小林 弘幸・著
アスコム・刊
著者は順天堂医学部教授で日本体育協会公認のスポーツドクター、自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わり、順天堂大学に日本初の便秘外来を開設したスペシャリスト。 みそをはじめとした腸内環境を整える食材の紹介やストレッチの考案など、様々な形で健康な心と体の作り方を提案している。 本書はお医者さんが考えたみそ汁というところに、それこそミソがある。出汁をしっかりきかす、由緒ある料亭の料理人や、昔ながらの野菜の香りが立った、おばあちゃんのみそ汁ではない。
お医者さんがみそ汁の本とは、かなり意外性がある。と言うのも、みそ汁は長寿にはちょっと結びつきにくいイメージが定着しているのではないだろうか。塩分が多いので血圧にはよくないとか、熱々のみそ汁は胃がんの元とか。ところが近頃は川柳で、「ぼくピロリ特技は潰瘍(かいよう)がんつくり」などとうたわれるほど、胃がんの原因がピロリ菌というばい菌だったことが広く知られるようになってきた。
著者は、「みそは胃がんを抑制する効果があり、血圧上昇を抑制し脳卒中を予防する効果がある」といった広島大学グループの近年の研究や、「みそ汁を頻繁にとる中高年の女性は、乳ガンの発症率が低減する」という国立がん研究センターの調査を紹介し、みその健康効果が科学的に実証されてきているという。そこでいつも飲んでいるみそ汁をパワーアップすれば、あらゆる病気を遠ざけ、身体の不調を改善できるのではないかと仮説を立て、試行錯誤のうえ作りあげたのが、「長生きみそ汁」だ。
被験者として2週間「長生きみそ汁」を飲み続けた5人のご婦人にどのような効果があったかも示されている。あるご婦人の「酸化ストレス度がさがってびっくり」というコメントが印象的。
以下はパワーアップしたみそ汁のレシピだ。赤みそ80グラム、白みそ80グラム、玉ねぎ150グラム(約1個)をおろし金ですりおろしたもの、リンゴ酢大さじ1を混ぜ合わせる。著者はこれを「長生きみそ玉」と名付け、みそ汁10杯分の分量としている。
なぜこのレシピにしたのかというわけは、それぞれの材料の科学的な特性を細かくつづり、根拠を示している。基本は長生きみそ玉でつくるみそ汁だが、もの足りない向きには水の代わりに慣れ親しんだ出汁を使うこともすすめている。このあたりの臨機応変さはなかなかいい。
42種類のおいしそうなみそ汁がカラー写真付きでのっている。単品だけの具はなく、2種類以上のゴージャス版、作ってみたくなる。疲労回復、ガン予防、免疫力アップ、便秘解消、ストレス解消、高血圧予防、食欲増進、腸内環境を整える、ダイエット効果、脳を活性化など、一品一品に主な効果を記しているところが凡百の料理ブックと違うところだ。 (山岡昭男/エッセイスト)