空手の日米武道館、NYで創立1周年

 バイオリニストとして知られる五嶋龍さんがニューヨークで空手道場「日米武道館」を設立して1年になる。その記念パーティーがミッドタウンの道場で11日昼開かれた。「伝統的な価値観を現代に生かす」をモットーに、武道を通じて日本とアメリカの文化の懸け橋になるため、現代的なアプローチをとっていくとして道場をスタート。目標は「年齢や性別、国籍に関係なく常に人格、運動能力、向上心を育むマインドセットを養う」ことだ。実は五嶋さんは、7歳から空手を始め、日本空手協会三段の有段者。米国ナショナル空手フェデレーション三段、日本空手協会ナショナルチームメンバー、AAUメダリスト、船越義珍杯 第14回 世界空手道選手権大会ファイナリストにも選ばれたことがある。

 幼少より、バイオリン、空手に親しみ、勉学の傍ら世界に名だたるオーケストラとの協演、リサイタル、メディア出演を重ねる。実姉は世界的なバイオリニストの五嶋みどりだ。ハーバード大学在学中より多面に渡る企業設立に関わり、音楽家、起業家、空手家である経験を生かして、社会活動にも貢献するマルチ武道家。武道が他の仕事と両立できないとは考えていないが「現在は、バイオリニストと空手師範の二兎は追わない」とキッパリ。五嶋さんは「1周年を迎えた道場の生徒たちには、間違いなく人間のプライドと武芸をもって積み重ねる健全な息吹を感じさせています。老若男女、国籍を超えた大きな輪、和、がより一層のエネルギーを持って育つことに期待しています」と話す。日米武道館基金制度も設立した。大会に参加する際の選手の経費の支援、進学にあたっての奨学金などがファンドの対象になる。練習は、日米武道館(7番街255番地3階、電話603・803・3757)で、稽古は毎週火曜、木曜、土曜。問い合わせはEメール info@jabudokan.com 詳細はhttps://linktr.ee/JABudokan

NYで小津安二郎の映画伴奏を披露

無声映画伴奏者・作曲家

松村 牧亜さん

 昨年、NY近代美術館(MoMA)で上映された、牛原虚彦監督の青春映画『若者よなぜ泣くか』(1930年)や、菊池寛の小説を映画化した清水宏監督『不壊の白珠』(29年)などの無声映画の伴奏をした松村牧亜さん。同年8月には特別イベントとして夕方からMoMAの中庭に巨大スクリーンとピアノを置き、1922年製作の米無声映画『愚なる妻(Foolish Wives)』を伴奏。都会のビル群に囲まれた真夏の夜空の下、満員となった会場で観客たちは100年前の大作映画と松村さんの即興演奏に酔いしれた。それはまるで最初から映画のBGMだったかのように、すんなりと耳に馴染む松村さんの演奏に、本物志向が集うNYの会場で大きな拍手とブラボーの声が飛び交った。

 松村さんは東京出身、6歳から作曲とピアノを学ぶ。東京藝術大学音楽学部作曲科を卒業後、ジュリアード音楽院にて作曲修士号を取得。作曲活動、映画・テレビへの音楽提供のほか、2003年に東京で開催された小津安二郎生誕100周年企画に伴奏者として招聘されたのをきっかけに、ピアノ即興演奏による無声映画伴奏という演奏形態に出会い、その魅力の虜になった。現在はMoMAのほか、アメリカ映像博物館、米国議会図書館等で初の日本人無声映画伴奏者として活躍している。日本国内で活動する無声映画伴奏者は10人ほど、NY近郊の日本人では松村さんが唯一の存在である。

 そして、現在フィルムフォーラムで開催中の小津安二郎生誕120周年記念「OZU120」で、19日(月)夜に上映される1932年製作映画『生まれてはみたけれど』に日本から来米する活動弁士とともに出演する。

 「私が無声映画伴奏の世界に初めて出会ったのはちょうど20年前、東京・国立フィルムセンター(現国立フィルムアーカイブ)での小津生誕100周年記念プログラムでした。その時にも担当した『生まれてはみたけれど』を20年後のNYでまた伴奏できることになり、とても感慨深いです。私の無声映画伴奏者としてのキャリアは正に小津作品あってこそだなぁと、しみじみ振り返っております」と話す。無声映画の即興伴奏と今では珍しい活動弁士の共演が見られるまたとない機会である。

(高田由起子、写真も)

