日本のアニメを背景画で支えた小林七郎NY展

アニメNYCと協力で

会場で流された生前のビデオ

 北海道常呂郡置戸町が生んだ日本アニメ美術界の第一人者で今年8月25日に89歳で亡くなった小林七郎氏を追悼する回顧展「小林七郎-光と闇のドラマ」 展が22日までニューヨークの日本クラブ7階の日本ギャラリーで開催された。18日夕、日本から康子夫人が来米してレセプションが開催され「ニューヨークでの個展開催が小林の長年の夢であり、今日のこの会場で皆様とお会いできることを本人が何より喜んでいることと思います」と小林の手染めの帯を締めて感無量の思いを込めて挨拶した。主催はアトリエ・コバ 小林康子、株式会社J’SHA。キュレーターは佐藤恭子、川添さやか、小澤明美。

 小林氏の代表的作品は「巨人の星」「ムーミン」「ど根性ガエル」「新オバケのQ太郎」「元祖天才バカボン」「ルパン三世 カリオストロの城」「はじめ人間ギャートルズ」「家なき子」「あしたのジョー2」「うる星やつら」など日本の高度経済成長期にテレビアニメや漫画映画を通じて日本中の子供達を釘付けにした名作の数々の背景を手がけたアーティストだ。アニメ史そのものの人生を歩み、国内外のクリエイターや愛好家に多大な影響を与えた小林が、画家として具象と抽象の中に自然の美と無限の力のイメージを追求し続けた世界を紹介し、軌跡を振り返る展示となった。

 小林氏が亡くなる直前に康子夫人が撮影したビデオメッセージが会場に流れた。「アニメという手書きの貴重さというか有り難さこういったことをもっと世界に広めていきたいと思います」と話していた。本展はニューヨークで同時開催のアニメNYCの協力企画ともあって、会場にはアニメファンのアメリカ人も熱心に作品に見入っていた。小林は武蔵野美術大学を卒業後、テレビアニメ創世記の1964年にアニメの世界で活動を始め、31歳で東映動画に入社。68年に小林プロを設立後2011年までの46年間にわたり多くの作品の背景美術を手がけた。2011年に文化庁映画功労賞、2015年と17年にパリで開催されたジャパンエキスポで講演、16年にルーブル美術館での展示、美術専門学校での講演、18年クウェート政府機関主催の講演と実技指導など海外での評価が高まっていた。会場にはアニメ背景作品とともに書き溜めた油彩や水彩画なども展示された。その中には、昭和7年生まれの小林が幼少期に過ごした置戸町を思い浮かべて描いた当時の風景も飾られた。(三浦良一、写真も)

(写真上)オープニングで来場者に挨拶した康子夫人

タウンスーツを普段着に

 早11月も半ば、サンクスギビング目前、そしてそろそろ街はクリスマスの準備、ニューヨークが一年でもっとも華やかなシーズンの到来ですね。 

 昨今はクリスマスよりホリデーという言葉をより耳にする気がいたしておりますが、ま、クリスマスでいいじゃあないですか(笑)。

 ニューヨーク生活さんには御蔭様で長いこと御世話になり、連載させていただいております。紳士服も「季節モノ」ですのでネタが以前のコラムとダブったりすることも勿論あったりするのですが、その都度調理の仕方や味付けについてしっかりと変えているつもりです(笑)。そんな次第で今回の「フランネル」につきましても過去に数回取り上げておりました。

 数年前でしたか、グレゴリー・ペック主演の映画”The Man in The Gray Flannel Suit邦題「灰色の服を着た男」(1958)でのペックのスーツ姿の全身写真を御紹介しました。

 その写真、今は店舗が無くなってブランド名だけになってしまったBarney’s New Yorkが、しばらくの間彼のスーツ姿のシルエットを同社紳士服のアイコンとして使っておりました。それは何故だったのでしょう? あっ! 日本国内のバーニーズは御店を持って頑張られておりますね、念のため。

