日米交流原点の訪米武士、子孫NYでジャズ歌手に

大久保真理さん

 ニューヨーク在住の日本人ジャズ歌手、大久保真理が26日(水)ザ・ズーチャー・ギャラリーで公演する(詳細は10面イベントガイド)。日本人の生まれながらにもっている感性を生かしながら世界の音楽シーンに通用する現代の本格的な歌(ヴォーカルアート ・ 声楽)を志す。

 イタリアでベルカント修行中にジャズ界の巨匠オーネット・コールマンにその才能を認められ、さまざまな世界のジャズフェスティバルで氏との共演を果たした。オーネット・プロデュースによるCD「 Cosmic Life」も好評発売中だ。今回は、大久保独自のヴォーカルスタイル(オペラ+ジャズ+現代音楽)に オーネット・コールマンが曲を書き下ろしてのライブパーフォーマンスとなる。

 大久保は、160年以上昔にさかのぼる日米友好の原点となる歴史を背負う稀有な存在の歌手でもある。本紙2020年1月1日号に掲載された「海を渡った日本の侍たち」特集記事からそのエピソードの一端を紹介する。

 万延元年遣米使節団は、幕末の幕臣・外国奉行の新見豊前守正興(しんみぶぜんのかみまさおき、40歳)を正使に、副使の同じく外国奉行の村垣淡路守範正(むらがきあわじのかみのりまさ、48歳)と小栗豊後守忠順(おぐりぶんごのかみただまさ、32歳)を筆頭に約80人の侍が米国海軍の蒸気船ポーハタン号に乗り、1860年1月に品川沖を出発した。3月8日にサンフランシスコに到着し大歓迎を受けた。サンフランシスコに9日間滞在した後、船でパナマとキューバを経由してワシントンDCに向かった。ワシントンでは3月28日に第15代大統領のブキャナン大統領に公式に謁見している。一行はワシントンDCに3週間滞在し、6月16日にニューヨークに到着。NYでは街を上げての大歓迎を受けた。ブロードウエーでは正装した侍たちが練り歩く「侍パレード」が行われた。1860年6月19日付ニューヨーク・トリビューン紙には、ニューヨークに来た70人の侍のフルネームが掲載され、それぞれの役目と人物像が紹介されている。

 村垣は、渡米滞在中にかなり詳しい日記を残している。「町を歩くと新聞記者が駆けまわり、3、4階は女性が窓から身を乗り出して手を振り、鐘をならし花を車に投げ入れた。花を贈るのがこの国の敬意を表す習わしだと理解したが、キッスには閉口した」と。 

 その村垣範正の弟、忠篤が江戸幕府の徳川家康の旗本だった大久保彦左衛門の親戚に婿養子として入って生まれた忠弘のひ孫にあたるのが、ニューヨークでジャズ・ボーカリストとして活躍する大久保真理だ。「おまえさんのご先祖は、江戸幕府の使いとしてアメリカに行ったのだよ。覚えておきなさい」渡米前に母親にそう言われたという。 

 田園調布小、中学校、都立駒場高校、東京藝術大へ進み、オペラ科卒業後はローマでベルカント修業中にジャズ界の巨匠オーネット・コールマンに才能を認められ、オペラ歌手からジャズシンガーを目指してニューヨークへ。「先祖に武士がいることは心強い。誇りを持って、胸を張って、わたしはパイオニアではないけれど東西の架け橋を越え、グローバルの枠からも出て、ユニバーサルな歌を歌っていきたい」と語った。(三浦良一記者、写真は本人提供)。