その18:ルート66の名を世界に広めた映画「CARS」

魅惑のアメリカ旧国道「ルート66」 をフォーカス

 ルート66ファンの皆さん、こんにちは!9月に突入しましたが、こちら東京はまだまだ猛暑は終わりません。先月の猛暑日(いわゆる摂氏35度超)は11日!代わって雨の降った日はたったの2日です。夏場ですが雨の少なさは(筆者の住む)カリフォルニアかっ!という感じですね。

 さて、「行きたいけど安心して行かれない」、旅行までもう一歩、二歩、三歩?待たないといけない今日この頃、オンライン配信やDVD等で多くの時間を費やしている読者さんも少なくないと思いますが、ルート66の名前を再び世界中に広めてくれた映画のお話をしたいと思います。今月の「魅惑の旧街道を行くシリーズ」シーズン③ 第18話は、ディズニーピクサー不朽の名作「CARS」です。

 CARSは、ジョン・ラセター監督の下、2006年6月9日に封切りされた大人気のアニメ映画です。(なぜ6月6日でない?笑)封切りの約2週間前の5月26日にはノースカロライナ州コンコルドにある、シャーロット・モーター・スピードウェイにてプレミアが行われ、ルート66関係者の間ではちょっとしたお祭り騒ぎになりました。当初は「Route 66」というタイトルになる予定でしたが、皆さんよくご存知の60年代の同名TVドラマ「Route 66」があったことから作品名は変えられたそうです。その後2011年には2作目、2017年には3作目が出ましたが、一番ルート66色が強い第1作目に今月は集中したいと思います。

 以下多少ネタばれしますが、まだ観ていない方も既にご覧になった方も、もう一度この真夏の寝苦しい夜、CARSの醍醐味を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 主人公は初の新人チャンピオンを狙う天才人気レーサーのライトニング・マックィーン。カリフォルニアへの移動中トラブルに巻き込まれ、ルート66沿いの田舎町「ラジエーター・スプリングス」に迷い込んでしまうことからこの物語は始まります。この町の名前を聞いてピンときた方は中々のルート66愛好者ですね。「スプリングス」と付く町名は幾つかありますが、今回のモデルはアリゾナ州のピーチ・スプリングスです。人里離れ荒野に囲まれたラジエータースプリングスの街はまさにピーチ・スプリングスそのものです。そんな状況に焦ったマックィーンはメイン通りのアスファルトをボロボロにしてしまい保安官のシェリフに逮捕されますが、早速登場しました、このシェリフ。声を担当しているのは泣く子も黙る我々ルート66の重鎮、マイケル・ウォリス氏なのです。筆者を実際にルート66に導いてくれた要因の一つになった「The Mother Road」の執筆者であり、ジャーナリストであり、歴史家さん。雑誌Time、Life、そしてPeople等、数多くの著名雑誌への記事や寄稿はもちろんのこと、未だ現役でルート66の発展活動に精を出しておられます。筆者も最初にお目にかかったときは嬉しくてろくに話もできませんでした。余談ですが、ウォリス氏の「声」は現在、彼の地元であるオクラホマ州、タルサ国際空港の到着ロビーでもウェルカム・アナウンスとして聞くことができます。その後マックイーンは町の交通裁判により、社会奉仕活動として「道路の舗装」を命じられてしまいます。マックィーンは「自分は有名なレーサーで、カリフォルニアに一刻も早く着かなくてはならない」と説明しますが、田舎者の住民たちには全く信じてもらえず、道路の再舗装を通じ町の住民たちと触れ合って行く中で、人生には何が大切かを学んでいくことになるのです。

 実はこの街に出てきるキャラクターさんたちがマジで涙もの!なのです。一つ例を挙げますと、Flo(フロー)という女性キャラクター、登場人物としては街の住民の憩いの場である喫茶店兼ガソリンスタンド、「V8カフェ」のママです。このV8カフェは、テキサス州エイドリアンという街に実在するカフェ、「ミッドポイント・カフェ」がモデルになっているそうで、もちろんカフェの当時のオーナーであったFran HouserさんがFloのイメージです。Franは筆者の大切な友人の一人でもありますが、映画の中でも描かれている「街で一番面倒見が良く信頼度も高い」という設定は決して間違っていません。ある日Franの経営するカフェに15人ほどの団体が予約なしで立ち寄ったそうです。実はその団体、監督であるラセター氏のご一行だったそうで、映画のクレジットや、その後ラセター氏はインタビューで繰り返しミッドポイント・カフェの話をしていますから、その反響は相当なものだったとのことです。登場人物Floの車体はいわゆる「Show Car」で、ナンバープレートも「SHO GRL」(ショー・ガール)ですが、実際Franがそうであったかは…、聞いていません。その他、町の弁護士である水色ポルシェのサリーは、オクラホマ州ストロードにある「ロック・カフェ」のオーナー、Dawn Welchさん、ヒッピーのVWバン「フィルモア」の車はルート66・アーチストのボブ・ウォルドマイヤー氏の車がベースになっていると言われます。

 物語の中に出てくるそれぞれの台詞、「ラジエーター・スプリングスは昔はとてもきれいな町で、大勢の客が訪れたものよ」、舗装の後に町中の電灯を直した際「昔の頃に戻った」と大騒ぎする住人たち、そして映画の結末ではマックイーンがラジエータースプリングスに住むようになったことで、町は昔のように大勢の車が訪れるようになったこと等、ルート66の逸話はふんだんに盛り込まれています。それではまた来月お目にかかります!

(後藤敏之/ルート66協会ジャパン・代表)

(写真:© Disney / Pixar)