   で、(1)フランネルについて、そして(2)なぜバーニーズはグレゴリー・ペックのスーツ姿だったのか?ですね(笑)。

 フランネルはギャバジンと同様、ウールで織られた生地と綿で織られた生地との2種に分けられますが、なぜか日本においてはウール地をフラノ、綿地をネルとフランネルを前後で分けて呼んでいるのですね(笑)。不思議(笑)。皆さんの中にもふんわりソフトで暖かいネルのシャツを秋冬に愛用されている方も少なくないかと。英語ではCotton Flannelと直球ですね、当たり前ですが(笑)。

 僕の御客様の多くは僕と同世代の方が多く、この四半世紀余のビジネス環境の変化で背広、いや、スーツを昔のようには頻繁、毎日は着なくなっているのが現状かと。既にリタイアされておられる方も。

 明治開闢以来何かと言われてきた私達日本男子のスーツの着方、着こなしですが、今日の様な時代の一大転換期にこそ一気に意識転換しえるのではないかと思うのです。で、一気に名誉も挽回と(笑)。

 皆様はスーツには大きく分けていくつのカテゴリーを御存知でしょうか? 多くの方はビジネス・スーツとフォーマル・スーツくらいしか思い浮かばないかもしれませんが、プライベートな御洒落着の意味である、[タウン・スーツ]というカテゴリーについて私達はほとんど意識していなかったのではないでしょうか?

 私は「フランネル」こそ秋冬のタウンスーツの本命と考え、自身でも長年愛用いたしております。三つ揃いで御求めされますと上着、ヴェスト、パンツそれぞれ一緒に着たり、バラして着たりと組み合わせも自在なのです。

 そして前回も触れましたが、フランネルのスーツにカシミヤやハイゲージ・ウールのタートル・ネックのセーターやチェック柄の「ネル」のシャツを合わせたり、靴もスウェードのブーツを合わせたりと、ビジネス・スーツとは趣が全く異なるムードを醸し出すことが出来るのです。そうした想像をグレゴリー・ペックのグレー・フランネルの三つ揃いから想像されてみてください。チェック柄のフランネル地の三つ揃いもお薦めです。

 グレゴリー・ペックの写真から学んでいただきたいこと、それは三つ揃いが襟元からトラウザーズの裾まであたかも一筆書きで描いたような柔らかな曲線、ラインを描いて一体化していること。ですからスッキリ、スマートに見えるのです。三つのパートが一体化して見える、故にsuitなのです。ホテルのsuite roomのsuiteと語源も一緒。(笑)。リラックスしたスーツを普段着に。いいですよ(笑)。

 それではまた次回。

 けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。

中間選挙を分析

津山さんJWBで講演

 NY日系人会ビジネスウーマンの会(JWB、長谷川久美子会長)主催のウェビナー講演会、「アメリカはどこに向かうのか、米中間選挙、トランプ出馬を分析する」が、18日開催された。元共同通信記者のジャーナリスト津山恵子さんが中間選挙の結果を踏まえ、これからアメリカが向かう方向や2024年大統領選挙の行方などを分かりやすく解説した。

 中間選挙の結果は、上院が民主党50議席、共和党49議席でハリス副大統領(民主)を入れて民主党が過半数を確保したが、下院は共和党が218議席、民主党が207議席で上下両院でねじれ現象が起きた。NY州知事選で民主党現職のキャシー・ホークル候補の応援演説にヒラリー・クリントン元国務長官で2016年年の大統領候補、そして現職のカマラ・ハリス副大統領の大物2人が駆けつけたのを見て、民主党の議席喪失に対する相当な危機感を感じ、「民主党やばい」と思ったが、蓋を開けてみると、当初予測されていた共和党優勢の「赤い波」は起きなかった。共和党が用意した勝利宣言会場は「お通夜状態」だった。中間選挙では与党が大敗するのが通例だが、異変はなぜ起きたのか。

 一つは「若い人が起こした変化」だ。人工妊娠中絶の権利が6月の連邦最高裁の判決で全米的なものでなくなったことに対する抗議、二つ目は「トランプ再選許すまじ」の機運台頭だ。パンデミック直後から全米で起こったブラック・ライブズ・マター(BLM)運動、警察予算削減の声、LGBTQの権利獲得運動など声を上げれば変化があると思い始めた若者が多くなったことが背景にある。一方で若者のSNS離れが顕著で、10代が使っているSNSはTikTok 33%、スナップチャット31%、インスタグラム22%、フェイスブック(FB)はわずか2%。FBのアルゴリズムとフェイクニュースに嫌気がさしたものと見る。

