元海上自衛隊横須賀地方総監・高嶋博視・著
OFFICE BEAD INC.・刊
2011年の東日本大震災発生当時、迅速な初動で被害者の捜索と救援に向かった海上自衛隊1万6000人を総指揮した元海上自衛隊横須賀地方総監・高嶋博視氏の著書「武人の本懐」(講談社2014年)は、日本で大きな反響を呼んだ。獅子奮迅な救援活動、物資の輸送、米軍との共同作戦、そして福島第一原子力発電所冷却のための「オペレーション・アクア」などを遂行し、896人の人命救助と425柱の遺体収容を実現。二次災害を出さずに多くの任務を果たしたリーダーの鮮烈な記録である。
高嶋氏は「地球が存在する限り、人類は災害から逃れることはできない。世界史に類を見ない未曾有の大災害の実態や実相、そこから得られる教訓を、日本国内だけでなく、世界で共有してほしい」と訴え続け、2020年秋に英語版制作のプロジェクトが本格始動した。
「最もてこずったのが軍事用語でした。まず防衛省・自衛隊の組織編成や指揮系統、海上自衛隊や海軍の文化を理解するために、高嶋氏と何度も打ち合わせを重ねました」と翻訳チームは苦労を語る。「日本語には「行間を読む」という言葉があり、拙著にも多分にそのような文面があります。まずは一行の文章の背景にあるもの、私の胸中にあることを理解していただき、それを踏まえて英語で綴ってもらいました。翻訳者は大変なご苦労をされたと思います」と高嶋氏も振り返る。
高嶋氏の想いは多くの支持者たちの協力を得て、2022年3月11日に英語版『THE HEART OF A SAILOR』が完成した。トップとして決断していくその裏には、たくさんの苦悩や葛藤があったことが推しはかられるが、それらが英語の文章のなかに見事に溶け込んでいる翻訳の技量は秀逸である。
「歴史に学ぶ」を信条とし「歴史を通じて平和の在り方を模索する」という高嶋氏は、現在「危機に強い人材の育成」のために各地で講演活動を続けている。
「在米・在留邦人の中にも、ご親族やご友人が東日本大震災で被災された方がおられると思います。2011年は日本で起きましたが、明日は世界中のどこで大災害が発生するか分かりません。拙著英語版が、皆様の今後の備えに資することができれば本望です」と高嶋氏は世界にメッセージを発進し続けている。(倉本)
【高嶋博視氏プロフィール】
1952年香川県生まれ。防衛大学校卒業。半生を日本の海上防衛に捧げ、その間、テロ対策特別措置法に基づくインド洋派遣や、東日本大震災における災害派遣活動を指揮。退官後は日本無線株式会社(顧問)を経て、現職「博海堂株式会社」代表。2022年4月、瑞宝中綬章受賞。
高嶋博視オフィシャルウェブサイト: