【今週の紙面の主なニュース】(2023年9月9日号)

(1)米国で最も物価高い 1位はマンハッタン

(2)Airbnb はNYで禁止 NY市が5日から新規制 

(3)21世紀NY 過去に到着

(4)NY映画祭開催へ 29日からメイン部門は32作品

(5)NY日本人美術家協会 年次展覧会盛大に開催

(6)「いただきます」もみじ真魚 NYで21日から個展

(7)外資の介入なければ動かない日本社会

(8)地下鉄工事で大迷惑 トラムに観光客殺到

(9)A .T.ダンスカンパニー 和と洋で旗揚げ公演

(10 ) バックトゥザフューチャー 新ブロードウエー界隈

米国で最も物価の高い所

1位マンハッタン

物価は倍、住居費4・8倍
民間調査機関全米平均比

 地域経済発展を調査する非営利機関カウンシル・フォー・コミュニティ・アンド・エコノミック・リサーチ(C2ER)はこのほど、米国主要都市の今年第1四半期の消費者物価指数を発表し、マンハッタンの物価は国内で最も高かったことが分かった。 

 同機関は国内271都市を対象に、今年1月1日〜3月31日の住居費、光熱費、食費、交通費、医療費、そのほかの生活日用品やサービスの価格を比較した。マンハッタンの物価は国内平均の倍以上222%と最高で、2位はホノルル(179%)、3位サンフランシスコ(169%)だった。 

 マンハッタンは特に、富裕層が多い一方、空き物件が限られているため、住居費は国内平均の4・8倍で、エンタメやアルコール類、服飾、食費も軒並み国内最高となっている。日本からの旅行者も、円安の影響も受けて、市内のレストランで食事をして「ラーメンと餃子を食べて日本円で6000円はないでしょう」と悲鳴をあげている。以下上位10位は、4位ブルックリン、5位カリフォルニア州オレンジ郡、6位ロサンゼルス(ロングビーチ)、7位ワシントンDC、8位ボストン、9位シアトル、10位サンディエゴで、NY市内では13位クイーンズ、15位ナッソー郡が上位にあがっている。 

30日以内のNY短期滞在、NY市が5日から禁止

Airbnbの自宅貸し出し

 ニューヨーク市は5日、住民がAirbnbのようなプラットフォームを使って家を貸し出すことを制限する厳しい新規制の施行を開始した。この動きにより、プラットフォームから数千件の物件が削除される見込みだ。これは、大都市とホームシェアリング企業との長年にわたる確執における、最新かつ最も重大な進展となる。6日付ニューヨークタイムズ紙によると、市は、Airbnbやその他のプラットフォームを通じた短期賃貸の普及が家賃を押し上げ、ニューヨーク市の住宅不足を助長していると主張している。新規則はこのプラットフォームに対する「事実上の禁止」に等しいとし、他の批評家は、市はホテル業界のロビー活動に屈し、観光客のための安価な選択肢を締め出していると述べている。

 何年もの間、市は既存の法律では、ホストが滞在中に立ち会わない限り、30日未満の滞在者に家を貸すことはできないと主張してきた。市はまた、一度に2人以上のゲストが滞在することは許されず、ゲストは家全体にすぐに出入りできなければならないと主張している。 

12月1日までの予約有効

違反業者には罰金を課す可能性

 アパートや一軒家を丸ごと貸し出すリスティングは依然としてニューヨーク市内に多数あり、市はAirbnbのような企業が違反者を根絶するために自社のプラットフォームを十分に積極的に取り締まっていないと主張している。

 7月に裁判所に提出した書類の中で、Airbnbが2022年にニューヨーク市内で計上した短期賃貸による純収入8500万ドルの半分以上が違法行為によるものだと主張。Airbnbはこの数字に異議を唱えている。市が5日から施行した新しい規制は、ホストが短期賃貸を許可されるために市に登録することを義務付けている。規則に違反したホストは、再犯者に対して最高5000ドルの罰金を課される可能性があり、プラットフォームは違法なレンタルを含む取引に対して最高1500ドルの罰金を課される可能性がある。Airbnbは、特にホテルが少ない地域においては、短期的な住宅レンタルは市の観光経済に役立つとしている。Airbnbは、市条例では一部の一戸建てや二世帯住宅での「非ホスト型 」レンタルを認めるべきであり、ニューヨーク市の独自の法律解釈は「不合理 」であると主張し、新ルールと法廷で争ってきた。Airbnbはまた、登録システムが不必要に複雑であるとも主張している。その訴えは先月棄却された。Airbnbによると、一部のリスティングは自動的に長期レンタルに変更され、他のリスティングは無効化されるという。9月5日から30日以内にAirbnbを予約した場合、12月1日以前にチェックインする滞在であれば、予約はキャンセルされない。12月2日以降の予約はキャンセルされ、返金されるという。 