 トランプ氏が15日に2024年次期大統領選挙に出馬を表明したのは「出馬せざるを得ない」理由があったからだ。トランプ党の敗北、デサントス(フロリダ州知事)を意識、脱税疑惑や選挙での脅迫疑惑などを捜査する司法省の動きだ。司法が動けば、立候補ができなくなるので、先手を打って出馬表明し、後日有罪判決が出ても、いかなる理由をつけてでもひっくり返すことが可能になる。

民主党は若者の神風頼り

 今後アメリカはどうなるのか。民主党は若い人の時流に乗った追い風と「神風」だよりという不安定な要素がある。一方で、上下両院ともに共和党のトランプチルドレンが今回の選挙で当選して議事堂の中に正々堂々と入り込んだ。「襲撃」しなくてもトランプ氏は議会内部から影響力を高めることができる。これにティーパーティーやメガチャーチなどを利用した「票固め」がうまい共和党が今後どう影響力を高めていくのかが焦点だ。80歳になったバイデン大統領が再出馬することは、個人的には間違った道だと思う。24年の大統領選挙は、民主党ではニューサム加州知事、ウイットマン・ミシガン州知事が有望。共和党ではデサントス・フロリダ州知事、トランプ氏が有力と見ている。

喜多流の能「皇帝」「枕慈童」喜多流の能

ジャパン・ソサエティー、12月1日から

 ジャパン・ソサエティー(JS、東47丁目333番地)舞台公演部は、2022年秋〜2023年初夏のシーズン・ラインナップとして、昨シーズンに引き続き全てのプログラムを劇場でのライブ公演とし、《日本人と非日本人との協働による創造》に焦点をあてたダイナミックな構成となっている。12月1日(木)から3日(土)には、2016年の公演でも好評を博した喜多流の能楽師たちが、日本でも上演されることが稀な楊貴妃の健康回復を語る『皇帝』(プログラムA)と、長寿を寿ぐ『枕慈童』(プログラムB)の2作品を披露する。パンデミックという世界的危機からの早期復活を祈念する公演となる。ユネスコの無形文化遺産に指定されている能は武家の式楽として発展してきたが、その能の五流の中でもっとも武士気質が強く力強さが感じられる喜多流の芸を、喜多流精鋭の能楽師たちが圧倒的な迫力で届ける見逃せない作品だ。

  『皇帝』は、玄宗皇帝が大病の楊貴妃の容態を案じているところに鍾馗の神霊が現れ、病鬼を追い払い、妃の病を治すという物語。一方、同じく中国を舞台にする『枕慈童』は、菊の葉から滴る露を飲むことで700年も若い姿のまま山奥に住み続けているという少年の伝説にまつわる、不老長寿をテーマとした作品。

  プログラムA・B共に2部構成となっており、上述の各作品の前には、能の略式である舞囃子(面、装束を付けず紋付袴で、地謡と囃子を連れてシテ1人で舞う上演形式)や仕舞(面、装束を付けず紋付袴で、地謡のみを連れてシテ1人で舞う上演形式)を、重要無形文化財(人間国宝)に認定されているシテ方・友枝昭世が演じる。

 さらに各公演の1時間前にはプリンストン大学のトム・ヘア教授によるプレパフォーマンス・レクチャーを実施する。また、12月3日 (土) の午前11時から午後1時には、喜多流のメンバーによる能の所作のワークショップを実施。現在、参加チケットは売り切れだが、見学のみのチケット(Observer Ticket)はあり。出演は友枝昭世、友枝雄人、中村邦生ほか。

 開演日時=12月1日 (木) 午後7時30分・プログラムA(終演後にレセプション)2日 (金) 午後7時30分・プログラムB (終演後に「アーティストQ&A」あり)3日 (土) 午後7時30分・プログラムA。両プログラムともに日本語での上演・英語字幕付き

 チケット料金=パフォーマンス+ソワレ(12月1日のみ)一般95ドル/JS会員76ドル。パフォーマンスのみ(全日程)一般72ドル/JS会員58ドル。チケットに関する問い合わせや、公演の詳細はwww.japansociety.org/performances/ を参照、または、電話212・715・1258。

