真冬はダッフルコート

イケメン男子服飾Q&A 89
ケン 青木

 このところニューヨークと東京の気温差を比べておりますが、どうやらニューヨークの方が一足先に冬場に突入…ということばかりではなく、冬場の気温につきましてもより厳しいそうな気がいたしております。

 そしてニューヨーク州はまたもや非常事態宣言を発出し、再び警戒態勢に入ったようで心配です。コロナ禍であるかに関係なく、冬場を心身共に暖かく過ごしていくことは”スマイルのある生活”のためにもとても大切なことではないかと思うのです。

 といった次第で冬場のわたし達には暖かくて丈夫な、謂わば”ダッフルコートのような丈夫で温かい防寒着が一着あったらいいですよ、”と言いたいのが今回のコラムの主旨なのです(笑)。

 と言いますのは、私たち日本人男性の中には、どうもダッフルコートがお若い女性向きだと誤解をされておられる方が時よりおられる気がいたしまして。またまた少し歴史について御話することになりそうですが、お付き合いいただけましたら。

 ウール、即ち羊毛で出来た繊維を用いた防寒衣料はヨーロッパにおいて古代ローマの時代より重宝されておりました。それは暑い時には体温を発散させ、逆に寒い時には体温を逃さず温かいという、いわば真逆の性質を持つ繊維であることが昔から知られていたのともう一つ、羊毛は植物繊維である綿や麻に比べると繊維が鮮やかに染まり、しかも色褪せないのですね。

 但し、大きな問題が一つありました。それは羊毛を糸にしたり、染色したり、繊維として製品化していくためには何よりも水が大切、しかも軟水でなくてはならなかったのです。御存知の通り、ヨーロッパ大陸においては飲料水は硬水が多く、フランスのエビアンなど有名ですが、数少ない軟水が採れる推計にダッフル川があったのです。Duffleと綴りますが、ダッフルコートのDuffleとはベルギーのアントワープ近郊にある街の名であり、またDuffle Riverという川の名でもあり、そして水質がヨーロッパにおいては多くはない軟水であり、昔からというより中世以来ヨーロッパにおける毛織物の産地として名が知られていた、それがダッフルDuffleという街の特徴であったのであり、そのためダッフルで織られた実用的、しっかりした実用的な毛織物の中でも特に厚手の冬場向きの生地をDuffle Clothと通称し、そのダッフルクロスで作られたのでいつしか”ダッフルコート”と呼ばれるようになったのでした。

 そして、デザインについてですが、おそらく皆さんの中にスターウォーズのエピソードⅣを観られたことのない方はおられないのでは?と思いますが、その映画の前半において、アレック・ギネス演じるオビワン・ケノービが初登場のシーンを覚えておられるかと思いますが、彼がフード付きのコートを着ていたこともおそらく覚えておられるのではと思います。

 スターウォーズにおける衣装は、ルーク・スカイウォーカーの、日本の柔道着などの武道の影響を受けたと言われる衣装デザインはじめ、さまざまないわく因縁、歴史の影響を散りばめたものであったのであり、オビワン・ケノービのフード付きのコートにつきましてはも実は中世のカトリックの修行僧が着ていたコートがデザインソースであったと言われており、そしてその事実はダッフルコートについてもそのまま当てはまるのですね。

 ダッフルコートがほぼ今日の様なデザインとなったのが19世紀の半ばと言われており、当時のポーランドの槍騎兵着用のフロックが大きな影響を与えたという説があるのですが、今までの話しから、かつてダッフルコートがどちらかと言えば身分の高い方向けであった歴史があったことが御理解いただけるのでは、と。そのため、英国の軍隊においてダッフルコートは士官以上でないと着れなかったのです。映画”第三の男”のトレヴァー・ハワードもそうでしたね。実在の人物では第二次世界大戦時に北アフリカにおける連合国軍の最高司令官の一人、英国陸軍のバーナード・モンゴメリー将軍が着用してのが象徴的でしたね。

 以上の様なポイントが、素材が似ているピーコートとの大きな違いであるとお申し上げてもよいでしょう。寧ろ、ダッフルコートは大人の男性にこそ相応しいこと、御理解いただけましたでしょうか。次はピーコートについても触れてみたいと思います。それではまた次回。

 けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。