日本から活動弁士が来米、小津映画上映会

 小津安二郎(1903〜1963)監督生誕120周年を記念した映画上映会「OZU120」が29日(木)まで、フィルムフォーラム(ウエストハウストン通り209番地)で開催されている。(国際交流基金とフィルムフォーラムの共催) 

貴重なサイレント映画15本を含めた現存するすべての作品30本以上を紹介する特集で、大多数の作品を35ミリで上映している。

片岡一郎氏

 19日(月)と20日(火)は、日本から活動弁士の片岡一郎氏を招いた上映会も決定した。片岡さんは1977年東京生まれ。日本大学芸術学部演劇学科を卒業。02年、活動写真弁士の第一人者である澤登翠に入門。レパートリーは日本映画・洋画・中国映画・アニメ・記録映画と多岐に渡り、総演目数は約350作品。執筆や舞台出演、声優業もこなす。2019年のNHK大河ドラマ『いだてん』や、同年に周防正行監督による映画『カツベン』にて出演、時代考証、活動弁士の実演指導をした。

 片岡さんは、19日午後8時15分から『生まれてはみたけれど(I was born, but…)』と『突貫小僧(A straight for ward)』の2本立て、20日は午後6時20分から『その夜の妻(That night’s  wife)』にて語りを披露する。また、19日はNY在住の無声映画伴奏家、松村牧亜さんがピアノの即興演奏をおこなう。

 入場料は一般30ドル、会員20ドル。チケット・詳細はウェブサイトhttps://filmforum.orgを参照。

OZU120 活動弁士上映作品

▽生れてはみたけれど(1930年)=19日(月)午後8時15分=写真=

 小津監督のサイレント期を代表する傑作で、サラリーマン社会の悲哀を子供の視点から描いた喜劇映画。良一と啓二の父は、重役の岩崎の近くに引っ越して出世のチャンスをうかがっている。だが兄弟の前では厳格そのもの。引っ越しで転校した兄弟は悪ガキ仲間と友達になり一緒に遊ぶようになる。ある日みんなで「うちの父ちゃんが一番えらい」と自慢する話が出る。兄弟も自分の父親が一番えらいと信じて疑わなかったが、ある日、岩崎の家へ行って見せてもらった16ミリ映画の中で、父は岩崎の前でお世辞を言い、動物のまねまでしてご機嫌伺いをしていた。

▽突貫小僧(29年)=19日(月)2本立て

 路地で子どもたちがかくれんぼで遊んでいる。そこへやって来た人さらいの文吉、子どもたちのひとり鉄坊に目をつけて「楽しいところへ連れていってあげよう」と鉄坊を連れ出す。その途中、鉄坊がぐずり出し、菓子パンやらおもちゃを買い与えてようやくおとなしくさせた。しかし今度は変装用の付けひげをむしり取られるなどのいたずらに手を焼く。警官が近くにいることもあって文吉は気が気でない。文吉はようやく親分の権寅のところに鉄坊を連れてきたが、腕白ぶりを発揮し、悪さのし放題。「どこかへ捨ててきてしまえ」という権寅に、文吉は再び元の場所まで鉄坊を連れて戻る。 

▽その夜の妻(32年)= 20日(火)午後6時20分

 雑誌『新青年』1930年3月号に掲載されたオスカー・シスゴールの短編小説『九時から九時まで』を原作に野田高梧が脚色した作品。橋爪周二は病床に伏している娘みち子の治療費を工面するため、ビジネス街に拳銃強盗に入る。金を盗みだした後、追う警官隊から逃れタクシーで妻子の待つ家へ向かう。周二は妻のまゆみに奪った金を渡し、みち子の病気が治ったら自首すると告げる。その時、周二が乗って来たタクシーの運転手が訪ねてくる。実はタクシーの運転手に変装した刑事の香川だった。

編集後記 2023年6月10日号

【編集後記】

 みなさん、こんにちは。カナダ東部で発生している山火事の煙が6日午後から1000キロ以上離れたニューヨークを始めとする米東部一帯まで到達し、マンハッタンは、昨日も今日も普段明るい夕方でも空がかすんでました。イーストリバーを挟んで、印刷所のあるクイーンズから戻ってくる時にマンハッタンが見えませんでした。健康被害も心配ではありましたが、久しぶりにマスクをしてマンハッタン内の日系食料品店・マーケットに刷り上がった新聞を車で回って設置してきました。車を降りて5分も歩くと目が痒くなる感じで、今日は街行くニューヨーカーたちも半分くらいはマスク着用でした。朝の印刷直前に紙面を差し替え、5面に山火事による大気汚染情報を掲載しています。締め切りには3時間ほど間に合わなかったのですが、ニューヨーク日本総領事館から注意喚起のメールが届いてましたので、このメルマガで併せてお知らせします。以下の通りです。(原文ママ)

