古市裕子・著
新潮社・刊
いまや書店に行けば、SDGs(サスティナブル・デベロプメント・ゴールズ、持続可能な開発目標)という言葉の付いた本が書棚に所狭しと並び、日本でもかなり浸透してきていて、いまさら感もあるが、本書は「ニューヨークのZ世代の視点から、読者をSDGsの世界に引き込む新鮮でエネルギッシュな論法」と元国際連合人道支援調整担当官で、現同志社大学講師の黒田和秀さんが帯で推薦している。コロナ禍を境に環境問題への人々の気づき、企業が経済活動の軸足を移動させるピボット戦略に対して10代から25歳までのZ世代と呼ばれる次世代の若者たちの意識の高さを指摘し、これからの企業価値について記述している。Z世代の視点と言っても著者の古市氏がZ世代という意味ではなく、同氏は長年ニューヨークに住み、ジェトロNY事務所勤務の経験を生かしグローバルにビジネス展開する日本企業、特に北米エリアへの進出支援に関わってきた。
その一方で、国連大学SDGsサステイナブル高等研究所、国連フォーラムNY勉強会に所属しながらSDGsに関する研究情報に日々大量に触れながら一足先に進む欧米企業のSDGsピボット(転換)戦略の現在をニューヨークから日本に発信している現地エキスパートの第一人者だ。
同書では、企業がZ世代が起こすトレンドや消費者意識の動向を意識し、商品やサービス、企業のブランディングを経営戦略として表明していく必要性を説いている。NY在住のジャーナリストでZ世代・ミレニアル世代評論家のシェリーめぐみさんの「大きな比率を占めるこの世代は、今後企業が商品やサービスを提供するときの主要市場となる」との分析を引用し、SDGsを意識する次世代による社会的ムーブメントはすでに始まっていると述べている。
Z世代がビジネスに与える影響について、SDGs理念を取り入れていない商品や、人権問題や差別運動に対し、反対声明を発信していない企業は、社会貢献を放棄している企業と判断される傾向があると指摘する。表面的なブランドイメージよりも、実際にそのブランドが社会に対してどのようなポジティブな活動をしているか、もしくはしていないかにZ世代は非常に敏感であるとし、ネット検索や友人とのSNSでの情報交換でいち早く察知する能力が高いと分析している。
世界が取り組むべきSDGsのスタートは2016年、ゴールは2030年。17の達成目標で「誰一人取り残さない」というターゲット達成まで残された時間はあと6年だ。本書では潮流としての一つのカギを握る特徴としてZ世代を項目の一つとして取り上げてはいるが、もちろんそれがすべてではない。企業価値を高めていく上で、ビジネス活動に関わるすべての人がいま何をすべきかを考える指針を国連のお膝元から示している一冊と言えそうだ。(三浦)