40+  都会で紡がれる愛と人生の物語

第5話 「Sex and the City」ならぬ「Pets and the City」

 先日、「Pets and the City」の著者であり、ニューヨークで活動する獣医師、エイミー・アッタス博士のトークイベントに参加しました。彼女の本は、都会で暮らすペットとその飼い主たちの心温まるエピソードを描いたものですが、彼女自身の人生もまた、まるで小説のようなドラマに満ちていました。

 本のタイトル「Pets and the City」は、もちろん世界的に有名な「Sex and the City」にちなんで名付けられたもの。ニューヨークという大都会の中で、ペットと人間が織りなす愛とドラマに満ちた物語を描いています。ただし、登場するのは恋愛に奔走する女性たちではなく、飼い主とその愛する動物たち。まるでキャリー・ブラッドショーが書く恋愛コラムのように、エイミー博士は都会のペットと人間の関係を見つめ、記録してきたのです。

彼女は40年近くにわたり、マンハッタンの高級住宅街を中心に往診を行い、多くのペットとその飼い主の人生に寄り添ってきました。イベントでは、富裕層のペットが贅沢な暮らしをする一方で、健康を損ねて苦しむ動物たちを助けるために奔走したエピソードが語られました。彼女はビリー・ジョエルの往診に訪れた際、ドアを叩くのをためらいました。なぜなら、部屋の中から彼の美しいピアノの音が聞こえていたからです。「プライベートコンサートを終わらせるわけにはいかない」と、演奏が終わるまで静かに待ったそうです。また、ある日往診に訪れた家では、なんと裸のシェールが現れ、「私の発疹、犬のものと同じかしら?」と真剣に尋ねてきたとか。そして、診察が終わるとチェックブックを咥えて支払いに現れた賢いサービス犬の話も彼女の本に収められています。動物たちにはプライドや見栄はなく、その純粋な愛と知性が時に人々の心を癒し、救うのです。

 特に印象に残ったのは、ある93歳の女性と愛犬の話です。

 その女性は長年連れ添った愛犬を亡くし、大きな喪失感を抱えていました。エイミー博士が往診に訪れたとき、彼女は髪もとかさず、寝間着姿のまま、入れ歯さえつけずにうつろな表情をしていたそうです。長年のパートナーを失った悲しみで、まるで生きる気力を失ってしまったようでした。

エイミー博士は、そんな彼女の姿を見て何とかしなければと考えました。そして、一匹の犬を彼女に連れてきたのです。しかし、当然ながら彼女は「もう新しい犬は飼えない」と拒否しました。「私はもう歳だから、この子を見送ることはできないわ」と。

 そこでエイミー博士は、ある「作戦」を思いつきました。彼女にこう言ったのです。「この子は今、一時的に家が必要なだけなの。あなたの家でちょっとだけ預かってもらえない?」

 それなら、と女性はしぶしぶ引き受けました。しかし、翌日エイミー博士が犬を引き取りに戻ると、彼女はこう言ったのです。「この子を返したくないわ。」それから彼女と新しい犬は、最期の日まで一緒に暮らしました。

 この話を聞いて、私は涙が止まりませんでした。愛する存在を失うことは、人間にとって計り知れないほどの痛みを伴います。でも、新しい愛を受け入れることで、人はまた前を向くことができる。40歳を過ぎると、私たちは人生の変化をより敏感に感じるようになります。子育てが終わり、仕事の方向性が変わり、時には人生の新しいステージに立たされることもある。そんなとき、心を開いて「新しい何か」を迎え入れる勇気を持つことが、どれほど大切かを改めて考えさせられました。

 ペットはただの動物ではありません。人生のパートナーであり、時には家族以上の存在です。エイミー博士の話を聞きながら、私も自分の人生を振り返りました。女性として、母として、起業家として、そして一人の人間として、何を大切にして生きていくのか。40歳を過ぎたからこそ、もう一度自分に問いかけてみたいと思います。

 人生のパートナーは、人だけとは限りません。愛する存在と共に過ごす時間の尊さを、改めて心に刻んだ一日でした。

藤田カンナ

美容クリニック「Re:forma」と「Kirei House」代表として日本の美の哲学と、米国および世界中から取り入れた先進的な技術を融合させ、心身の調和を重視した総合的な美容と健康ケアを提供。女性の健康をサポートするために開発、Femtechアワードを受賞した幹細胞製品の米国代表。KAATSUスペシャリスト認定資格およびインテグレーティブ・ニュートリション認定ヘルスコーチの資格を持ち、コロンビア大学で学んだビジネスと経営の知識を活かし、事業運営や顧客サービスにおいて、常に最先端のアプローチを追求している。