夫が楽しそうに公衆トイレから戻ってきた。初秋のある夕方、私たちはニューヨーク公共図書館の裏にあるブライアントパークにいた。 夫が手を洗おうとすると、手洗いの鏡の前にアジア系の男の人が立っていた。三十代くらいの小柄な人 […]
カテゴリー: ニューヨークの魔法
アメリカン・ジョーク
最近、企業のトップばかりが集まったパーティで、こんなジョークを耳にしたと知り合いから聞いた。ある人がオウムを買いに行った。値段はさまざまだ。 このオウムは千ドルするんですか、と客が尋ねた。 なにしろ、それは英語を話 […]
希望の天使
高速バスで仙台から石巻に向かい、その日の午後、被害の大きかった地域を訪れた。瓦礫の山は小さくなり、道路や橋も補修されつつあった。 津波で十メートルほど流され、横倒しになったコンクリートの建物が、今もそのまま 浜に残さ […]
花柄イエローキャブとむっつりおじさん
ニューヨーク市で、これまで行ったことがない地域を夫とぶらぶら歩いた。とくに治安が悪いというわけでもないのだろうが、殺伐とした倉庫街のようなところだ。用がなければ、わざわざ地下鉄を降りることもないだろう。 イエローキャ […]
ミラノ、そして東京の、とけない魔法
ウエイトレスは、「ロベルタ from Italy」と書かれた名札を胸に付けていた。 二十代半ばくらいの白人女性だった。身のこなしが美しく、話す日本語も丁寧で心がこもっている。 「失礼、シマス」「オ待タセ、シマシタ」「 […]
クリスマスだから
私は最近、大失敗を犯した。あまりに最近のことなので、そのことについて書くのも胸が痛い。 ある仕事関係者から、締切を予定より早めてもらえないかというEメールがクリスマス・イヴに届いた。前に一度、無理だと断わったが、とて […]
おしゃれな大学のおしゃれでない話
マリーパットは最近、ファッション工科大学(FIT=Fashion Institute of Technology)で、ある講座を受講することになった。客室乗務員として長い間、働いてきたが、数年前に退職し、自分のアート作 […]
窓辺のパンプキン
ハロウィンの二週間ほど前に、ゲイルと、五歳になる彼女の甥のイーサンと三人で、パンプキンを買いに行った。そこは郊外の大きなスーパーマーケットで、外には何百個もの大小さまざまなパンプキンや、飾りつけに使う干したコーンなどが […]
海苔と爆弾
ニューヨークの魔法 31岡田光世 空港のセキュリティチェックの手荷物検査で、X線装置の画面を係員の男性がじっくり観察している。見ているのは、私の機内持ち込みの小型スーツケースだ。シカゴからニューヨーク行きのフライトに乗 […]
忠実な車掌
ニューヨークの魔法 30岡田光世 検札にやってきた車掌は、乗客から切符を受け取ると、じっと眺め、すぐに突き返した。 私はロングアイランドのグレートネックに行くために、ペンシルベニア駅から列車に乗っていた。 その乗客 […]
ドアマンとの会話
ニューヨークの魔法 29岡田光世 その夏、私はバッテリーパークシティの友人宅にひとりで泊まっていた。友人夫婦のサラとビルがコネティカット州の避暑地で一か月ほど過ごす間、二匹の猫の世話を頼まれたのだ。 ここ […]
異国の母、マンハッタンをゆく
ニューヨークの魔法 28岡田光世 母の日おめでとう、と先生の祖国の言葉で今日は花束を手渡したくて、朝から何度も練習していたのに、会う頃にはすっかり忘れてしまった。先生との待ち合わせはいつも、 メイシーズ前の小さな広場。 […]