(写真)「枕慈童」の舞台から Photo:Yutaka Ishida

ホテルの味を家庭で簡単に

プロに聞く、生き生きEATS(イーツ)

元気と美味しいを求めて料理の達人が腕を振るう (31)

 マンハッタンから一駅で150人規模の結婚披露宴が屋上でできるブルックリン、グリーンポイントにあるザ・ボックスハウスホテルのエグゼクティブシェフ、彰子タナワーさんに、ホテルの味をご家庭で楽しめる料理を今回紹介いただいた。トライベッカのNOBU、イレブン・マジソンやシェーク・シャックなどを経営するレストラン王ダニー・マイヤーのケータリング部門、マイ・オウンレストラン、ミッション・チャイニーズ、フードウェブサイトのテイスティングテーブル、アイバン・ラーメンなど個性の強い店からファインダイニングまでこなす今年でキッチンに立ち17年目を迎える名人に習おう。


オイスターとセロリタイムグラニタ

食材

ロリジュース 1カップ 

ライムジュース 2テーブルスプーン 

砂糖 80g 

生牡蠣(blue point, Kumamoto oyster がおすすめ) 6

 全ての材料を火にかけ湧き出したら火を止め、小さめの容器にうつし、すぐに冷凍庫にいれる。1時間おきにフォークでかいてシャーベット状にする。5時間ほどで固まったところを開けた生牡蠣に盛り付ける。

 そのほか盛り付けーチリ、金箔(あれば)、ポン酢


■豚バラとレモングラスの出汁

食材

骨なしの豚バラ 500g 

塩・砂糖 50gずつ  

出汁 200ml

レモングラス 10センチ 

生姜 2センチ 

薄口醤油 1テーブルスプーン

塩 少々

溶き片栗粉 2テーブルスプーン

 砂糖、塩を混ぜ、満遍なく豚バラにまぶす。プラスティックラップで空気なく包み冷蔵庫で5時間から1日おく。オーブンを325度に設置し2時間30分焼く。

 その間に出汁、レモングラス、生姜、を鍋にいれ細火で5分。だし汁をコシ、もう1度鍋に移し、醤油、塩少々、溶き片栗粉をいれる。

 出来上がった豚バラを2センチ角に切り、上から レモングラス出汁をかける。


雲丹トースト

食材

日本の食パンまたはブリオッシュ 1切れ 

雲丹 50g   

いくら 1テーブルスプン

ライムの皮のゼスト 1個  

ホーランダイズソース

卵の黄身 2個 

レモンジュース 1ティースプーン

塩 少々

溶かしたバーター 120g

ホーランダイズソース

 黄身とレモンジュースと塩をボールに入れ混ぜる。

少しずつ、溶かしたバターを入れて、ウィスクで混ぜる。

 パンを2センチ角に切り雲丹をのせ、ホーランダイズソース、ライムゼスト、塩少々、いくらを盛り付ける。


The Box House Hotel

77 Box St, 

Brooklyn, NY 11222

TEL: (718) 383-3800


アメリカに裁かれる日本企業

秋山武夫・著
幻冬舎・刊

 今から丁度10年ほど前に、週刊NY生活の編集部に1本の電話がかかってきた。アメリカ人の弁護士からだった。「日本企業が大変なことになっています。70社近い日本の自動車部品メーカーが違法カルテルで米司法省から訴えられて、このままでは莫大な罰金を課せられ、日本人ビジネスマンがアメリカの刑務所に入れられてしまうかもしれません」。にわかには信じられない話だったので、電話番号だけ聞いて電話を切った。後日、訴追されている日本企業のリストなどがファクスで送られてきた。海外の一ローカル新聞社が扱うには荷が重すぎる話だと判断したのか、確か総領事館の経済部につないでそのまま放置してしまったような記憶がある。しかし、実際はアメリカ人弁護士が言うように本当にとんでもないことになっていたのだ。自動車部品のカルテルでは、日本企業の日本国内でのカルテル行為が米国の法律や価値基準で米国の陪審員によって、米国の裁判所で司法取引を含む米国の裁判手続きで裁かれ、その結果、30人を超える個人が1、2年の禁固刑に服し、日本企業も総額3000億円もの罰金を支払うという羽目に陥ったのだ。しかも執行猶予なしでだ。