(注意喚起)大気汚染

●カナダで発生した山火事の煙が米北中部に広がり、特に米北東部において大気質に深刻な影響が出ています。

●大気汚染の深刻な地域においては、幼児、高齢者及び呼吸器系や循環器系に疾患のある方の屋外での活動はなるべく控えてください。

1 6日、ホークル・ニューヨーク州知事は、カナダ・ケベック州で発生した100件以上の山火事の影響で、ニューヨーク州の大気質に深刻な影響が出ているとして、健康対策に必要な措置を取るよう呼び掛けています。また、現在、大気汚染勧告が、ロングアイランド、ニューヨーク市地下鉄、ロウアー・ハドソン・バレー、アッパー・ハドソン・バレー、アディロンダックス、東オンタリオ湖及び中部ニューヨーク地域に出されています。

2 また、NY州環境保護保健局は、大気汚染レベルの上昇による健康への悪影響のリスクを軽減するために激しい屋外活動を制限し、また幼児、高齢者及び心臓病や喘息など呼吸器系や循環器系の疾患を抱えている人は可能であれば屋外で過ごすのを避けるよう呼び掛けています。同様に、ニューヨーク市保険局でも、空気中の微粒子状物質は人々の肺に入り込み、炎症を引き起こし、喘息、慢性肺疾患、基礎的な心臓病などの症状を悪化させる可能性があるとし、長時間屋外にいる必要がある場合は、高品質マスクの着用を推奨しています。

3 在留邦人の皆様におかれては、米政府、各州、各市などが発表する最新情報(以下参考情報ご参照)に御留意の上、外出する必要がある場合は高品質マスクの着用、また室内では空気清浄機を使用するなどの対策に心掛けていただくとともに、特に幼児や高齢者、呼吸器系や循環器系の疾患のある方は外出を控えるなど、健康管理には十分御留意ください。ーーーーということです。この天気、まだ2、3日は続きそうです。それでは皆さんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2023年6月10日号)

(1)日米関係は密接 森大使が米紙に投稿

(2)走る青春再び グリニッチで旧車ショー

(3)夏はスカッとマドラスジャケット

(4)第53回KAA奨学金授与式 日系学生を支援

(5 ) 少子化の元凶は異常な教育行政

(6)カナダの山火事 米東部に煙到達

(7)天安門事件記念館 NYのビル内に開館

(8)東宝映画特撮の名作 怪獣総進撃JSで16日

(9)バレエの楽しさを伝える 針山真実さん

(10) 世界の仲間と考え語る JOES Davos Next 2023

日米関係は密接な絆

森大使が米紙に投稿

 ニューヨーク総領事の森美樹夫大使(=写真右)が、地元紙ニューヨーク・デイリー・ニュースに「ニューヨーク市と日本の古い歴史、米国と東アジアの島国の深い絆」と題する意見投稿をした。掲載されたのは、ジャパン・パレード前日の5月12日付の印刷版と電子版。この中で、2023年ワールド・ベースボール・クラシック優勝決定戦の大谷翔平選手とマイク・トラウト選手との対決に触れ、「この試合が忘れられない試合であり、日米両国民の私たちが共有している多くの文化的側面を思い出させてくれた」とし、「スポーツは日米の架け橋であり、特にここニューヨークではその傾向が顕著」な例としてブロンクスにはヤンキースのスーパースター松井秀喜、クイーンズにはメッツのエース投手千賀滉大、ブルックリンにはネッツのシャープシューター渡辺雄太、マンハッタンにはニックスのアシスタントコーチ吉本大輔など、伝説の日本人スポーツ選手を受け入れてきた街であると述べた。また米国における日本製アニメの人気や、日本にも負けないほどのクオリティを誇るラーメン店、ブルックリン植物園の日本庭園、日本製の地下鉄車両などを引き合いに出し、「時として当たり前と思われたり、まったく気づかれなかったりすることがあるが、米国、ニューヨーク市民の日常生活の中に、日本との密接な結びつきがあることを思い出してほしい」と述べ、5月には広島で開催されたG7サミットで議長国を務めたこと、第2回のジャパン・パレードを紹介し、「日本語の授業に参加したり、日本の趣味を始めたり、日本人の友人を作ったり、あるいは日本へ旅行して思い出に残るような旅をしてほしい」と呼びかけた。

https://www.nydailynews.com/opinion/ny-oped-nyc-and-japan-go-way-back-20230512-jq3u66h3e5h6fmvjajbpvdhaly-story.html

