日本人の精神性ここに

稲垣沙織・著

ワンピース・ブックス社・刊

 何か大事なことをする時は、なぜか部屋を掃除したり、台所を片付けたり、机の上を綺麗に整頓したり、一見関係のないことをしてしまう。そんな心の準備をして、気持ちを整理してから大事な一件に取り掛かるということが多いのは実は、理に叶った動作であることがこの本で分かる。

 心と身体を整えて磨く「粋な女子道」の創始者で、 2011年から粋な女子道講座を日本で開講し、企業研修や小学校での特別授業など行っている稲垣沙織さんが昨年9月、英語本「IKI TOTONOE」をワンピース・ブックス社から米国で出版した。内容は、日本の精神性を自然と生活に取り入れて心と身体を整える方法を紹介。禅や武士道、マインドフルネスに近いカテゴリーになる。「禅は、起きることは自分の中に原因があって、自分を見つめ直すことによって現実を変えていく、自分との対話から答えを導きだす。禅や修行に見られるような師匠がいなくても、特別な苦行をしなくても、日々の生活の中で実践できる自分と向き合う方法、向き合い方をお伝えしている」という。

 本書は英語本で最初に日米で出版された。IKI TOTONOE と書かれている。IKIは「粋」であり、読む側にして見ると「息を整え」とも読める。

 身体は魂の乗り物であり、いつかそれを返す時が来るので、丁寧に使うこと。他人に施したことは良いことも悪いことも自分に戻ってくること、何かを得るということは同時に何かを捨てることを意味する、手放す美学を知ること、一日の始まりの5分はお茶を立てて瞑想してリフレッシュすること、寝る前は、感謝の気持ちで眠りにつくことなど、心をストレートな状態に保つヒントを紹介している。

 稲垣さんが3月21日、ブルックリンで出版記念講演会を開催した。会場の米国人参加者からは「忙しいニューヨーカーにはぴったりな気持ちのリセットの仕方だと思う」という感想が聞かれた。講演は米国でアニメ、日本食と日本文化に注目が集まるなかで、次に来るのは日本人の精神性であることを予感させた。同書を出版したサンクチュアリ出版取締役副社長でワンピース・ブックス社長の金子仁哉さんも来場し、「稲垣さんの本は、アメリカに住む読者にとっても、日々の生活にすぐ取り入れられるものばかり。ぜひ稲垣さんのTOTONOEメソッドを実践してほしいですね。毎日が充実すると思いますよ」と話している。

 職人が仕事の前に包丁を研ぐとか、誰に会うわけでもないのに出社する時に、ワイシャツに袖を通して、ネクタイをするのも、仕事をする前の儀式のようなものかもしれない。いざ、仕事の現場の渦中に入れば、なりふり構わず必死で闘いまくるわけなので身なりも心もどこかに預けてコトに及ぶわけで、ひと仕事終わった後で、ようやくふと気がついたように髪の毛をかきあげる冷静さを取り戻す。心の帰着点と出発点が同じであれば、またそれを繰り返すことができる。この本を閉じて、心を整えるということは、自分と戦う人間の心の平和を取り戻す所作、作法と見た。 (三浦)