21世紀NY 過去に到着

 私は地球人M。

現在は月に住んでいる。 

100年前のNYにタイムトリップして飛んできたの。もちろん愛犬のCHICHIと一緒よ。そしたら写真で見た200年前の景色と変わってなくってビックリ。ここは過去と未来とを結ぶ地下鉄駅。未来に帰るわ。

 まるでレイ・ブラッドベリのSF小説のような昼下がり。

(地下鉄アスタープレース駅で、2023年9月2日撮影。写真・三浦良一)

NY映画祭開催へ

29日から開幕

メイン部門は世界から32作品

 今年も9月29日から10月15日まで、ニューヨーク映画界最大の催し物であるニューヨーク映画祭が開催される。61周年を迎える本年は、リンカーン・センターのほか、ニューヨーク市各地5会場で上映される。世界の話題作を集めた32作品が上映されるメイン部門のほか、注目される新作、ドキュメンタリー、実験映画など多彩なプログラムである。

 メイン部門のオープニング作品はトッド・ヘインズ監督がナタリー・ポートマンとジュリアン・ムーアの二大スターを迎えアメリカ文化を分析するドラマ『May December』。中間ハイライトは、エルヴィス・プレスリー夫人を描くソフィア・コッポラ監督の『Priscilla』。クロージングは、マイケル・マン監督の『Ferrari』で伝説的レース・カーの産みの親(アダム・ドライヴァー)を解剖する。

一作ごとに話題になる監督作品では、ヴィクトル・エリセ(スペイン)、アキ・カウリスマキ(フィンランド)、アグネシュカ・ホランド(ポーランド)、マルコ・ヴェロッキオ(イタリア)、ホン・サンス(韓国)、ワン・ビン(中国)等の新作が期待を高めさせる。

 話題作を集めたスポットライト部門のオープニング作品、ブラドリー・クーパー監督・主演による音楽家レナード・バーンステインの伝記映画『Maestro』をはじめ、ペドロ・アルモドヴァルの西部劇メロドラマ短編『Strange Way of Life』、スパイ小説家ジョン・ルカレを描くエロール・モリスのドキュメンタリー『The Pigeon Tunnel』、ギリシャを舞台にエマ・ストーン主演のドラマが生演奏付きで上映されるヨルゴス・ランテイモス監督の『Bleat』などが上映される。

  日本関係では濱口竜介監督の『悪は存在しない(Evil Does Not Exist)』、ヴィム・ヴェンダーズ監督が役所広司を主演に日本で撮影した『Perfect Days』、宮崎駿監督のアニメ新作『君たちはどう生きるか(The Boy and the Heron)』、空音央監督が父である坂本龍一の最後のコンサートを撮った『Ryuichi Sakamoto | Opus』がある。

  尚、ジム・ジャームッシュ監督による映画祭ポスターは、加山雄三の顔があるレコード・ジャケットを使用している。(平野共余子)

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 会場はアリス・タリー劇場(ブロードウエーと65丁目)、ウオルター・リード劇場(65丁目のブロードウエーとアムステルダム・アベニューの間)ほか。詳細はwww.filmlinc.org

(写真)坂本龍一の最後のコンサート『Ryuichi Sakamoto | Opus』© Neo Sora

NY日本人美術家協会、年次展覧会盛大に開催

 昨年設立50周年を迎えたニューヨーク日本人美術家協会(JAANY、松田常葉会長)は8月31日から9月14日(木)まで天理文化協会ギャラリー(西13丁目43A番地)で第51回年次展覧会を開催している。1日夕、オープニングレセプションが開かれ、政府関係者、アーティスト、学生、ビジネス関係者ら約200人以上の来場者で賑わった。会場では1点200ドル以下の小作品展示コーナーも設けられ、収益金(作品価格の50%)はハワイマウイ島の火災被災者救済基金に寄付される。また、今展優秀作品2点に与えられる「マックス・ブレッチャーJR賞」に今年は小野田昌子さんの作品「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」に贈られた。また元理事の故末村敬三氏の厚意による「末村敬三賞」には先月8月に94歳で亡くなったロス郁子さんの作品「リーディング・ブレーク」に贈られ、長男のジョシュアさんが賞を松田会長から受け取った。

