北出 明・著 キャッツ邦子・訳
Academic Studies Press・刊
本紙の今年の新年特別号で、第二次世界大戦中に「命のビザ」を発給して多くのユダヤ人を救った日本人外交官、杉原千畝について特集した。「命のビザ」に関連したテーマで2010年から調査・執筆・講演活動を行ってきた北出明さんが、2012年に出した前著『命のビザ、遥かなる旅路〜杉原千畝を陰で支えた日本人たち〜』の続編で一昨年11 月に出版された『続・命のビザ、遥かなる旅路〜7枚の写真とユダヤ人救出の外交官たち〜』の英語版がこのほど完成した。杉原千畝の名声は広く知れ渡っており、新聞、テレビ、映画、演劇などで取り上げられ、さながら「命のビザ」は彼の代名詞のようになっていたが、初出版から10年余りが過ぎた現在、国内外における杉原研究はさらに進み、彼に対する見方は徐々に変化してきていることも事実だ。
北出さんについてもその傾向は否めず、ここ数年は「命のビザは杉原千畝一人ではない、ユダヤ人を救った外交官はほかにもいるのだ」との観点から調査・研究を行ってきた結果の続編、そして今回出たのがその英語版「EMERGING HEROES」(アカデミック・スタデーズ刊)だ。
「在野の一介のフリーランス・ライターに過ぎませんが、私のささやかな努力が世界のユダヤ人コミュニティと日本人との友情の進展の一助になれば望外の幸せです」と著者の北出さんは謙遜する。昭和41年(1966年)に国際観光振興機構(JNTO)に入社した北出さんが、当時JTB(日本交通公社)から出向していた大迫辰雄さんと出会ったことが、命のビザとのそもそもの馴れ初めなのだ。
ヨーロッパから難を逃れて日本の敦賀に渡ったユダヤ人たちを乗船勤務中に世話をしたという大迫さんが、ユダヤ人たちの写真の貼られたアルバムを大切に保管していたのだ。
第二次世界大戦中にヨーロッパから逃げてきた7人のユダヤ人難民の写真と運命的な出会いをした北出氏は、彼らの物語を紹介するだけでなく、献身的に「命のビザ」を発給した何人もの外交官にもこの本で光を当てている。
登場するのは、駐カナウス・オランダ領事のヤン・ツバルテンダイク氏、駐ウラジオストック領事代理の根井三郎氏、駐神戸オランダ領事、後に駐日オランダ大使となるN・A・J・デ・フォート氏、駐ソ連大使の建川美次氏、駐日ポーランド大使のタデウシュ・ロメル氏の4人。
ヤン・ツバルテンダイク氏は、杉原千畝が発行するビザの後に控える渡航先であるオランダ領であったカリブ海上のキュラソー島入国ビザを発行した人物だ。北出さんは、ツバルテンダイク氏の次男、ロバートさんとアムステルダム郊外で面会した。「父がユダヤ難民を助けたのは人間としての博愛精神からであって、過度に功績を強調されることは望んでいなかったでしょう。しかし、その行為がまったく注目されていないことは残念なことです」と遺族としての複雑な思いを語る。ツバルテンダイク氏の功績は、母国ですら知られていなかったのだ。今回の英語版によってそれが彼の母国だけでなく世界中の人々の目に触れることになるだろう。(三浦)