10月7日から映画米国公開
『Onoda: 10,000 Nights in the Jungle』(2021年、フランス、ドイツ、ベルギー、イタリア、日本合作、邦題『ONODA 一万夜を越えて』として日本公開は2021年)が、10月7日(金)より米国公開される。
第2次世界大戦が1945年に終了した後も、敵を倒すゲリラ作戦完遂のためフィリピンのルバング島のジャングルの中に留まり、1974年に日本に帰還した元日本兵・小野田寛郎(1922-2014)の実話に基づく映画である。1980年生まれのアルチュール・アラリ監督は脚本家・俳優としても活躍し、本作は長編監督として2作目。日本人とフィリピン俳優で、カンボジアで撮影された。
小野田の帰還は、1973年グアム島のジャングルから日本に帰還した元日本兵・横井庄一の事件に驚愕した後だったので、戦後28年半という小野田が体験したジャングル生活の長さよりも、それを止める方法が衝撃的であった。家族が説得してもジャングルから出ることを拒否した小野田は、戦時の直属上官がジャングルまで赴き作戦任務解除令を直接告げるまで投降しなかった。このことは当時の日本で、大きな話題となっていたことを思い出す。
日本軍勝利のために生き延びよと命じられた小野田が、徹底抗戦を貫こうとした恐るべき軍人精神と、過酷なジャングルの環境を生き延びる人間性について、フランス人の若手監督が解明しようとした本作、2時間53分の上映時間の長さが意外と感じられず、緊張感の連続で過ぎて行く。雨と蚊に悩まされ、風に癒される熱帯ジャングル。一人、また一人と欠けていく仲間を送る孤独。食料調達のための現地人との軋轢など極限状態の中での生存の実態が、登場人物の心理的葛藤を間近に表現するクローズ・アップの多様によって丁寧に追体験させられる。それと共に人間が囲まれている自然の巨大さを、遠景ショットのデザインで圧倒的に見せる。
映画の途中でメイン・キャストの若い2人の俳優が中年の俳優と入れ替わるが、小野田役に遠藤雄弥と津田寛治、小野田と行動を共にした小塚役に松浦祐也と千葉哲也、島田役にカトウシンスケ、赤津役に井之脇海、直属上官役に尾形イッセイ、小野田の帰還を説得する旅行者役に仲野太賀は、いずれも好演である。(平野共余子)
NYの劇場公開はFilm Forum (209 West Houston Street, New York City)で10月7日より。詳細は
www.filmforum.org
(写真)Photo credit: Courtesy of Dark Star Pictures