 出品作家は、青柳愛子、藤原未佳子、古川文香レオナート、佳奈ヘンデル、林幸江、平之内美穂、石田純一郎、柏木文子、越光桂子、松田常葉、三浦良一、長倉一美、小野田昌子、ロス郁子、竹下宏、山本かりん、YUKAKO、遊真あつこの現会員と2020年に亡くなった名誉会長の 飯塚国雄の19人。入場無料。開廊時間は月〜木曜が正午から午後6時、土曜は正午から午後3時まで。金・日休館。予約不要。問い合わせはEメール JAANYoffice@gmail.comまで。

「いただきます」もみじ真魚

 たべものアーティスト、もみじ真魚のニューヨーク初個展「いただきます」が9月21日(木)から26日(火)まで、オン・ザ・フリンジ・ギャラリー(72 Warren St. )で開催される。

 もみじ真魚は、武蔵野美術大学油絵学科卒。「光」と「色彩」に特化した表現を得意とし、2019年からSNSにて毎日イラスト更新をスタート。20年秋の初個展「美味しい365日展」の成功後、香港、ロサンゼルスにおいて「本物より美味しそう」な食事のアート展覧会を開催した。日本を始め、北米、アジア圏など海外でもファンを多数持つ。 代表作に画集「飯テロ!」「甘テロ!」(パルコ出版)がある。日本食はもちろん、ニューヨークや全米で食べたものからインスピレーションを受けて描いた描きおろしの新作も発表する。

 入場無料。開廊時間は正午から午後7時。オープニング・レセプションは9月21日(木)午後6時から8時まで。詳細はhttps://www.maomomiji.com/

外資の介入なければ動かない日本社会

 9月1日付で百貨店の西武・そごうは、セブン&アイから米投資ファンドのフォートレス・インベストメントGに売却された。西武百貨店とそごうは、2009年に持株会社と3社合併してセブン&アイ(ヨーカドーとセブンイレブンを含む企業グループ)の保有となっていたが、14年を経て再びセブン&アイの手を離れた。

 本稿の時点で公表されている売却価格は8500万円とされている。西武・そごうの企業価値は2200億円となったとされているが、有利子負債や運転資金などをマイナスした結果、大きく減額された模様だ。これとは別に、セブン&アイは、西武・そごうに貸し付けていた約1959億円のうち、916億円を放棄している。この買収劇がセブン&アイ側の議決で決定された直後に、フォートレス・インベストメントGは、西武池袋本店の土地などを、ヨドバシホールディングスに売却すると発表した。売却価格は3000億円だという。

 これ以上の詳細は不明だ。だが、とりあえず理解できるのは、西武が土地などを直接ヨドバシに売っていれば、西武にはもっと多額のキャッシュが入ったはずだということだ。だが、実際はそこに外資が介在しなくては取引は成立しなかった。何故ならば、日本企業同士の取引であれば、そこに労働組合による雇用維持だとか、駅前の景観を変えるなといった地域の声など、売買の当事者以外の利害が交錯して動きが取れなくなるからだ。外資は、良く言われるハイエナとして暴利を貪っているのではなく、むしろ社会を前に進めるためには必要な存在として取引に関わっている。

 このように外資が介在しないと社会が回らないという現象は、日本の様々な局面に見られる。出版社との直接取引による書籍の通信販売というビジネスモデルに加えて、大規模な生活用品から電化製品の通販ではアマゾンという外資が日本市場を席巻しているように見える。だが、このように便利な電子商取引を仮に日本企業が始めていたとしたら、既存の流通業界に潰されていただろう。楽天が唯一成功しているのは、既存の小売店を電子商取引に誘導することで新旧の共存を図ったからに過ぎない。

 テック系に至っては、MP3から始まったiPod/iPhone のビジネスは日本の場合、その初期の音声ファイルの扱いは著作権法に抵触するので不可能であった。検索エンジンも、現在の対話型AIも同じである。それどころか、ファイル転送ソフトを開発した技術者や、ネットのビジネスから電波メディアの買収を目指した起業家は逮捕された。結果として、日本という巨大で知的な市場は結局はGAFAの力を借りなくてはDXを進めることができなかったのである。