 この本の著者、秋山武夫氏は日本の総合商社に18年勤務した後、米国で司法試験を受けて弁護士になった。そして35年間弁護士として活躍し、日本と米国の司法の違いを痛感して書いたのが本書だ。

 司法の国際化をリードしてきたのがアメリカだ。独禁法、FCPA、製造物責任、通商法等、域外適用(米国法の日本人や日本企業の行為に対する適用)の例をあげればきりがない。域外適用とは単に実体法のみならず、アメリカの手続き法に従うということだ。日本での一通のメールがアメリカの証拠開示手続きのもとで、裁判所の前に持ちだされ、アメリカ人陪審員の持つ尺度や偏見で判断され、民事賠償のみならず、刑事上の懲罰のための決定的な証拠となる。「急速に進む司法の国際化・日本に備えはあるのか・待ったなしの司法改革と日本企業の対応策」を米国の法律や制度について具体例をもとに解説、日本の企業の対応策や日本司法の制度改革につき提言している。

  かつてマクドナルドのドライブスルーで購入したコーヒーをこぼしてやけどを負い、同社から懲罰的損害賠償を含め300万ドル近くの賠償の陪審員評決を勝ち取った女性の話は「訴訟大国、アメリカのとんでもない事例」として日本でも話題となったが、前述の自動車部品カルテルもマクドナルドの火傷訴訟もアメリカ人からすれば全く「とんでもない訴訟」ではないのだ。

 前者は日本のカルテルでアメリカの消費者が不当に高い自動車を買わされたことに対する賠償、後者は、将来起こりうる同様の事故から何百、何千という被害者が救われたという考え方だ。著者の秋山さんは言う。米国の司法は白黒をつけるものではなく、バランスをどうとるかの問題だと。天秤にかけてどちらが重いか。いかに妥協して折り合いをつけるかが肝心なのだと。訴訟を続ければ時間と費用がかかるだけで、どこかで妥結の糸口を見つけるのが得策だと。(三浦)

闘うシングルマザー、名門ジム拠点に米で再出発

女子プロボクサー
2階級制覇元世界チャンピオン

吉田 実代さん

 日本の女性プロボクサーで「闘うシングルマザー」の異名を持ち、今年5月までWBO女子世界スーパーフライ級王者として世界チャンピオンの座に君臨した吉田実代選手(34)がこのほど来米し、2日、米国ニューヨークの名門ボクシングジム「グリーソンズ・ジム」(ブルックリン)を拠点に活動することが決まった。同ジムは、モハメド・アリ、マイク・タイソンら多数の名世界王者を生み出し、米国における名門ジムとして知られる。

 吉田さんは、第5代・第7代WBO女子世界スーパーフライ級王者。第6代OPBF東洋太平洋女子バンタム級王者。初代日本女子バンタム級王者と2階級制覇した実力の持ち主。1988年、鹿児島県で生まれた。小学2年〜中学1年はソフトボール選手として活躍。中学卒業とともに母親のもとを離れ、仕事をしながら通信制の高校を卒業。20歳の誕生日を迎えた4月に、格闘技未経験でハワイに単身格闘技留学、キックボクシングを習ったのがこの世界に入るきっかけだった。プロボクサーデビュー後に結婚し、2015年4月に長女を出産するも離婚。シングルマザーと格闘技インストラクターとして活動してきた。

 「5月の試合で勝っても負けても海外で勝負したい」と思っていた。タイトルを失ったことで逆に吹っ切れた。8月にロサンゼルスやラスベガス、メイウエザーのジムなどを訪ねて渡米のチャンスを探ったが、ビザのない外国人が米国のプロモーターと専属契約を結ぶのは至難のワザだと分かった。脳裏に浮かんだのが5年前、座間の米軍基地で行った試合の時に、運営を担当していたある日本人が言った言葉だった。吉田さんの実力とスター性を見出し、ニューヨークへ行くなら自分が元いた有名ジムを紹介してあげるというものだった。最後に交信したメールは3年くらい前。メールをひっくり返して連絡がつき、事情を話すと、その有名ジムというのがグリーソンジムだった。早速9月にニューヨークのジムを訪ねた。錚々たる人物が出入りしていた。その中に、WBCのスレーマン会長がいて、自己紹介したら自分のことを知っていた。「アメリカで闘いたい」との思いを伝えたところ「では、ビザのスポンサーになってくれそうな人に手紙を出してあげよう」と言ってくれた。秘書のジル・ダイヤモンドがグリーソンジムのオーナー、ブルース・シルバーグレードの推薦状を取り付けてくれ、米ボクシング界の重鎮プロモーター、ル・ディベラ氏を紹介してくれた。最初は日本から通って米国で闘いたいと伝えたがディベラ氏は「そんな生半可な気持ちじゃダメだ。娘を連れてアメリカに移り住む覚悟があるんなら面倒見る」という答えだった。

