在米日本人医師に聞いた川崎病とは
親としてできること
主治医と連絡密に
これまで小児医療界のさまざまな症例や実証によれば、コロナウイルスに感染したときの子供の症状は全体的に軽度であり多くの場合は罹っても無症状であることを示していた。ところが最近、ニューヨークとその周辺で発生しているCOVID-19の症例に関連していると思われる小児マルチシステム炎症症候群の場合は、子供でさえCOVID-19に関連した生命にかかわる病気になる可能性が高いことが証明され始めている。川崎病でも同じことが言えるだろう。
子どもを持つ家族の間では、子どもと言えども症状が非常に強い関連性を持つことから、生命にかかわる危険な状態になるかもしれないという不安や心配が急増している。
50年ほど前に日本で発見された「川崎病」は、主に0〜4歳ぐらいの赤ちゃんが急な発熱ではじまり、全身の血管に炎症が起きるという病気で、その原因は今でもよく分かっていないが、症状が似ていることや何らかの感染症的要因が関係しているのではないかと考えられていることから、やはりCOVID-19に感染すれば、生命にかかわる病気になる可能性もあることを知っておくべきだ。
では、親として今、何ができるのか?
それは、何といっても、COVID-19 を発症させないことに尽きる。それ以外に小児マルチ炎症症候群を防ぐ方法はない。つまりお互いに 2メートルの距離(ソーシャルディスタンシング)を保ち、よく手洗いをする、公共の場所では必ずマスクを着用するといったことだ。(但し、2歳未満の幼児のマスク着用は避けること)。
症状が出てくる場合、急性疾患の子どもが PCR検査の結果陽性となり、その後回復して抗体ができた後に、この小児マルチ炎症症候群となることが多いようだ。防御的効力をもたらすと考えられているCOVID-19の抗体が、実際には、免疫過剰反応の結果、逆に身体の症候群を引き起こしている可能性がああるケースも指摘されている。親がこうした状態を認識して、常に子どもの様子を入念に観察しておくことが必要だ。発熱、嘔吐、疲労、腹痛、発疹、皮膚の色の変化、下痢、食欲の低下、無気力症状、レーシングハートと胸の痛みなどががみられないか。普段から子供の表情、反応、顔色などを注意する必要がある。この場合COVID-19 でよくある呼吸器疾患などで無症状である場合は表面的には観察できないことがあるので、この点注意が必要だ。何か異常が認められた場合は、速やかにかかりつけの医師(主治医)に報告し、指示を仰ぐことが重要だ。(加納麻紀/東京海上記念診療所・内科・小児科専門医)
多くの患者が退院
最善な医療で回復
パンデミックがはじまって1か月してからこの症候群が見られはじめたことから、ウィルス感染そのものによるのではなく、ウィルス感染により免疫系に何らかの異常をきたすことにより引きこされた炎症反応という見解が優勢だ。症状は様々で、唯一の共通しているのは発熱、その他は腹痛や下痢、結膜炎、発疹、全身の筋肉の痛み、重症例は血圧低下を伴うショックなどで特記すべきは呼吸器症状を来す症例は3割程度と、成人の新型コロナウィルスの症状とかなり差があることだ。血液検査では、炎症系マーカーが高値であること、白血球と赤血球の低下、凝固系統の異常、症例によっては腎および肝機能の異常、そして心筋障害の時に見られるトロポニンという値の上昇が見られる。今まで報告された症例で全例が心エコーを受けたわけではありませんが、心機能が正常な人、軽度、中等度、重度に心機能が落ちている人、冠動脈が拡張している人といない人など、所見は様々だ。
治療法については、川崎病に似た症例は免疫グロブリンとその他重度川崎病で使用される免疫抑制剤を使用、その他のショック状態の症例にはステロイドおよびその他免疫抑制剤を使用する。それ以外は症例にごとに必要な支持療法です。全例が人工呼吸器が必要な訳ではありません。体外式幕型人工肺が必要な患者や死に至ることは稀で、多くの患者が退院している。
新型コロナウィルスの感染者数がこれだけ増えれば、免疫系に異常が起こり、こういう症例が出てくるのは仕方がないと思う。既述の通り、新型コロナウィルス感染で子供が重症化することは稀なため、各地の小児集中治療室にはまだ余裕があり、主要な小児病院ではパンデミック前から重症患者を24時間受け入れる体制が整っているので、最善の医療が提供できている。私が心配するのは新型コロナウィルスを恐れるあまり、全く外出せず、お子さんに症状がで始めても小児科医になかなか受診しない人が出てきていることだ。何か心配なことがあれば、かかりつけ医に電話やテレヘルスですぐに相談して、必要と判断されれば、指定された小児専門の施設に連れていって欲しい。残念ながら、自粛生活を続けることと、徹底した手洗い、顔をあまり触らないなどどの予防以外はない。この症候群は極めて稀であること、万が一この病気になっても最善な医療が提供でき、多くのお子さんが回復していることをお伝えしたい。(佐々木奈央/マイアミ小児病院、ニコラス小児病院循環器科)
大人が子供に感染させないこと
小児での感染例、重症例は成人に比べて少ないが、感染拡大に応じて、一定数の小児重症患者が増えてくるのは、確率論的に避けられない。手洗い、目鼻口を触らない、自宅待機などの一般的な予防法以外にこれといったものはないと思う。小児の場合、小児から感染を家庭内に持ち込んで広めるパターンよりは、大人が先に感染して、そこから子供も含めた家族内感染で起こっているパターンが多いようだ。学校が休みの現在、その傾向はより顕著になっていると思われる。まわりにいる大人がまず感染をもらわないようにするということも大事だ。(大宜見 力、シアトル小児病院・ワシントン大学 小児感染症科)
川崎病と同様の治療
COVID感染予防が第一。基本的には飛沫感染なので、大きい小児でマスクができる子は外出時マスクを着用 (もちろんできる限り人との接触を避ける)小さい小児では、外出を避け、自宅でもCOVID感染の可能性のある人との接触をさける。発熱と腹部痛、または発疹があれば、かかりつけの小児科医に連絡、場合によってはテレメディスン(遠隔治療)での診察が必要。通常の川崎病より発症年齢が高いのに加えて発熱のほかに、腹部痛がより多いようだ。非典型的発疹があり、川崎病同様の結膜充血、イチゴ状舌といった粘膜症状が見られることがある。呼吸器症状は少ないようだ。臨床的に注意すべきは左心不全と冠動脈瘤。基本的には、治療法は川崎病と同様にIVIGと、ステロイド、そしてAnakinra が場合によって使用される。予後は基本的には川崎病と同様良好だ。検査結果では、川崎病に比較して、血小板が軽度減少している例が多いことと、D-dimerの上昇がより顕著である印象がある。急性期の一時的な左心機能低下の例が通常の川崎病より多い印象だが、これはICU入室者しか診察していない選出のバイアスかもしれない。(西崎彰、フィラデルフィア小児病院の小児科)
妊婦の注意、医師に相談を
妊婦で発熱、咳、味覚消失、嘔吐下痢などがある場合は、COVID-19感染も考慮し、COVID-19の検査する必要がある。妊婦で無症状の人も、COVID-19感染者と接触がある場合など、COVID-19の検査をすることがある。もし妊婦が陽性であるならば、お産やその後のケアを通して、新生児に感染するリスクを減らす対策が必要だからだ。一般的には妊婦から赤ちゃんへの感染(垂直感染)はあまり起こらないとされているが、お産の近い妊婦は産科の医師・助産婦さんとご相談することをお勧めする。(樽井智/タフツメディカルセンター小児神経科医)