 簡単に整理するのであれば、既得権益が時代の変化に抵抗する「反発力」が、時代を前に進めようとする「推進力」を負かしてしまうという力関係が国内にはあるということだ。そこに外資が介在すると、国の恥だと思うのか、それとも契約社会の勢いに押されて主張を引っ込めるためなのか、話が先に進みやすいということなのであろう。著作権法の絡みに至っては、フェアユースという公益のための利用も、新しいデバイスやフォーマットが立ち上がる際に通過する法律上のグレーゾーンも、日本では「違法イコール犯罪」ということになる。これではイノベーションもあったものではない。

 こうしてリストアップしてみると、明治維新から155年を経た「日本の社会」というものが、全面的なオーバーホールを必要としているのを感じる。ビジネスにおいては、関係性よりも契約と論理を優先すべきだ。法律とその運用に関しては、極端な形式主義、条文主義を改めてコモンセンス(社会常識)を上位概念としつつ現実的な判断を可能にすべきだ。そのような改革の端緒は見えてきたが、速度は絶望的に遅い。旧世代の退場を待って改革したのでは、その前に国が滅びてしまう。

 ここ10年ぐらいのネット世論を見ていると、海外組の忠告に対しては「海外では」という高飛車な態度が「出羽守」だとして嫌われている。だが、事態がここまで深刻化した現在では、堂々と出羽守としての口上を申し立てることこそ在外邦人の責務と考えるのだが、読者の皆さんはいかがであろうか。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)

地下鉄工事で大迷惑

トラムに観光客殺到

ルーズベルト島住民が悲鳴

 メトロポリタン交通局(MTA)が地下鉄Fラインの大規模な線路工事を8月28日に開始した。これによりマンハッタンからクイーンズにかけて、一部の路線ルートが大幅に変更され、イーストリバーに浮かぶルーズベルトアイランドの住民が大きな影響を受けている。

 トラムと呼ばれるロープウエーが往復するこの島に地下鉄が開通したのは1989年。以来地下鉄とトラムはおよそ1万4000人の住民の重要な交通手段となっているが、今回の地下鉄工事で電車の本数が少なくなった上にパンデミックが明けて観光客が撮影目当てにトラムに押し寄せるようになり、週末には長蛇の列が1ブロック先まで並ぶ。(写真上:島民の重要な足である公共交通機関のトラムは観光客で連日満員状態)

マンハッタンとルーズベルト島を結ぶロープウエーのトラム

 15分に1本のトラムを何本か見送ってようやく乗り込んだ観光客が、我先にと席取りに走り、高齢者を押しのけて座席を独占してしまうことも。これでは通勤や行き来に支障が出ると島の住民が悲鳴をあげた。住民たちはこの島の自治体の役割を果たしている公共利益法人RIOCに「F線の工事が終了するまで、住民優先乗車ラインを作って欲しい」と嘆願したものの、RIOCは「差別になるので法的に無理」と一蹴。

 ただ、島の住民は、このトラムしか交通手段がなくなったわけではなく、63丁目のレキシントンとルーズベルトアイランド、21ストリートクイーンズブリッジの3駅を、単線で臨時シャトルの地下鉄が午前5時から深夜0時まで20分に一本走っている。しかしレキシントン街もこの島も川の横なのでホームが地下深くにあり、エレベーター、エスカレーターの故障も多いため、高齢者はトラムに頼らざるを得ないという。

 またクイーンズ側に出る時に、21ストリートの駅はほかのラインに接続できないため、無料のバスを待ってクイーンズプラザに出なくてはならないという不便を強いられている。早朝にジョン・F・ケネディ国際空港で働いていた住民は、仕事を辞めるかクビになるのを待つかという状況に追い込まれている。

 工事はおよそ半年の予定だが、大幅に伸びる可能性もあるという。「観光客の皆さん、今はトラムに乗らないで。工事が終わるまで待ってください」と住民たちから悲痛な声が上がっている。(田村明子、写真も)

A・T・ダンスカンパニー、和と洋で旗揚げ公演

 ニューヨークで発足したA・T・ダンスカンパニー(竹野綾代表)の旗揚げ公演「Awake」が3日、イーストビレッジの劇場、プレイライツ・ダウンタウン「MOSS」で昼と午後の2公演を行った。

