NY舞台のホテル小説

ケニー・オクタニ・著

アメージング出版・刊

 著者のケニー・オクタニさんこと奥谷啓介さんは、慶應義塾大学卒業後、ウエスティン・ホテルズに入社、1989年に日本を離れ、シンガポールとサイパンの系列ホテル勤務を経て1994年から2005年までニューヨークのプラザホテルのアジア地区担当部長を務めた。NY着任1年目にはプラザ合意10周年の式典があり、日本から日本側代表だった竹下登元総理らを迎えるなどホテルマンとして世界の要人に仕えた豊富な経験を持つ。2005年に独立してからは、日本を拠点としたホスピタリティービジネスのコンサルタントとして活躍している。

 そんな奥谷さんが、アメリカのホテルの歴史を背景にした大河小説をこのほど上梓し、日本のアメージング出版から『ニューヨークホテル物語』として世に送り出した。

 アメリカのホテルの歴史はニューヨークを舞台にして発展してきた歴史といってもいい。奥谷さんによると、1929年の大恐慌の時、アメリカの当時のホテルの約8割が倒産したという。1909年創業のヒルトンも危機に見舞われたが、倒産したホテルを買い集め乗り切るが、その中にはルーズベルトホテル、プラザホテル、ペンシルベニアホテル、50年代に入ってからウォルドルフアストリアホテルの4ホテルを傘下に納めた。1883年にできたプラザホテルは、1907年にエレベーター付きの17階建ての現在の建物に改築されたが、当時は旅行専用のホテルではなく、大富豪のアパートレジデントとして使用されていたために大恐慌を乗り切りることができた。ヒルトンが業績を伸ばす一方で、中小の倒産したホテルを統合してマネジメントを集約するという全く異なる手法で業績を伸ばしたのがウエスティンホテルグループだった。後年ヒルトンもウエスティンホテルシステムに切り替えるが、小説では、プエルトリコからの移民で市民権を得てプラザホテルのベルキャプテンを務めた男が主人公。その娘が、コーネル大学のホテルマネジメント学部を卒業後入社し、インターネットとウエブサイトを駆使したレべニュー・マネジメントを導入してホテルを救う話だ。ホームページに誘導するサテライトウェブを1件あたり300個近く作ってネット上に流し、そこから全てホームに予約メールとして導くシステム。ビジネスのヒントも満載だ。  (三浦)