問題だらけのアメリカ鉄道事情

 ロングアイランド鉄道では、連日大幅な遅延と駅構内の混乱が続いている。原因は、110億ドルを投じて完成した新線、グランドセントラル・マディソン線が開通したことだ。従来、マンハッタン島におけるLIRRのターミナルは、ペン駅だけであったのを、途中で分岐させ、もう一つの巨大ターミナルであるグランドセントラル駅にも向かうようにしたのである。

 LIRRの設計は、多くの郊外支線が一旦ジャマイカ駅で合流するように作られている。今回の新線開通により、一日の列車本数を625本から900本以上に増やしたため、容量オーバーとなってジャマイカ駅の手前で各線で渋滞が発生した。具体的には、駅の前後に設置された平面交差のポイント(アメリカではスイッチという)がネックになっているようだ。ジャマイカ駅は、JFK空港への窓口であり、また地下鉄との乗り換えターミナルでもあり乗降客は多い。遅延が常態化する中で駅に入りきれない乗客が出るなどラッシュ時には混乱が続いている。

 一方、肝心の新線はガラガラであり、従来のペン駅へ向かう列車は大混雑で積み残しが出る中で、乗客の不満は日に日に大きくなっている。この混乱は新線建設が始まる前から分かっていたという報道も出る中で、NY州のホークル知事の責任を問う声も出てきた。

 ちなみに、日本の鉄道業界としては、この問題については余り大きな顔はできない。ジャマイカの渋滞は、東京メトロが副都心線を開業した際に、小竹向原駅で起こした渋滞の問題と似ているし、新線が閑古鳥というのは京阪本線から分岐させた中之島線が不人気となった問題にソックリだからだ。ちなみに、この2つの「事件」はいずれも2008年に起きている。最終的に小竹向原では東京メトロが巨費を投じて立体交差化するトンネル工事を施工、一方で京阪の場合は多くの優等列車の終点を本線の淀屋橋に戻すことで落着している。

 LIRRの場合は、ジャマイカ駅の大改造を行ってホームを増設するそうだが、解決には数年を要する見込みだ。それ以前の問題として、現在はロングアイランド方面からペン駅へ通勤する人の場合、朝晩それぞれ30分余計に通勤時間の余裕をみなくてはならないそうで、深刻さは小竹向原の比ではない。3月6日からは臨時にダイヤ改正をして乗り切る構えだが、効果はどうであろうか。いずれにしても、どうしてここまで深刻なトラブルになったのかというと、アメリカの鉄道事情が背景にある。

 具体的にはコンサルの存在だ。鉄道事業者が技術ノウハウを持っている日本と異なり、アメリカの場合は線区の設計から施工計画、車両選定など、何もかもをコンサルティング会社が「プレゼンし」その案の中から決定される。このコンサルだが、米国にもあるが、欧州勢の勢いが良いために、アメリカの地域事情を無視した案が出てくることがある。また、そのコンサル自体が玉石混交であり、計画案も千差万別、時には専門知識のない政治家が決定に介入することもあり、結果的に今回のような「間違い」が起きるというわけだ。

 アメリカ全土では貨物列車の脱線事故が頻発して社会問題なっているが、こちらにも同様の事情がある。アメリカの鉄道は開拓の歴史とともに黄金時代を築いたが、1950年代に自動車と航空に代わられて衰退した。だが、鉄道貨物は依然として低コスト・長距離の輸送手段として生き残ったばかりか、21世紀に入ってからは高収益・高株価の優良企業群に生まれ変わっている。

 1990年代までは頻発していた列車同士の衝突事故も、GPSを使った遠隔管制システムでほぼ根絶できた。だが、高収益の期待を背負わされた各社は、人件費のカット、そして保線工事の省略に走っている。その背後にも、悪質なコンサルの存在があると言われている。また組合が過度に組合員の権利保護を行うために、事故原因の隠匿がされるという問題もある。

 今回オハイオ州東部で起きた可燃性液体輸送車の脱線炎上事故、同じくオハイオ州西部で起きた貨物列車の脱線事故は、いずれも保線工事の手抜きが原因と思われるが、こうした事故を受けて、ようやく2021年のモンタナ州における特急脱線事故の原因が公表されたあたりに問題の根の深さがある。

 バイデン政権は、環境保護政策の一環として鉄道への再評価を進めているが、そのためにはコンサル依存という業界の問題にまずメスを入れる必要があるだろう。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)