 2部構成で、第1部は和楽器を使って7人のダンサーが四季を表現。春は琴の曲で桜が舞い散ってゆく姿を、夏は太鼓の曲に合わせて熱く燃える舞を表現、秋は尺八と琴で人肌恋しく、哀愁漂う人間模様を描き、冬は津軽三味線と共に春の桜に期待を膨らませながら、厳しい寒さを耐え凌ぐ様子を踊りで表現した。

 第2部は中村彩、熊本翔士の歌唱力抜群の歌手2人を加え、ジャズ、ポップス、邦楽、ラテンミュージックなどを使いジャンル、世代を超え、誰もが身体も心も動かしたくなるような若き日本人ダンサーたちの躍動感が客席に伝わった。

 総合芸術監督で代表の竹野綾は「来場頂きました皆様、エールを送ってくださった方々、カンパニーメンバーとスタッフに感謝の気持ちでいっぱいです。来年は私のダンス人生35周年になります。今後の活動に期待してください」と話していた。出演はダンサーが竹野綾、原田舞子、山下真由、西岡翼、野中萌良、千歳祐李耶、堀内更。(三)

バックトゥザフューチャー

 あの頃ワタシも若かった! 名匠スピルバーグの代表作「バックトゥザフューチャー」が封切られた年は、このワタシも花も恥じらう若干24歳! あの頃、太平洋の向こう側のアメリカは、過剰な富貴と底抜けの楽観を纏って燦然と輝いて見えたもんだ〜。ンン10年後に、同じアメリカでエンタテーナー兼糟糠の妻する事になるなんて、24歳の私は知る由もなかった! 今も鮮明に記憶に刻まれているのは、改造型タイムマシーン・デロリアンとヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「The Power of Love」。聞きゃあー元気モリモリ湧き出てくる長調の底抜けに明るい主題歌。なんつったって「愛の力」。万物は「愛の力」を持って解決可能と信じて疑わないっつーアメリカさんっぽーい名曲。 そんなアタクシの青春の思い出の一ページにも刻まれた、映画史上の名だたる大作のミュージカル化と来れば、期待せずにはおれないと言うもの。 が、しかーし、これまでハリウッド映画のヒット作の舞台化色々あったけど、「ヘアスプレー」等の稀な成功例を除くと無惨な結果に終わったミュージカル残骸が累々たる有様。 なので、期待しつつも、「嬉しいような怖いような」山本リンダ的心持ちで劇場に向かったのであった。  

 映画の舞台化をヒットに導くことは、前述のごとく至難の技だ。コアなファン心理を考え、換骨奪胎はダメ、かと言って、完コピもダメ。オリジナル命のファンから映画未見の若い層までを納得させる匙加減が実にムズイ!映画版の脚本家であったボブ・ゲイルがご自身が書いたミュージカル版の脚本は、ほぼ映画版と同じと言う安全路線。あらすじはドクが作ったタイムマシン、デロリアンに乗ったマーティは、30年前にタイムスリップ。思いもよらず、父と母の恋愛のきっかけを阻害してしまい、未来が変わってしまうことに気付いたマーティは両親の恋に復活させ、限られた時間の中で30年後に戻ろうと七転八倒する。 

 見どころは映画さながら、プロジェクションマッピングやレーザー光線などの最先端技術を取り入れた演出だ。映画ファンが覚えているだろう名シーンをくまなく入れ込み、可能な限りのイリュージョンも再現。おったまげたのは客席上を飛ぶデロリアンの特殊効果。今のブロードウエーはディズニーランドのアトラクションを超えたね。  

 粒揃いのキャストの中でドクを演じたのはトニー賞俳優ロジャー・バート。歌・芝居はもちろん、コメディセンスと間の取り方は日本で言えば植木等や伊達きみおレベル。そしてブロードウェイデビューでジョージ・マクフライを演じたヒュー・コールズはマクフライを完コピ!彼のものまねの実力は日本人で言えば、ちあきなおみbyコロッケ!のレベル。それを見るだけでも価値ありだ!  