走る青春再び

2023 GREENWICH CONCOURS D’ELEGANCE

 コネチカット州グリニッチで2日から4日まで、同町のクラシックカーを扱う旧車専門ディーラーや、地元の旧車コレクターたちが自慢の車を出品するコンコース・デ・エレガンスショーが開催された。

 入江のヨットハーバーにモータースポーツをこよなく愛するドライバーたちの愛車がずらりと勢揃いした。その一台一台が、現代の自動車が失ってしまった個性的な美と魅力を強力に放ち、訪れたシニアや若者を魅了した。

青春時代の夢いまならできる
グリニッチにマニア集う

 コネチカット州グリニッチで2日から4日まで開催された旧車展示会コンコース・デ・エレガンスは、今年で開催27年目を迎える米東部クラッシックカーコンテストの名門。世界の名車が揃う展示会が、町の住民のコレクションだけで成立するのはさすがグリニッチ。赤白ツートンカラーの美しい1957年製シボレー・コルベットのオーナー、ハーベイ・ワグナーさん=写真上=は「高校生のころ、憧れていたけど当時は手がでなかった。78歳でやっと手に入れたよ。オリジナルペイントでドライブも快適さ」と少年のような笑顔を見せた。(写真・三浦良一)

夏はスカッとマドラスジャケット

 陽が長くなったなあ、と思ったらメモリアルデーを過ぎました。はい、夏が来た!ですね(笑)。そして誰かれ気にすることなく、明るい色の綿や麻のジャケットやパンツが仕事で着れます、というのがアメリカの伝統(笑)。

 私はおそらく年齢のせいか、いや単に私が暑さ寒さの感じ方が鈍いから、という声も多しなんですが、洋服屋なのに気温の変化に鈍いのはダメですよね(笑)。

 これには理由(笑)がありまして、子供の頃に父親から、そして僕が初めてアメリカに来たのが16歳の夏だったのですが、その時御世話になったホストファミリーの御主人、Mr.Higginsからも偶然同じことを言われたのです。それは、「男は暑い寒いを口に出すな。特にスーツを着用している時には」でした。

 16歳その当時の私を振り返ってみますと、飛行機での移動の際、またスピーチや合唱の練習などで地元の教会に出掛ける時など、思い返せばほとんどがスーツ着用だったのでした。正直、何かと緊張しておりましたし、暑いだの寒いだの感じている心の余裕はありませんでした(笑)。

 そんなある日の週末、教会で一張羅のスーツを着用しての雑用、真面目にやってる様に見えてそれなりに悪くはなかったと思うのですが(笑)、16歳の僕から見て、おそらくは30歳代後半の男性が2人、それぞれにさまざまな色を使ったチェック柄のジャケットを着ていたのです。教会で着るのはちょっと派手かな?とも思いましたが、太陽燦々の夏の週末にはチェック柄がカジュアルでスポーティな空気を纏いながらも、きちんとしたジャケットに仕立られているので”ほどよいキチンと感とヌケ感”が感じられたのでしたが、それがいわゆるマドラスチェックのジャケットだったのです。

 16歳の僕にはジャケットの素材がウールではなく綿であることは判りましたが、着用されてる御一人はボタンダウンのシャツにネクタイはなし、もう御一人は無地のニットタイを締めておられました。気がついたことは「なるほど、柄が目立つジャケット地以外は無地にするのがスッキリしていいんだ」と(笑)。合わせるパンツは当然グレーやベージュの無地で茶色のローファー。

 マドラスチェックの柄に紺色が入っており、そのためシャツは淡いブルーの無地を合わせ、ニットタイは夏ということもあり素材はシルクか綿、色は濃紺無地、勿論黒でもOKと半世紀近く経った今でもハッキリ脳裏に残っているのです(笑)。聞いた話では人間の記憶はヴァーバル言葉より、ビジュアルな記憶の方がポジティブなイメージはより鮮明に記憶に残る、ということらしいのです。

 暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領が、現在においても概ねポジティブなイメージ、人気が高いことの理由の一つがやはり装いについてのイメージ、印象がとても良かったからと言われてもおりますね。

 この様な意味あいにおいて、私たち日本の男性はその装いにおいて、まだまだ進歩出来る余地は多いに残されていると言えるのではないかと思うのですが、如何?

