イケメン男子服飾Q&A 80
ケン 青木
前回は「コットン・ポプリン」について書きましたが、今回は「シアサッカー」という生地について書いてみます。まだまだ寒暖の差が激しい気候ですが、ちょっと昔気質のことを申し上げますと、男性がビジネスの世界で夏モノの生地の服に替えるのは、メモリアルデーを契機に、というのが文書化されているわけではないのですが、アメリカの男性の習慣。かつてはこの日を契機にベージュやオフホワイト、オリーブなど明るい色のスーツやジャケットを着る方が一気に増えたものでしたが、近年はかつてほどではない様な(笑)。そして夏服の終わりはレイバーデイをもって、なんです。
シアサッカーとは、日本では「ちぢみ」とか「しじら織り」などと呼ばれてきた、繊維の縦方向に「しぼり」が入った(かえって分かりにくい?・笑)、夏向けの清涼感溢れる生地です。英語ではcrispという感じ。チェック柄もありますが、代表的なのはストライプでブルー×ホワイト、グレー×ホワイト、ベージュ×ホワイトなど。男性向け衣料品が多かったのですが、スカートやショート・パンツなど女性用のアイテムも増えており、「ちぢみ」のせいでベタつかず、サラッとした着心地で人気なのです。
シアサッカー英語でSeersuckerと書きますが、元はヒンディー、サンスクリット語さらに遡るとペルシャ語。(いつか機会があれば書きますが、西洋文明のルーツはこの辺りに発祥があるのです、だからイランはアメリカに対して突っ張る。) そして、その意味は「ミルクアンドシュガー」。なぜに「ミルクアンドシュガー」なのか? 未だ納得の調査は出来ていませんが、生地の表面のスムースな部分がミルキーで、凹凸な部分にシュガーを感じるということからだそう(笑)。インドはとても蒸し暑いですから、こうした生地が創られたことは納得、理解できます。
シアサッカーがアメリカに広まったのは19世紀半ばからで、当時英国の植民地であったインドで織られた生地が大量に入って来ました。もちろんアメリカ南部で綿花は栽培されてましたが、インド産の生地は値段が安価でした。そして鉄道の機関士などワーカーの制服として採用され、特にネイビー×ホワイトのストライプのオーバーオールは、「レイルロード・ストライプ」と呼ばれておりました。
そしてアメリカの時代、20世紀に入り、シアサッカーの生地は世界で初めて高品質の既製紳士服の生産を始め出したアメリカの縫製工場において、製品化にチャレンジするメーカーが出て来ました。その先駆けがニューヨークのブルックス・ブラザーズ社とニューオリンズのハスペル・ブラザーズ社でした。どちらが先だったのか?歴史的論争になっていますが、おそらくハスペルが先にシアサッカーのスーツを創ったが、
世に広めたのはブルックス・ブラザーズだった、ということであったろうと私は思っております。
実はシアサッカー、その昔は綿でなくシルクやシルク・綿の混紡で織られていた事実もあってか、上着にアメリカン・トラディショナル独特のミシン・ステッチを全く入れないこともママあるのです。少し洒落っ気を感じるのはそんな歴史に理由があるのかもしれません。それではまた次回。
けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。