今日本では、「年収103万円、106万円、130万円の壁」が政治問題となっています。「壁」とは、夫に扶養されてパートなどで働く主婦らが、税金負担などを避けるために勤務時間を伸ばせない年収額のことです。この「働き控え」となる年収の額は、それを超えると所得税が生じる103万円の他、超えると年金や健康保険の支払いが生じる106万円と130万円など6つと言われます。10月27日の総選挙で躍進した国民民主党の政策を自民党と公明党の少数与党が受け入れて、103万円を超えることは合意しました。
近年の最低賃金の上昇に伴い、パート社員が壁に達する勤務時間は短くなっており、「手取り額」の減少で生活が苦しくなっても勤務時間を伸ばせない働き控えが増え、企業にとっても人手不足の一因となっています。
しかし、国民民主党が主張する178万円の引き上げでは税収が7兆6000億円も減り、教育費や医療費などが減少する全国知事会などから慎重意見も出ています。政権維持のために、28名の国会議員による国民民主党の要請を受け入れたものの、財源も不明で、値上げ幅は今後の交渉次第です。
根本的な問題は、今の税と社会保障は、働く夫を妻が支える「片働き世帯」を前提に設計されていることです。会社員や公務員の妻で年収が一定以下なら保険料負担なしで国民年金や健康保険に加入できる「専業主婦の無年金対策」の制度もあり、労働組合の代表の連合は、今年段階的な廃止を提案しました。
「主婦は働けない」制度設計を、今の夫婦共働きの時代にあった制度に変更することが重要です。介護職員の待遇改善など育児や介護を社会で担う仕組みを整備し、長時間労働の男性社員の働き方を変えて育児休暇をしっかりとれる政策と社会作りが必要です。
11月6日の米国大統領選挙と10月27日の日本の総選挙の共通点はStatus Quoの否定だと思います。特に日本では、これまでの一党支配から群雄割拠状態にある各政党が、来年7月の参議院選挙までは、政策を国民に競う「政策コンテスト」の期間を迎えます。
これを機会に、国民の「手取りを上げる」とともに、若い人々の負担感も解消して、全世代が負担を分かち合う税と社会保障制度の抜本的改革の道筋をつけてほしいと思います。
ふじた・ゆきひさ=慶大卒。世界的な道徳平和活動MRAや難民を助ける会で活動した初の国際NGO出身政治家。衆議院・参議院議員各二期。財務副大臣、民主党国際局長、民進党ネクスト外務大臣、横浜国立大講師等歴任。アメリカ元捕虜(POW)の訪日事業を主導。現在国際IC(旧MRA)日本協会会長。岐阜女子大特別客員教授。