 Art of wearingという程のことではないのかもしれませんが、出会った方にポジティブ、一人の男性として良い印象を持っていただくことは、御洒落だとかダンディだとかのイメージよりも大切なことだと思うのです。

 ところで、この数十年の間で見えるところ、見えないところで世界はやはりkeep changingですね。最近、インドが人口で中国を追い越したという御話。そして、私たちに馴染みのあるインドの地名がこの20数年でいくつも変わってきました。実はマドラスチェックのマドラスは、インドが植民地時代の最大の貿易港でしたが、今日チェンナイに街の名は変わっておりますね。将来、私たちに馴染みのあるマドラスチェック、チェンナイチェックと呼ばれる日が来るのでしょうか?

けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス.カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。

日系学生を支援

第53回JAA奨学金授与式

NY地区から全米の名門大へ

 ニューヨーク日系人会(JAA)が主催する第53回奨学金授与式が5月31日夕、ハーバードクラブで行われた。今年の秋から米国の大学に進学する11人にJAA奨学金が、大学院に進む5人に第17回本庄スカラシップが授与された。佐藤貢司JAA会長の歓迎の挨拶、今年の奨学金委員長の和田知徳米州住友商事社長CEOの授与式開会の挨拶に続き、ニューヨーク総領事の森美樹夫大使が祝辞を述べ、NY日系人会のこれまでの奨学金支援に対する功績を称えた。

 授与式の前に藤田浩之クオリティー・エレクトロダイナミクス社創業者兼CEOが基調講演を行った。藤田氏は、スピーチの中で学生たちに「常に前向きの態度を持ち、よく考え、失敗を恐れず、他者との違いを理解・尊重し、誰が正しいかではなく何が正しいかを見極め、友人とのコミュニケーションを大切にし、未来を信じて生きて行ってほしい」と7つのポイントをあげてアドバイスした。奨学金受賞者は次の通り(敬称略)。

 ▽村瀬ファミリー賞(1万2000ドルと全日空の日本往復航空券=グレシャス・采紀・ジョセリン(ライネック高校からペンシルベニア大学へ進学)▽MUFG賞(1万ドル)=ローネン・モト・レミー(モンクリア・キンバリー・アカデミーから米陸軍士官学校・ウエストポイントへ進学)▽カクタ・エリ賞(8000ドル)=端倉空我(バーゲン・カウンティー・アカデミーからコーネル大学へ進学)▽富川宗次博士賞(7500ドル)=大西・モモカ・紅伶亜(パール・リバー高校からバッサーカレッジへ進学)▽米国オリエントコーポレーション賞(5000ドル)=吉平・アスタ・記子(ウエストウインザー・プレインズボロー高校南からボストン大学へ進学)▽一戸&堀重賞(5000ドル)=チェン・マサコ・凛(一色凛)(バーゲンカウンティー・アカデミーからフォーダム大学へ進学)▽松川とし子賞(5000ドル)=キーン・カツ・クーパー(カーチス高校からコロンビア大学へ進学)▽ TVジャパン賞(3000ドル)=安藤心春(デマレスト・ノーザンバレー地区高校からジョージタウン大学へ進学)▽斉藤もと賞(2500ドル)=ウェイ・スーザン・キンバリー(ママロネック高校からコロンビア大学バーナードカレッジへ進学)▽全日空ジャパン・トラベル賞(JAAから1000ドルと全日空の日本往復航空券)=井澤・ルーク・幸平(グリニッチ高校からニューヨーク大学へ進学)。

 第17回本庄奨学金受賞者(合計3万ドル)▽ランディー・エルビエル・ガルシア・マルチネス(NY市立大学大学院・1万ドル)▽ハルカ・コカゼ(ニューヨーク大学大学院・8000ドル)▽アンナ・ガシャ(コロンビア大学大学院・6000ドル)▽ケンタロウ・タマキ(ジョージタウン大学大学院・3000ドル)▽キクコ・タナカ(市立大学大学院センター・3000ドル)。

