今日言うことが違うなんてことはざらです。ただ、自分はニューヨークの生活で『引き籠り』に近い生活をしていて、家の中で1日に20歩くらいしか歩かないこともあるくらい。家の前に美味しいレストランがあるので家とそこの往復だけみたいな。ブロックを超えていくようなことのない私が、そういう映画音楽のような(社会の縮図のような)世界と接点を持つことでバランスを保っているようなところがある」などと語った。
また環境問題などにも発言する坂本さんは「同じ水でも美味しいからといって遠く外国から運んでくるようなコストのかかったものは、アプリでチェックしてなるべく選ばない、環境に優しいものを選ぶような生活を心掛けている」などと生活信条も披露した。