20世紀の広告黄金時代

Jim Heimann & Steven Heller・著
TASCHEN・刊

 ミッドセンチュリーとは、直訳すれば『世紀の半ば』。いろいろな世紀にそれぞれのミッドセンチュリーがあるが、この本は、20世紀半ばの1950〜60年代の古き良き時代に、アメリカを発祥として生まれたデザインの数々が広告を通していかに売られていったかを当時の広告やポスターをまとめて紹介している広告図鑑だ。

 生まれた商品は豊富な資源と新進気鋭のデザイナーにより、成形合板やプラスチック素材を使った軽快で、曲線的なデザインが特徴だった。第二次世界大戦終結後、アメリカ軍兵士が帰郷し、多くの若者が家庭を持ったために住宅ブームが巻き起こり、それに連れて家具の需要が増えた。また空襲で荒廃したヨーロッパに変わり、本土が無傷なアメリカが世界産業の中心になったため、世界の需要を一手に引き受ける生産力を持ち、同時に大戦中の技術革新などが影響し、大量生産の技術が確立、コストが削減出来、安く生産できるために需要を満たすことができた。

 結果として、本格的な消費時代に突入、需要が拡大した。作れば売れる時代の到来だ。それらの需要拡大の結果、消費者は従来に増してデザイン性の有る商品を望むようになり、ニーズに応えるためアメリカで質の高いプロダクトが製作されていった。これらの膨大な知の産物を大衆市場に売り込むために大きな役割を果たしたのが広告だ。

 活躍したのはMADMENと呼ばれる男たち。マッドといっても狂人という意味ではない。広告代理店は時代の花形職業となり、雑誌、新聞、テレビ、ラジオの広告は、ニューヨークのマジソン・アベニューにオフィスを構える大手広告代理店が時代を先導しながら夢ある広告を作り出していった。雑誌広告の黄金時代を迎える。そんなマジソン・アベニューの男たちを略してマッドメンと呼んだのだ。

 この本で扱っているのはモダンな家具、乗用車、服飾、バケーション、たばこ、清涼飲料水、タイプライター、コーヒー、海外旅行、下着、化粧品、洗濯機、冷蔵庫、テレビ、ステレオ、ワイシャツ、スーツ、お酒、肉、魚、野菜、ビール、ありとあらゆるものが商品として市場に流れていく様子が描かれている。売るためのキャッチフレーズ、レイアウト、モデルなど戦後の50年代と60年代のアメリカの消費文化を象徴する写真が満載されている。

 広告に登場するモデルの99%が白人というのも時代を反映している。購買力があるのは白人が圧倒的であり、消費文化を支えていたのは紛れもなく白人だった。公民権運動前の時代につき、アメリカには黒人はまるで存在していないかのごとく広告には白人しか登場していない。私たち日本人が戦後のアメリカの豊かでおおらかなアメリカを意識するとき、そこには白人の顔しかないことに気づく。黒人社会と白人社会へのマーケテイングが分断されていたのだ。広告は限りなく美しく半世紀前へのノスタルジーを大いに掻き立てるが、一方で多人種社会であることを黙殺した時代であったことも強く感じさせる本だ。(三浦)