天安門事件記念館、NYのビル内に開館

今月末に一般公開へ

 1989年に中国・北京で起きた「天安門事件」の記念館が、事件から34年目にあたる6月4日を前に2日、ニューヨーク市にオープンした。場所はエンパイアステートビル近くのビル(6番街894番地、6番街と32丁目の角)の4階。

 北京の天安門広場で1989年6月4日、民主化を求めた学生らが武力で弾圧された。事件の様子を展示する「六四記念館」は香港にあったが、香港国家安全維持法が制定され、2021年に強制的に閉鎖された。これを受けて、当時の学生運動のリーダーのひとりだった王丹さんらが中心となりニューヨークに作ることで準備を進め、8か月で50万ドルを集めて開館にこぎ着けた。(写真上:展示会場では香港で展示されていたものをそのまま公開)

天安門を取材中に襲撃された記者の血糊の着いた服の前に立つユー氏

 ニューヨークは米国で中国系住民がもっとも多く住む都市であり、また本土からの観光客も多い。また世界中から関心が集まるとの期待からこの地が選ばれた。王丹さんは「この博物館は歴史のためだけではなく、現在と未来のためでもあります。わが国の将来のために、若い世代には何かをする義務や責任があると思います」と述べている。ニューヨークの高校などとも協力したいという。 

 天安門事件での武力弾圧による死亡者数は中国当局の発表で319人。しかし2017年に公開された英外務省の公文書では1千人から3千人と推計している。およそ2000平方フィートの展示スペースには、当時掲げられていた旗や、血痕の付いた横断幕、記者が着ていた血痕が付いたシャツ、テント、当時のチラシ、兵士のヘルメットなどが展示されている。犠牲者リストには確認の取れている約200人が掲示されている。

 エグゼブティブディレクターのデイビッド・ユー氏は「この記念館は反抗の象徴です」と語っており、展示されていない写真、音声、ビデオも多数あるという。また近年の香港の民主運動関連のものも展示している。6月下旬からはインターネットで予約して誰でも見学できるようになる予定。王丹さんらはもう150万ドルを集めて記念館を拡張したいと語る。

(武末幸繁、写真・三浦良一)

少子化の元凶は異常な教育行政

 6月2日に2022年の人口動態統計が発表された。まず出生数だが、2月に発表された年間79万9728人という数字は、実は大甘で、実際はこれを大きく下回る77万747人だった。団塊世代のピークが270万人弱、団塊二世のピークが209万人だったことを考えると、国家の異常事態である。合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数)も1・26となり、前年の1・30から大幅に悪化した。

 この数字だが、短期的にはコロナ禍の影響と見ることはできる。コロナ禍で披露宴の自粛を迫られて結婚を繰り延べたとか、陽性なら自動的に帝王切開になると言われれば妊娠を先送りする夫婦も多かったと思われる。コロナ禍だけが原因ならば、揺り戻しが期待できるかもしれない。けれども、現在に至っても日本社会では、更なる少子化へ向かって重苦しい絶望感が広がっている。その原因は、教育コストの負担という問題だ。「もう1人子どもを持つことを諦める」理由を問うアンケートなどでは、多くの場合この問題が5割を超えている。

 そこで岸田政権は、「子育て政策」などと称して、一律にカネを配る準備を進めている。だが、その前に日本国内の議論で根本的に欠落している点があるという指摘をしておきたい。それは教育行政が異常ということだ。異常な政策が続いているために、子育てにおける教育費への不安感が、若い夫婦を追い詰め「子どもを産むのを諦め」たり、「2人目はムリ」という絶望へ追いやっている。

 それは、塾社会という問題だ。塾の横行は1970年代に都市部から始まり、現在では全国に広まっている。学校教育だけではカリキュラムについていけない学習困難児をサポートする塾などは、儲け主義であってはならないが、社会的に必要とも言える。同様に、飛び級制度の対象となるような特別な才能を伸ばす塾などにも存在意義はあるだろう。

 問題は現在の中高生にとって、塾へ行くことが必須となっていることにある。まず高校入試だが、普通科の中でも大学進学を前提とするような上位校に入学するには、各県や私学の入試に合格しなければならない。ということは、大学進学を計画している中学生は高校受験のために十分な「受験勉強」をする必要がある。ところが、この「受験勉強」は公立中学では教えてもらえない。教員はその訓練を受けていないばかりか、そもそも教科書を逸脱した「受験勉強」を教えることは禁止されている。そこで、将来大学進学を計画している中学生は塾に行くことを余儀なくされる。

