キュレーター 佐藤 恭子さん
3月20日に新型コロナウイルスの感染拡大により自宅待機令がニューヨークで出された後、芸術家は作品の発表の場を失ったが、一方でオンラインによるビデオ発表やアーティストトークなどは盛況だ。アートは人々の生存のために必要不可欠と、自分ではエッセンシャル・ワーカーだと思ってともかく休みなく活動し続けている。
現在、イーストハーレムにあるアートセンター、ホワイトボックスのキュレーターとして企画展を手がけている。同画廊で一昨年開催した1950年代から現代までニューヨークで活動してきた日本人芸術家を紹介する「大きな世界を求めて」展は国吉康雄から小松美羽まで55人の作家を取り上げ大きな話題となった。
佐藤さんがニューヨークでキュレーターとしての地位を確実にしたのは、朝日新聞社の窓口として2014年に「メトロポリタン美術館古代エジプト展 女王と女神」を東京都美術館と神戸市博物館で開催する大規模プロジェクトに参加することができたことだった。きっかけは2006年にメトロポリタン美術館で開かれた「ハトシェプスト:女王からファラオへ (Hatshepsut: From Queen to Pharaoh)」展を見て、朝日新聞社と美術館へそれぞれ提案し、8年もの歳月をかけて実現した。なぜあの展示をあのような長い間、諦めなかったのか、時間を経て最近やっと理解ができたという。
一つは2002年からニューヨークに移転した佐藤さんは、東京でとても楽しく経験したキャリアが途切れつつあり自己実現のかけらもなく生きた心地がしなかった頃で、しかも子供を二人産んでいた。それでも自分にしかできない仕事をどうしてもしなければならないと信じて、空から細く垂れているエジプト展へ繋がる糸を掴んだまま離さなかったこと。そしてもう一つはテーマだった。エジプト王妃の胸像を思春期に見たインパクトそのままに、女王や女神というテーマは恐らく佐藤さんの追求するテーマの一つなのだろう。
ホワイトボックス で2018年秋に開催した「コシノヒロコ バウハウスの香り」展には特に力が入った。彼女は何と言っても戦後日本を代表するデザイナーの一人で、女性だ。二人の女の子を産んで離婚、シングルであの地位を築いた彼女の姿が自分と重なったせいもあるだろう。彼女をニューヨークのアートシーンで押し上げるためできることは全てやった。
米大統領選で民主党候補になるジョー・バイデン前副大統領が同士としてホワイトハウスを目指す副大統領候補にカマラ・ハリス上院議員を指名した時は胸が踊った。女性の中のカリスマ性に惹かれる。同時に虐待されたり、暴力を受けたりする弱い立場の女性をサポートしたいという衝動も秘めている。
昨年夏、愛知トリエンナーレ中止直後に開催した慰安婦問題のパフォーマンス開催も、アクションも芸術表現の一つであると理解するようになったからだという、芸術と一般人をと結びつけるアートの水先案内人として「この世の中に少しでも幸せな人が増えることを」願っている。
(三浦良一記者、写真も)