魅惑のアメリカ旧国道「ルート66」をフォーカス

その5:オクラホマのエンターテイナー

 ルート66ファンの皆さん、こんにちは! ここ東京は連日の猛暑にやられています。夜になっても中々30度を切らない熱帯夜。外界がここまで暑いと、オフィスで仕事をしている方は内外の気温差に悩まされているのではないでしょうか。かくいう筆者も、「咳喘息」一歩手前の乾咳と痰が止まらない苦悩が続いており、これを書いているいま、ようやく完治の光が見えてきた状況です。原因は寒暖差だけではありませんが、医者にはそれも充分に関係すると言われました。発症して1か月以上治らないので、同じ症状があった方々に聞いてみると「自然に治るのを待つしかない」との回答が大多数でした。筆者は漢方を飲み続けていましたが、どうやらこの「治るタイミング」のようです。皆さんもどうぞお気をつけくださいね。
 さて、前置きが長くなりました。先月は「夏は音楽!」ということで、ルート66を旅する際にピッタリなミュージシャンを紹介いたしました。そこで、今月はその音楽をもう少し引っ張り、あるエンターテイナーの話をしたいと思います。
 場所はオクラホマ州エリック。ルート66のオクラホマ州とテキサス州の州境までわずか8マイルの人口1000人程度の小さな街にそのエンターテイナーは静かに暮らしています。ネットで「サンドヒルズ・キュリオシティー・ショップ(Sandhills Curiosity Shop)」と検索してみてください。たくさんのビンテージものの標識や道路サイン、そして長い髭をはやしギターを抱えた笑顔満面の初老男性がこれでもか! とばかりに出てきます。そう、その彼がルート66上で最高のエンターテイナー、ハーリー・ラッセル(Harley Russell)氏です。
 ハーリーさんはその稀有なエンターテインメント性と(過去に)プロミュージシャンであった実力を持ちながら、ご自身のことを「二流の音楽創作家」と表現します。しかしそんな謙遜をよそに、彼のファンは世界中に存在し、ルート66を旅する多くの人たちは彼を訪ね、彼と笑い、そして彼に癒されます。ギター一本、即興でいろんな曲を弾き歌ってくれるハーリーさんのパフォーマンスはまさに圧巻! 筆者がフラッと初めて立ち寄った時も、得意のギターを抱えての演奏に、日本の旗を出してきて歓待してくれました。素敵なパフォーマンスに加え、心底もてなしてくれるそのホスピタリティー精神はルート66そのもの、そしてホテル業界に従事にする筆者にとってもとても勉強になるものでした。
 筆者がハーリーさんときちんとお話をしたのはわずか数年前。それまで幾度かエリックの街は通ったけど、なかなか日程と時間の都合上立ち止まる機会に恵まれなかったわけですが、その時は他にお客さんもいなかったことで、その場所から通り一本の裏にある自宅まで案内し、たくさんの話を聞かせてくれました。
 実はハーリーさんは2014年秋、最愛の奥様アナベルさんを癌で亡くしたそうです。ハーリーさん曰く、アナベルさんの才能とパフォーマンスの質の高さは折り紙付きだったらしく、誰からも愛される人柄をハーリーさんは心底好きだったとのこと。筆者に言わせれば ハーリーさん自身も相当凄いけど、お話を聞くにつれアナベルさんにも一度お会いしたかったと感じました。
 元々彼ら2人で始めたこの音楽の歓待パフォーマンス、きっかけは何気ないことから起きたそうで、当初彼らは健康志向の食料品販売を営むつもりだったそうです。ある日、そこでたまたまギターの練習をしていた時、あるツアーの団体客がその演奏を見て大喝采。チップをどっさりテーブルの上に置き、ツアーガイドさんはもっとこれから団体を連れてくることを彼らに約束して帰ったらしく、そうやってサンドヒルズの歴史は始まりました。ただ、サンドヒルズ・キュリオシティー・ショップとは言うものの、何かを売っているお店ではありません。ハーリーさんのパフォーマンスを楽しみ、お店の中に所狭しと並んでいる(置きっぱなしという表現の方が適切かな?)アメリカの歴史を語るルート66のお宝の山々を見学するだけ、というもので入場料は無料です。
 筆者も何度か足を運びましたが、なぜかこの場所に来てハーリーさんと話をしていると気持ちが安らぐ不思議な場所です。ルート66を愛し、音楽を愛し、旅を愛する、そんな共通点が国も人種も文化も全く違う人間を出会わせ同じ空間に導いてくれる。何度も繰り返しますが、これがルート66に魅了された楽しさそのものではないでしょうか。
 読者の皆さんもぜひオクラホマ州を旅して、ハーリーさんの魅力に触れてください。基本毎日オープン、朝9時から夜6時過ぎまでやってます。筆者も日本ルート66アソシエーションを運営する身として、「日本から絶対ツアーをここに引っ張ってくる」とハーリーさんに約束しています。ハーリーさんに最後に会ってからもう2年、いつか近い将来それが現実になるようもっともっと頑張らないといけませんね! それではまた来月お会いしましょう!

(後藤敏之/ルート66協会ジャパン・代表、写真も)