日航機の乗客脱出
羽田空港航空機衝突事故で海外の報道
1月2日に羽田空港で起きた日本航空350便の旅客機と海上保安庁の飛行機の衝突事故は世界各国でも報じられた。
事故では海上保安庁の乗組員5人が死亡した。日航機(エアバスA350-900型機)は乗客367人と乗員12人の全員が生還した。1月2日付ニューヨーク・タイムズ電子版は「奇跡:飛行機が爆発炎上して東京に着陸、しかし乗客全員は生き残った」とのタイトルで報じた。
同記事ではスウェーデン人男性の「数分で客室全体が煙で満たされた」「私たちは床にひれ伏した。そして非常扉が開かれ、私たちはそこに向かって身を投げた」という当時の状況を語る証言を掲載。「日本航空は、おそらく多大なプレッシャーにかかっていたであろう状況下で、乗客367人を避難させることができたとして称賛を集めた」と報じた。
また、この避難について英国グリニッジ大学教授で防火工学グループの責任者であるエド・ガレア氏が「奇跡的な仕事」と述べたことを紹介した。飛行機は前脚が折れ、機首が下がり尾翼が上がっている斜めの状態だったため、使用された出口は3つだったが全員が避難できたことを称賛している。日本航空の乗務員は90秒以内に乗客全員を避難させるよう訓練されているという。
記事では、各座席に置かれている安全指示書を作成する会社であるインタラクション・グループのトリシャ・ファーガソンCEO(最高経営責任者)の話も掲載。荷物を取ろうとする人や自分勝手な行動を取る人がいると迅速な避難が難しくなる。乗客全員が無事に降機できたという事実は乗客とスタッフの協力がうまくいったことを示しており、ファーガソン氏が「乗組員の反応速度は素晴らしく、彼らがやったことは驚くべきものだった。全員を救出したのは本当に奇跡だ」などとを語ったことを紹介している。航空アナリストのアレックス・マチェラス氏がBBCに対し、日本航空は安全性のリーダーとして知られていると語ったことにも触れている。
(写真)シューターを使い脱出する乗客(テレビ映像から)
乗員は日頃の訓練の成果
乗客は荷物持たずに従う
ワシントン・ポスト紙1月3日付電子版は「激しい日航機衝突事故から379人はいかにして逃れたのか」と題する記事を掲載した。専門家らは避難の際は客室乗務員の指示に従い、荷物を置いていくことが重要だと指摘しているが、今回誰一人荷物を持って出た人がいなかったことを報じた。乗客の一人の「叫び声があがりましたが、ほとんどの人は落ち着いて席に座って待っていました。だからこそスムーズに逃げられたのだと思います」という証言を紹介している。着陸して約20分後に火災が発生したが、その前に全員が避難できた。「全員が飛行機から降りて10分ほど経った頃、爆発音が聞こえました。もしもっと遅く避難していたら、助からなかったと思います」との乗客の声を紹介している。
アジアに本社のある国際線の客室乗務員は匿名で「日本の国内線だったという事実により、避難過程がより簡単になった可能性がある」とワシントン・ポスト紙に語っている。乗客のほとんどは同じ言語を共有しており、指示を理解し、従うことが容易だった。また、この国でよく見られる自然災害への備えとして、日本人乗客は危険と避難について十分な訓練を受けている可能性が高いという見方を伝えている。ただし飛行機には日本人だけではなくスウェーデン人家族や10人ほどのオーストラリア人など外国人も乗っていた。
記事では、脱出成功のおもな要因は世界中の航空会社が乗務員に毎年行っている安全対策に関する訓練とし、航空安全コンサルタントのエイドリアン・ヤング氏の「これは完全に教科書通りの避難のようだ」との言葉を伝えている。ヤング氏によれば、ほとんどの乗客は着陸するとすぐに反射的にバッグに手を伸ばすという。しかしこれは貴重な時間を費やし乗客の脱出が遅れることになる。今回、脱出シューターから出てくる乗客はほぼ誰も荷物を持っていなかった。
もう一つの重要な要素は現代の飛行機設計の改善であるという。ヤング氏によれば、今回のA350などの最新の航空機で使用されている複合材料は「煙の発生が遅くなるか、煙の発生が少なくなる」という。ウォールストリート・ジャーナル4日付電子版は「なぜ乗客全員が安全に避難したのか」という題する記事の中で航空の安全がどのように進歩し、飛行機の設計が彼らの生存を確保するのに役立ったかを説明している。CNNテレビは乗客に犠牲者がいなかったことについて「驚くべきことだ」と伝えた。専門家は乗客が荷物を持たずに脱出シューターから機外に出ていたことなどを挙げ、「お手本のような対応」だったとしている。