岡田光世・著
文春文庫・刊
昨年まで本紙で連載した『奥さまはニューヨーカー』の原作と英語監修を担当していた岡田光世です。2月からは、新連載『ニューヨークの魔法』がスタートします。40万部突破の「『ニューヨークの魔法』シリーズ(全9冊、文春文庫刊行)から、毎月1話ずつ、掲載されます。
これは、私がニューヨークの街角で出会った人たちとのささやかな触れ合いを描いたエッセイ。実際に交わした言葉が、和訳とともに紹介され、生きた英語の勉強にもなります。
第1弾『ニューヨークのとけない魔法』(2007年刊)が増刷を重ねてシリーズ化され、『ニューヨークの魔法は終わらない』(2019年刊)で完結しました。
私は高校と大学でそれぞれ1年間、ウィスコンシン州とオハイオ州に留学。大学院進学を機に、ニューヨークに住み始めました。「読売アメリカ」紙記者を経てフリーになってから、『ニューヨーク日本人教育事情』や『アメリカの家族』(ともに岩波新書)などの著書も執筆しました。
ニューヨーカーはせっかちで無愛想。横柄で無礼、という印象もあります。私もそう感じた頃があったけれど、いつしかこの街をこよなく愛するようになりました。
個人主義なのに、他人を放っておけない人が多い。孤独な大都会なのに、田舎町のように人間臭くてお節介で、人の心と心が触れ合う瞬間に満ちている。目が合えばほほ笑み合い、ジョークを交わし、心がひとつになる。その瞬間を、私は「魔法」と呼んでいます。
多くの多種多様な人々がひしめき合って暮らすニューヨークでは、あなたも私もありのままでいい。この街がそう思わせるのか、そう信じる人がこの街に集まるのか。おそらく両方でしょう。
米国の他の都市では、裕福な人は郊外に移り住み、それが経済的に許されない人が都市部に残る傾向があります。ニューヨークとくにマンハッタン島には、ミリオネアーも庶民も低所得者も、そして様々な人種の人たちが、地下鉄やバスで隣り合わせ、同じスーパーのレジに並びます。
ここで暮らし、私はどんどん子どもに戻っていく気がします。それはきっと出会う人たちの多くに、子どもの部分が残っているからでしょう。私たち日本人が忘れてしまったものを、意外にもこの街は、思い出させてくれるのかもしれません。
シリーズは終わっても、ニューヨークの魔法は終わらない。紙面の都合で、連載では短めの話が多くなりますが、人っていいな、と感じていただけるはずです。この夏のオリンピックで、世界中の人たちを迎える日本も、魔法で満たされることを願っています。 (岡田光世)