香咲弥須子・著
フォレスト出版・刊
ニューヨークに住んでいる読者にも、とても気になるタイトルの本だ。「人生に奇跡を起こすニューヨークの秘密」と題していてしかも、サブタイトルには「マンハッタン・ミラクル」。五番街を歩いていても、マジソン街を歩いていても、そしてもちろんブロードウェーを歩いていても、しばらく当地に住んでいる人ならば、誰しもがおそらく気がつく共通の一つの思いがある。
それは、歩いている人々のおでこに「私は○○になりたいです」としっかり自分の人生の目的が書かれていることだ。もちろん実際に見えるわけではないが、顔の表情に、それぞれがどんな人生を歩んできたのか、歩んでいるのかが手に取るように分かってしまう。ある意味、自分すらも他人から心の中までお見通しというくらい若き人も、老いたる人も、女性も男性もその両方の人もしっかりと自分のアイデンテティーというものを持って生きているのが分かってしまう街なのだ。
街で10人すれ違えば、そのうちの1人はダンサーであり、俳優であり、自分の夢をかなえようとやってきた人たちであろう。同書には「三つのニューヨークがある」と書いた児童文学作家のE・B・ホワイトの言葉を序文に引用している。それはニューヨーカーには3種類の人たちがいるというのだ。ひとつはニューヨークで生まれたニューヨーカー。ふたつ目はニューヨークの外に住んでいてニューヨークにお金を稼ぎに来ている人、3つ目は、ニューヨークに夢を抱いて移り住んで来た人。そしてニューヨークのエネルギーは3つ目の人たちによって生み出されていると。
常になにかに追い立てられているような錯覚に陥る街でもある。それは何かをしないではいられない衝動に駆られる街と言い換えてもいい。この本のタイトル、人生における奇跡とは、いったいなにを意味するのか。
同書には、ポーランド出身の床屋のおじさん、元ナンバーワン・コメディアンのタクシー運転手、片足と片目を失ったパーソナル・トレーナー、日本語では恋ができないという女の子、キャリアを捨てて学生に戻った元ファッション・デザイナー、偽造結婚で永住権を買い、投資銀行で活躍するロシア人女性、ライブハウスを熱狂させた日本人ピアニスト、病と闘いながら2度の結婚とジャーナリストとして生きた女性などさまざまな人々の人生が臨場感あふれるタッチで描かれている。
登場する人々の誰もに共通するのは、ありのままの自分で思いきり生きているということだ。それが筆者がこの本を通して伝えたかったニューヨーク・マインド、希望の魂ではないのか。ニューヨークに30年暮らす著者、香咲弥須子さんがニューヨークのマンハンッタンのど真ん中で、スピリチュアルな世界を提唱する場、また、さまざまな文化活動を支援する場として知られるCRSの設立者であると聞いて納得。
自分の人生に奇跡を起こすも起こさないも、要は心、マインドの持ち方一つという意味なのではないかと。(三)