岸田政権の行き詰まり、問題は停滞感

 各メディアの世論調査で、岸田内閣の支持率が大きく下がっている。30%とか、調査によっては26%台などという数字もある。下落の勢いが止まらない中では、20%割れという予想すら横行する始末だ。総理としては「あわよくば年内に解散」と思っていたフシがあるが、さすがにこの数字では先送りするしかない。

 直接の原因は3つあるようだ。1つは、イスラエルとパレスチナの対立において、中立的な立場がテロリストに対して「生ぬるい」として若い世代に不評だという。これは中東問題に一貫して中立政策を取ってきた戦後日本の「国是」が、若い世代に伝わっていない結果だが、総理として説明が圧倒的に不足している。パレスチナとハマスを区別しなくては議論は不可能だが、この点を含め、改めて総理が説明すべきであり、その意味では政権としての失点とされても仕方がない。

 2つ目は、減税案である。順序としてはこうだ。岸田総理はまず「異次元の子育て政策」を宣言した。だが、実際は財源を増税で賄うことが露見し、特に子育て世代には給付と増税が相殺されることが明らかとなった。制度の設計ミスであり、財務省の財政規律に引きずられた結果である。ここで岸田総理には「増税メガネ」という有り難くないニックネームがついた。これを挽回しようと定額減税を提案したのが不評となっている。

 岸田氏は世論の怒りを理解していないようだが、給付、増税、減税と二転三転したことで「定見のなさ」を全国に明らかにしたのは問題だ。例えば子育て政策にしても、政策の方向性を定めて進むのではなく、世論の不満に対して対処療法を二転三転させるだけの受け身姿勢である。想定された受益者の益にならない制度を提案して、その愚かさに気づいていない。これでは世論が怒るのも当然だ。

 3つ目は、円安だ。円安政策といえばアベノミクスが原点だが、現在の円安政策は本質が変化している。まず、安倍政権時代には基本的にエネルギー価格が安かった。最大の輸入品であるエネルギーが安い中であるからこそ、円安を進めて輸出産業を潤わせ、その経済効果を内需に及ぼそうというストーリーは成立していたと言える。

 だが、現在の円安政策は質的に異なる。まずウクライナ情勢を受けて、エネルギー価格は高騰し、これに円安が重なることで、輸入品だけでなく輸送費なども暴騰している。つまり物価高といっても、デフレを脱する好循環にはなっていない。では、円安を止められるのかというと、多国籍企業の円ベースの業績が崩壊してしまうのでできない。もっと言えば、今の状況で円高になれば改革の遅れた日本の本社間接部門の事務コストが膨張し、多国籍企業の空洞化は更に加速するであろう。

 この3点目が一番深刻だ。アベノミクス的な円安効果は期待できない一方で、緩和政策の出口もなかなか見出しにくい。そんな中で、植田日銀はよくやっていると思うが、問題は岸田政権がこの点において、大局観もなければ直近の見通しも発信できていないことだ。

 直接的な原因としては、「新しい資本主義」など、岸田政権で「理念らしきもの」の発信に腐心していた木原誠二前官房副長官が政権を去ったことも大きいようだ。「新しい資本主義」というのは、左派政策と右派政策をごちゃ混ぜにした結果、「毒にも薬にもならない屋台村」と化した経済政策であったが、現在はそうしたレベルの発信すらできていないのであって、危機的状況と言える。

 ここで留意したいのは、トップの首をすげ替えても「同じことが起こる」という可能性だ。例えば前任の菅義偉総理の場合は、あそこまでパブリックスピーチの訓練が間に合わなかったとは誰も思っていなかった。その前の安倍総理の場合は、右派に重心を置きつつも、右派の嫌う日韓合意、譲位改元などをスムーズに進めるといった逆のサプライズを実現している。とにかく、政権というのは変えれば良いというものではない。ポスト岸田に名前の上がっている面々は、もしも政権に野心があるのなら、明確な政策と信頼に足るブレーンを含めたチームを世に問い、何よりもトップの対話力を示して欲しい。もうこれ以上の政治の停滞は許されない。傷だらけの日本経済を、更に奈落へと近づけるのは止めていただきたい。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)