 時間はかからなかった。日本国内の所属事務所を退会、東京の家も引き払い、7歳の娘の学校も退学手続きして「子連れ移住でやってきました」と伝えたら、今月2日、すぐにディべラ氏が契約してくれた。来年2月にはマンハッタンで米国デビュー戦が早くも組まれている。「娘に支えられて頑張れます。本当に母は強しですね」。米国で「闘うシングルマザー」の再出発だ。  (三浦良一記者、写真も)

(写真)Instagram miyo_yoshida

平和の重みを胸に

Black Panther: Wakanda Forever

 マーベル・コミックのスーパーヒーロー、ブラック・パンサーの第二弾。2018年の大ヒット作の続編に当たるが、ブラック・パンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンが2020年に急逝したことで、新たなキャスティングで物語を進めるかどうかが注目されていた。

 結局、ボーズマンのインパクトがあまりに大きすぎ、代役案はあっさり消え、物語の中でもワカンダの国王、ティ・チャラ(ブラック・パンサー)が急死という設定となった。ボーズマンの存在は大きかったが、代わりに本作では女性軍の台頭が目覚ましく、ティ・チャラの妹シュリ、母親ラモンダ、女性親衛隊ドーラ・ミラージュらウーマンパワー炸裂の醍醐味が生かされる内容となった。監督のライアン・クーグラーを初めキャストも前作からほぼ続投で、新たにテノッチ・ウエルタ、ドミニク・ソーンらが加わっている。

 ティ・チャラが病死し、母親のラモンダがワカンダの国王となった。国民が悲しみに暮れる中、欧米をはじめとする諸外国はワカンダが埋蔵する特殊鉱石ヴィブラニウムを入手しようと圧力をかけてきていた。運動エネルギー加速の効力を持つヴィブラニウムが軍事利用されるのは目に見えており、ワカンダは衝突を避けつつヴィブラニウムの流出を抑えていた。

 実はヴィブラニウムを保有する国がもう一つあった。古代文明を受け継ぐタロカン国で彼らは昔、民族闘争に負け、陸から追われ、今は海底に王国を築いていた。国王ネイモアはいずれ欧米がタロカンの存在を知り攻撃を仕掛けてくると懸念し、ワカンダに同盟を結ぼうと持ち掛ける。亡き兄の意思を受け継いでいるシュリはワカンダの平和を維持するための最善策は何かを探り始める。

 1作目の快活アクション・ムードから一転して本編はヒーローの死からスタートする重い雰囲気が漂うが、後のスーパーヒーロー、アイアン・ハートの登場、前作のヴィラン、キルモンガーの出現、そして言わずもがなの新ブラック・パンサーの誕生などワクワクする要素もたっぷり盛り込まれている。2時間41分。PG-13。(明)