 高校から大学も同様だ。大学に受かるには受験勉強が必要だが、これも塾に行かないと指導が受けられない。一部の医学部などだけではない。明治以降の日本社会を支えてきた国立や私立の一流大学に入るためには、塾に行く必要がある。このように社会的に重要性の増している塾であるが、その塾というのは、文部科学省の所轄ではない。事実上は経産省の所轄となっていて、営利企業が運営することが多く、株式上場している場合もある。教員は無資格で良く、経営は無認可で構わない。

 例外は地方各県で、高校が時間外に教員による「補習」を行い、多くの県ではこの「補習」だけで東大京大をはじめとする難関校に子どもたちを合格させてきた。だが、この「当たり前」の良き習慣も、働き方改革を理由に破壊されつつある。これは塾産業の地方進出と裏表の関係にある。

 つまり、文部科学省は国策として、エリート教育を放棄しており、そのコストを個々の家庭に押し付けているのだ。その結果として、現在の日本では大卒正社員というのが一種の階層となっている。これが世襲され社会の保守化、停滞化を招いていると言えるだろう。何よりも教育コストへの不安が少子化をここまで悪化させてきた。これを異様な国策と言わずして何であろうか?

 対策は簡単だ。公教育における「能力別クラス」を許可し、受験指導を行うことを認める。それだけだ。高校数学「iii」の教科書は公立校では高校3年生にならないと使用できないなどという馬鹿げた規制も撤廃すべきだ。その上で、優秀な塾教師には教員免許を与えて、正規の学校における受験指導を任せれば良い。そうすれば教員不足も解決するであろう。

 こうした問題の本質を無視して、財源の怪しい中でカネを配ることが「異次元の少子化対策」などというのは、笑止千万と言わずして何であろうか。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)

米東部一帯に大気汚染

カナダ山火事の煙が到達

 カナダ東部で発生している山火事の煙が6日午後から1000キロ以上離れたニューヨークを始めとする米東部一帯まで到達し、マンハッタンは同日、普段明るい夕方でも赤茶色に空がかすんで薄暗くなった。州当局は、持病がある人に対して外出を控えるよう呼びかけている。外を歩いていると、目がちくちくするような感覚と焦げたような匂いが街を覆った。地元メディアによると、ニューヨーク州のほか、中西部のミネソタ州やウィスコンシン州など、カナダに近い広い範囲で山火事の煙が流れ込んだ。

 カナダの山火事は、1週間以上に渡ってオンタリオ州とケベック州にまたがる東部の一帯で燃え続けており、ケベック州では160件以上の火災が報告され、そのうち少なくとも114件は制御不能のまま。17万3000ヘクタール以上が焼失し、約1万人の住民が火災地域から避難している。煙は、米国東部を南下している。この煙は、曇り空の原因となるだけでなく、喘息、慢性気管支炎、COPDなどの呼吸器系疾患を持つ人の症状を悪化させる可能性のある微小粒子状物質を含んでいる。煙にさらされると、目、鼻、喉の炎症、咳、くしゃみ、鼻水、息切れなど、短期的な健康被害が生じる。

 ニューヨーク州環境保全局によると、心臓や呼吸に問題がある人、子供や高齢者は、特に煙の影響を受けやすいとされている。国立気象局によると、煙にさらされて症状が出やすい場合は、可能な限り屋内にとどまり、外にいる時間は厳密に必要な活動に限定するよう注意を喚起している。また、全米気象局はニューヨーク市民に対し、自動車、ガス式芝刈り機、その他の燃料を燃やす乗り物など、公害の原因となるものの使用を最小限にとどめるべきだと指摘している。ニュージャージー州フォートリーでは7日まで大気汚染警報が発出された。ニューヨーク市は、6日午後の時点で、バングラディッシュのダッカ、インドネシアのジャカルタ、インドのニューデリーなどの都市と並んで世界の空気汚染ワースト上位5位に入っていた。これを受けて州内中部では少なくとも10学区が屋外での授業を中止した。山火事の煙には、危険な大気汚染物質のPM2・5が含まれている。ニューヨーク市の大気のPM2・5濃度は6日、世界保険機関(WHO)の基準値の10倍を超えた。

(写真)煙の流入で空がかずむマンハッタン(6日、CNNテレビ画面から)