国連平和の鐘とコロナウイルス感染を思う

〈 寄 稿 〉

 国連本部の中庭に日本の平和の鐘がある。その鐘は日本独特の素晴らしい技術の宮大工によって建てられたケヤキ造りの重厚な鐘楼に吊るされている。9月国連総会開催に行われる世界平和デーの式典では国連事務総長が世界平和を祈ってこの鐘を鳴らす。恒例のおごそかなイベントに参加する大勢の各国代表は共に平和を祈る。

 1954年、国際連合本部に、日本から贈られたこの平和の鐘の成り立ちや、鐘に込められた思いを知る人は少ない。3年前国連の式典に参加した折り、別所前日本特命全権大使とお話しできる機会があった。

 大使は私を見つめて「この平和の鐘からは不思議なエネルギーを感じております。日本が国連に加盟する2年前に日本から贈呈されたこの平和の鐘が、63年を越えて今なお式典が行われ、鐘の音を響かせ、世界平和の象徴としてどの国からも認められている。これは奇跡です。戦争の苦しみを体験して決意したあなたのお父さんが命をかけて訴え、私財をなげうって造った鐘であり、どの国のためにではなく『世界平和のため』にと、この鐘を国連本部に贈呈されたからです」と温かい笑顔で言って下さった。

 どんなに苦しい生活になろうとも「平和の鐘運動」を続け、世界の人々からコインやメダルを集めて回り、一つに溶かして平和を願う人々の心である「世界絶対平和萬歳の鐘」を3年がかりで完成させ、ついに国連に贈呈した父。私は始めて「戦争をしてはいけない」という執念の様な中川千代治の世界平和を願う気持ちを感じた。

 国連は国、民族、宗教、主義主張の違いを乗り越えて差別のない平等で基本的人権の守られる平和な世界を目指すために存在すると信じます。それがたとえどんなに困難であろうとも、多くの問題を抱えようとも、国連をおいては世界平和を実現する組織はない。生前父はそう言いました。

 私達は世界の一員として、国連を応援しなければならないと思う。自分になにができるか、争いのない世界創りのために身近なことから考え、行動したい。人類に託された地球という美しい自然、私たちは破壊するのではなく守り育んで、次の世代に渡していかなければならない。地球には人間という素晴らしい生物が存在したと宇宙の歴史に記されるようでありたい。

 コロナウイルスの世界的な出現は、世界を変えている。今、人類に考える時間を投げかけているかのような気がしている。

(高瀬聖子/国連平和の鐘を守る会代表)