(写真)母親ラモンダ(アンジェラ・バセット)がワカンダの国王となる Photo : Walt Disney Pictures


■上映館■

AMC Empire 25

234 West 42nd St.

Regal E-Walk 4DX & RPX

247 W. 42nd St.

AMC 34th Street 14

312 W. 34th St.

編集後記 2022年11月19日号

【編集後記】 みなさん、こんにちは。米国の映画で「スーパーマン」を演じた主演俳優のクリストファー・リーブさんが1995年に乗馬中に落馬して脊椎損傷の重傷を負い、車椅子生活になって同じ脊椎損傷患者の治療と研究のために貢献したことは、詳しくは知らなくても、どこかで聞いたことがある人は結構いるのではないでしょうか。2007年名称を「クリストファー&ダナ・リーブ財団」に変更し、現在、リーブさんの3人の子供、マシュー、ウィル、アレキサンドラが財団の理事を務めています。これまで40回同財団の年次晩餐会が開催され、そのうち20回も日本から参加して支援している日本人の親子がいます。「脊椎損傷の治療はもう日本の方が進んでいるということを前理事長に伝えたけれど、会場で発表されることはありませんでした」とちょっと残念そうに話したのは、母親の今井千恵さんとともに、米国最大の脊椎損傷支援団体、クリストファー&ダナ・リーブ・ファンデーションの年次晩餐会に10日出席したCHIE IMAI社長の今井千晶さん。これまで有効な治療法がなかった脊髄損傷。不慮の事故などで重い後遺症を抱えた患者は、そのまま車いすや寝たきりの生活が続くのが常でした。そんな脊髄損傷患者をめぐる状況が、大きく変わるきっかけを作ったのが札幌医科大学の幹細胞治療の研究です。3年前に脊髄損傷の治療に自分の細胞で神経再生する方法を発見、事故から31日以内であれば、自分の細胞を再生して歩行が可能というほぼ奇跡に近い画期的な発見なのです。2年半のパンデミックで活動がほぼ休眠状態だったリーブ財団に今年、新しい理事長が就任され今井さん親子は、この日本の最先端の技術の存在を伝えるのは今だと実感したようです。「日本の研究成果が、アメリカで苦しむ脊椎損傷の患者を今度こそ本当に救うことができるかもしれない」。札幌医科大の教授をぜひ、いつかニューヨークに連れてきて成果を財団の皆さんの前で発表してもらいたいものです。今井さん親子の地道な社会貢献活動が実を結ぶ日は近いかもしれませんね。今週号の5面で記事掲載しています。それでは、みなさん、よい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2022年11月19日号)

(1)渡月橋 久保修ワールド2020

(2)サッカーW杯 NYから応援イベント

(3)感謝祭の食卓を彩る 大石育子の暮らしのテーブル

(4)ブロードウエー博物館オープン

(5)国際色豊かなスパ ブルックリンにオープン

(6)風の環コンサート開催 安倍元首相を追悼

(7)米を抜いた日本の研究 脊椎損傷からの再生医療

(8)THE JAPAN VOICE One Story Award

(9)19歳女子、映画で世界に羽ばたく

(10 ) 既成概念を覆す表現手段を検証

渡月橋

久保修ワールド2022 春夏秋冬 FEEL JAPAN NOW

 京都の紅葉の名勝は随所にある。今回描いた場所は、嵐山にある「渡月橋」。

 桂川(かつらがわ)に掛かる長さ155mの橋で、滑らかな曲線の木製の欄干が、周辺の景色に溶け込み、美しい秋の風景を楽しめる。

 この季節には目の前にある山々が色鮮やかに染まる景色は、何とも言えないほど絶景。橋の上から山々を眺めて紅葉を楽しんだり、桂川沿いから橋と山々を重ね眺めて、構図を考えたりしてからスケッチブックに描き始める。今年の秋は、少し短いように感じている。

(くぼ・しゅう/切り絵画家/東京都在住)

サッカーW杯、NYから応援

23日マンハッタンでイベント

 サッカーワールドカップの対ドイツ戦日本代表をニューヨークから応援するイベントが23日(水)午前8時からマンハッタンのプレイライト・アイリッシュパブ(西35丁目27番地/5番外と6番街の間)で開催される。入場料10ドル(先着200人に1ドリンク券贈呈)。12月1日(木)には対スペイン戦の応援イベントも午後2時から開催する。NYで試合のライブ中継を店内スクリーンで見ながら応援。12歳未満も入場可。主催はOプランニング。同社はニューヨークから日本代表をサポートする観戦イベントを2002年から開催し、今年で6回目。過去5大会は、時差にも関わらず、毎試合平均500人がイベントに参加して応援した。前回ワールドカップ・ロシアでの決勝トーナメント・ベルギー戦でのロスタイムの敗退から4年。日本サッカー躍進の原点となった「ドーハの悲劇」が繰り広げられたカタールに舞台を移し、23日に強豪ドイツと初戦を迎える。