アメリカン・ジョーク

 最近、企業のトップばかりが集まったパーティで、こんなジョークを耳にしたと知り合いから聞いた。ある人がオウムを買いに行った。値段はさまざまだ。

 このオウムは千ドルするんですか、と客が尋ねた。

 なにしろ、それは英語を話すんですよ、と店員が答える。

 こっちは二千ドルですか。

 それは英語ばかりか、フランス語も話すんですよ。

 これは三千ドルもするじゃないですか。

 すごいんですよ、それは。英語とフランス語どころか、北京語まで話すんですから。  

 じゃ、これはいったい、何ができるんですか。五千ドルもするんでしょう。

 それが、そいつはどの言葉もしゃべれないし、何もできないんですけど、みんなが「社長」って呼ぶんです。

 企業のトップが、自分を笑えるゆとりがいい。アメリカではジョークが円滑油になっている。笑いは人をほっとさせる。数年前の冬、ラジオを聞いていると天気予報が流れた。

 70 degrees! Record-breaking weather. It’s a good thing we only use CDs now.

 今日は七十度(摂氏二十一度)、記録破りの気温です。今ではCDしか使っていないから、よかったですね。

 recordには「記録」と「レコード」の両方の意味がある。「記録を破る」と「レコードが壊れる」をかけたのだ。

 アメリカにはとても変わった名前の食べ物がある。poor boy というサンドイッチだ。フランスパンにシーフードや肉をはさんだもので、本場ニューオーリンズではカキやナマズ、エビなどのフライを入れる。値段が安く、貧しい人でも買えたことから、この名前がついた。poorとboyの間にハイフンをつけないはずだが、念のためにニューオーリンズの新聞社に電話を入れた。

 電話に出た記者が言った。

 そうですね。ふつう、ハイフンではなくて、レタスとトマトを入れます。

 こんなひと言で、会ったこともない人と触れ合いが生まれる。

 電話を切る前に、彼が言った。

 今度、ニューオーリンズに来る時には、連絡を待っているよ。

 このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第1弾『ニューヨークのとけない魔法』に収録されています。

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