陽が長くなったなあ、と思ったらメモリアルデーを過ぎました。はい、夏が来た!ですね(笑)。そして誰かれ気にすることなく、明るい色の綿や麻のジャケットやパンツが仕事で着れます、というのがアメリカの伝統(笑)。
私はおそらく年齢のせいか、いや単に私が暑さ寒さの感じ方が鈍いから、という声も多しなんですが、洋服屋なのに気温の変化に鈍いのはダメですよね(笑)。
これには理由(笑)がありまして、子供の頃に父親から、そして僕が初めてアメリカに来たのが16歳の夏だったのですが、その時御世話になったホストファミリーの御主人、Mr.Higginsからも偶然同じことを言われたのです。それは、「男は暑い寒いを口に出すな。特にスーツを着用している時には」でした。
16歳その当時の私を振り返ってみますと、飛行機での移動の際、またスピーチや合唱の練習などで地元の教会に出掛ける時など、思い返せばほとんどがスーツ着用だったのでした。正直、何かと緊張しておりましたし、暑いだの寒いだの感じている心の余裕はありませんでした(笑)。
そんなある日の週末、教会で一張羅のスーツを着用しての雑用、真面目にやってる様に見えてそれなりに悪くはなかったと思うのですが(笑)、16歳の僕から見て、おそらくは30歳代後半の男性が2人、それぞれにさまざまな色を使ったチェック柄のジャケットを着ていたのです。教会で着るのはちょっと派手かな?とも思いましたが、太陽燦々の夏の週末にはチェック柄がカジュアルでスポーティな空気を纏いながらも、きちんとしたジャケットに仕立られているので”ほどよいキチンと感とヌケ感”が感じられたのでしたが、それがいわゆるマドラスチェックのジャケットだったのです。
16歳の僕にはジャケットの素材がウールではなく綿であることは判りましたが、着用されてる御一人はボタンダウンのシャツにネクタイはなし、もう御一人は無地のニットタイを締めておられました。気がついたことは「なるほど、柄が目立つジャケット地以外は無地にするのがスッキリしていいんだ」と(笑)。合わせるパンツは当然グレーやベージュの無地で茶色のローファー。
マドラスチェックの柄に紺色が入っており、そのためシャツは淡いブルーの無地を合わせ、ニットタイは夏ということもあり素材はシルクか綿、色は濃紺無地、勿論黒でもOKと半世紀近く経った今でもハッキリ脳裏に残っているのです(笑)。聞いた話では人間の記憶はヴァーバル言葉より、ビジュアルな記憶の方がポジティブなイメージはより鮮明に記憶に残る、ということらしいのです。
暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領が、現在においても概ねポジティブなイメージ、人気が高いことの理由の一つがやはり装いについてのイメージ、印象がとても良かったからと言われてもおりますね。
この様な意味あいにおいて、私たち日本の男性はその装いにおいて、まだまだ進歩出来る余地は多いに残されていると言えるのではないかと思うのですが、如何?
Art of wearingという程のことではないのかもしれませんが、出会った方にポジティブ、一人の男性として良い印象を持っていただくことは、御洒落だとかダンディだとかのイメージよりも大切なことだと思うのです。
ところで、この数十年の間で見えるところ、見えないところで世界はやはりkeep changingですね。最近、インドが人口で中国を追い越したという御話。そして、私たちに馴染みのあるインドの地名がこの20数年でいくつも変わってきました。実はマドラスチェックのマドラスは、インドが植民地時代の最大の貿易港でしたが、今日チェンナイに街の名は変わっておりますね。将来、私たちに馴染みのあるマドラスチェック、チェンナイチェックと呼ばれる日が来るのでしょうか?
けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。