父親が書いた解説書

住山一貞・著

ころから・刊

 米国同時多発テロで当時富士銀行勤務だった息子の陽一さんを失った東京都在住の住山一貞さん(86)が、パンデミックを超え4年ぶりにマリ夫人(84)とニューヨークを訪れた。米国がまとめた報告書を日本語に翻訳し、さらに解説をつけた本を住山さんが発行したのは2022年4月だった。事件以来2019年まで毎年来ていた追悼式典。「これが最後かもしれないです」と編集部で語る住山さんは、刊行当時にこう手紙に記していた。

 「私は1937(昭和12)年生まれで、定年まで金属メーカーに勤めましたが、英語とは縁のない生活をしてきました。その私が、膨大なボリュームの「911調査委員会報告書」を翻訳したいと思ったわけを記します。テロ事件から4年後、米議会が超党派でテロ事件の真相に迫った報告書「911調査委員会報告書」と遭遇しました。「遭遇」とは少し大袈裟に聞こえるかもしれませんが、まさにその通りでした。

 私たち夫婦はほとんど毎年、9月11日の追悼式典にニューヨークを訪ねていますが、息子の遺体はほんの小さな断片が発見されただけです。検視官の言葉では、残りはEvaporate (蒸発)したというのです。そうであれば、息子はニューヨークの街の空気の中に漂っている、行ってやらねば、との思いからでした。

 そうして何度か9月11日のニューヨークを訪ね、2004年の追悼式典の帰路、JFK空港の売店に「報告書」がテーブル一杯に平置きされて売られていたのです。全文が英語のレポートなので読み通すのは難しくとも、拾い読みくらいは出来るだろうと、そこから一冊を求めました。息子の遺体が発見されないなか、テロの真相を知りたいとの思いから567ページにおよぶ英文の「報告書」を読み始めました」と。

 米国の報告書なので、日本人のことなど個別の外国人の犠牲者に関する調査などはないため、住山さんが解説で補足してある。「この本を書いた動機は、事件当時、日本でさまざまな陰謀論が沸きおこったことに対する強い反論なんです。また事実と異なるフェイクの流布の再発を阻止する力になるだろうと思ったこと。そしてそれは、犠牲者の方への何よりの供養となる」と述べた。「この本は、日本で買えば4000円近くする高い本になってしまった。アメリカで買ったらきっともっと高くなってしまうのではないかと思い、この本をニューヨーク日系人会に寄贈したいのです。お渡しいただけますか」と頼まれた。自筆で、印刷の訂正漏れをペンで記入して、訂正箇所・住山一貞とサインした。この本は、本紙今週号の書評欄で掲載されたあと、NY日系人会事務局に届けられ、JAAの図書コーナーで誰でも自由に読むことができる。日本語で残された米国の同時多発テロ調査委員会報告書がJAAに残る。  (三浦)