衆議院議員選挙が10月15日公示、27日投開票で実施される見通しとなった。選挙のたびに思うのだが、何としても在外有権者の利害代表を国会に送りたいと思う。以前に問題提起したのは、在外票を固めて参院の全国比例代表に1議席から2議席を送るという構想だ。けれども今回は衆院選であり、この方法は使えない。衆院の場合はとにかく、一番大事な小選挙区において、在外票がバラバラになってしまうのは困る。ここは、制度の改正を伴う問題であるが、在外選挙区というのを衆議院の小選挙区に1枠から2枠設定してもらい、その選出議員が在外日本人の利害代表として国会で活躍してもらうのが良いように思う。
仮に2議席を確保できたとしたら、地理的な区分で2選挙区を分けるのではなく、在外の通算年数で10年以上はA選挙区、10年未満はB選挙区と分けるという考え方もある。在外年数が短い人は、その多くが日本に本帰国する可能性が高いし、子どもの教育や企業との関係など日本在住時の利害関係を引きずっている、その場合は、このA選挙区の議員を選ぶ際には日本の政権選択に近い判断になるであろう。一方で、10年以上ともなれば在外の生活環境に定着しており、日本との関係は出入国や税制、老親のケア体制、老後の本帰国など特定の問題になっていく。こちらのB選挙区の代表は在外日本人のニーズに即した動き方をしてもらうことになる。勿論、AとBに共通の利害となる事項については、連携して2議席のパワーを活かして動いてもらうのだ。
では、実際に在外邦人として、何をどう要求してゆくかだが、問題は多岐にわたっている。その中から今回は4点挙げてみたい。1つはマイナンバー制度である。在外生活を送る場合にはマイナンバーは特に必要はないが、それでも過去に番号を振られた人から順にマイナンバーを活かす動きが出ている。ただ、マイナンバーが日本の銀行口座と紐づけされた途端に「非居住者」だと判明して口座閉鎖に追い込まれるケースがあるという。政府や銀行が海外逃亡中の凶悪な詐欺団や強盗団と対決しているという事情は理解できる。だが「マイナンバー」というのは、そうした悪質な人物であるかないかを判別するのも一つの機能であるはずで、正直に紐づけたら口座閉鎖というのはおかしい。
2つ目は、国際売春組織の存在だ。近年、単身で来米した日本人女性が、入管で厳格な取り調べを受けるケースが続出している。本人には全く非がないのに犯罪者扱いという不快な経験になる。それもこれも、悪質な売春組織が日本人女性を勧誘しているからで、その取締りが不徹底なせいだ。日本の警察は送り出し側の問題として当事者意識を持って米国当局と協力し、この種の問題を根絶すべきだ。とにかく日本人女性が単身渡航すると、売春予備軍とみなされて「別室送り」となるのは異常である。
3点目は税制の問題だ。在米年数の長い邦人が日本に本帰国して居住者になれば全世界合算課税となるのは当然だ。だが、その後に配偶者が死去して一定額の遺族年金(例えば社会保障年金の夫婦の差額の半額など)の受給権が残った場合に、現在の日本の税務署は「相続財産」だとして、残された人の平均余命までの通算額に相続税を課すという。これは余りに理不尽だ。
4点目はパンデミック対応だ。SARSやエボラ出血熱のような強毒性のウィルスであれば、日本は島国の特質を活かした感染対策をするのは当然だ。だが、コロナ禍に際してはウィルスが弱毒性だと判明した後も、在外日本人には検査を義務付けたり、アプリで追跡したり入国後も病原菌扱いした。それどころか外国籍者は一切シャットアウトして、例えば国際的な構成の家族を引き裂いて平然としていた。根拠は非科学的であり、国内の感情論に迎合した結果だ。この種の弱毒性のパンデミックの場合は、二度とこのような排外心理に迎合した鎖国を許してはならない。
この4つの問題は、国内在住の日本人にはなかなか理解の難しい問題だ。だが、在外日本人には深刻な問題であり、日本の立法府に改善を求めるには何としても代表を送り込むしかない。今回の選挙を、こうした問題を考える契機としてはどうだろうか。(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)