乳がんを機に健康を守るお手伝い

日本語ナビゲーター/
アフォーダブル・ケア・アクト 原 貴子さん

 乳がんを偶然に自分で見つけ、「アフォーダブル・ケア・アクト」(通称オバマケア)によって命拾いしたという原貴子さん。ニューヨーク州が運営するオバマケア日本語ナビゲーターとして活動している。
 ニューヨークはロンドンに次ぐ夫の海外赴任地。乳がん発見は、娘の教育のために母子二人で米国に残ることにした2014年秋のことだった。寝転んで雑誌を読んでいる時、脇の下のしこりに気づいた。日本で健康診断を済ませたばかりだったが何となく気になった。難病とされる潰瘍性大腸炎をかかえ定期的に鍼灸に通っていたので、数日後の施術の際に鍼灸医師に触ってみてもらうと、「検査したほうがいい」との答え。日本人の友人に話したらすぐさま車で病院へ連れて行ってくれ、バイオプシーを受けた。診断は「トリプルネガティブ」。抗がん剤と放射線の治療を受ける必要があるという。抗がん剤治療で苦しんだ父親の姿を見ていたから、頭が真っ白になった。加入していた海外旅行保険は長期治療をカバーしないし、娘を誰かに預けて帰国するわけにもいかない。日本にいる夫が長期休暇をとるのは難しい。意を決して娘に話すと「ふーん」と無反応だったが、数日後に娘の友人の両親が、病院での英語など不自由だろうと駆けつけてくれ、オバマケア加入を勧めてくれた。「オバマケア?」原さんは全く知識がなかったが、その米国人夫妻がすべて書類を整えてくれ、結果として、摘出手術と抗がん剤治療を安価で受けられた。治療は本当に辛かったが、「乳がんを機に、物をおいしく食べられること、家族や周囲の支えなどに、より感謝できるようになった」と原さん。米国での健康保険の複雑さや医療費の高さを痛感した。
この体験から、翌年には乳がん患者を支援する非営利組織SHAREのボランティア活動に参加し始めただけでなく、新設されたオバマケア日本語ナビゲーターの仕事に応募して、講習を受けた。この業務は、ニューヨーク日系人会(JAA)がアジア系米国人を支援する非営利団体(CACF)に要請したことで生まれた。
 相談に来る人は年々増えている。原さん自身は「米国の保険料は高すぎる」と感じるし、オバマケアとはいえ所得によっては格安ではない。ただニューヨーク州は特に子供や妊婦への優遇措置が充実していて加入期間の制限なく随時加入できるという。実は私も、原さんのような日本語ナビゲーターの恩恵を受けた一人。同保険のありがたみを実感している。(小味かおる、写真も)
■今年の登録期間は1月31日(木)まで。問い合わせは電話646・862・7792まで。低所得者用、単身者用など個人用などのプランもある。