 最大の弱点は音楽。観劇後、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「The Power of Love」と「ジョニー・Bグッド」以外、全く記憶に残っていない。気合いで調理した晩餐だったのだけど、塩気が足りなかったのか?火力が弱かったのか?レシピが間違っていたのか?なんなら「愛の力」&「JBG」以外割愛でいんじゃねってレベル(トホホ)  

 観劇前はリンダの気持ちで、恐る恐る観に行って、結果は意外や意外、甘酸っぱい青春時代に光り輝いていたアメリカさんの元気もらえるリピ確定の佳作なので、英語に自信がない人でも、老若男女問わず、多くの人が大満足するミュージカルだ。「オペラ座の怪人」のシャンデリアが見れなくなった今、ブロードウエーの目玉は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の空飛ぶ車、デロリアンに取って代わられたようだ。 いや〜、ブロードウエーって楽しいだけでなく、人生訓がいっぱい詰まった素晴らしいもんなんですね。

トシ・カプチーノ:キャバレー・アーティスト/ 演劇評論家、ジャーナリスト130名で構成されるドラマ・デスク賞の数少ない日本人メンバー。週刊NY生活「新ブロードウエー界隈」連載中。TV:TBS「世界の日本人妻は見た!」日本テレビ『愛のお悩み解決!シアワセ結婚相談所』「スッキリ」「ZIP!」studio82℉所属タレント

30年前の邦人殺害事件が冤罪に

【編集後記】

30年前の邦人殺害事件が冤罪に

 みなさん、こんにちは。1994年8月4日午後11時半ごろ、マンハッタンの五番街に近い44丁目にあった日本食レストラン「中川」のアルバイトを終えて帰宅途中の日本人男性、砂田敬さん(当時22歳)は、クイーンズのラガーディア空港に近いレフラックシティーと呼ばれる自宅アパートのあった集合住宅のロビーで、いつもは17階の部屋までボクシングの練習を兼ねて駆け足で上がっていくのだが、その日は疲れていたのか、エレベーターに乗った。すぐ2人のアフリカ系男性が乗り込んできた。不審に思った敬さんは4階でエレベーターを降りたところで男たちと揉み合いになり、敬さんは左側にあった非常階段に逃げた。階段を4段上がって振り返りざまに発砲された。弾丸は右目から左後頭部を貫通し、敬さんは階段を転げ落ちた。事件の通報を受け出張先からニューヨークに駆けつけた父親の向壱さんがクイーンズの葬儀社で記者会見し、凶弾に倒れた息子の無念さを語った。その時の顔を今でも鮮明に覚えている。熱い夏の昼間だった。「銃さえなければ息子は死ぬことはなかった」。息子の死を無駄にしたくないと全米ライフル協会を相手取って起こした訴訟では刑事訴訟で勝訴したが民事では敗訴した。しかしその後の銃規制運動サイレントマーチに大きな影響を与えた。事件は、20歳と19歳の容疑者2人が逮捕され有罪判決を受けそれぞれ服役した。一人は今年1月に釈放されるまで29年間服役し、もう一人は2003年に仮釈放されるまで9年間服役した。その2人に8月24日、クイーンズの州最高裁判所の判事が、事件当時の刑事の取り調べで虚偽の自白を強要されたとする弁護士の訴えを認め、2人の有罪判決を棄却し、冤罪だったと断定した。事件当時47歳だった父親の向壱さんは77歳。福岡の自宅で検事局から連絡を受けてニュースを知った。「事件から30年近く経ち、今さら冤罪だと言われても言葉が出てきません。息子は誰に殺されたのでしょうか。犯人が捕まり息子の仇をとって平穏に暮らしてきたのに。出口の見えない深い闇の中に落ちた心境です」と語った。NY市クイーンズ区検事局が2020年に警察と司法の不正を検証する組織「有罪判決完全制ユニット」を立ち上げて以来、これまでに102件の有罪判決が取り消され、そのうち86件は警察の不正行為に関連したものとされた。ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命も大切だ)運動の機運の高まりと並行するように次々と有罪が無罪となっている。不当逮捕と有罪判決の撤回による人権の尊重と名誉の回復が市民運動とともに声高に進む一方で、それによって犯罪犠牲者の遺族の気持ちに寄り添うシステムはできていない。30年前の取材と現在の結末の矛盾にやるせなさを感じてやまない。取材は常に自分のことではなくて他人のことばかりなのだが、それでも自分のことのように悲しかったり、辛かったりする。あまりこんな仕事はないような気がするが、紙面でシェアすることで、気持ちの整理をし、読者と少しだけでも前に進んで行きたいと思います。今週号の1面と5面に記事があります。それでは皆さんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)