豊洲直送、日本の魚屋さんも。Wegmansオープン

マンハッタン初のアスタープレイス店

開店前に行列を作るNY市民(Photo:Meg.Maruyama)

 一般家庭の食卓が、高級料理店に早変わり。米老舗高級スーパーのウェグマンズが18日、マンハッタンのアスタープレイス(ブロードウエー770番地)に新店舗をオープンした。

 日本人にとってうれしいのは、アメリカのスーパーで初の本格的「魚屋」がオープンしたこと。100年続く日本の老舗「魚力」(本社東京都)の職人が、ニューヨークに滞在し、日本の「魚屋」のコンセプトをそのまま再現するようにしている。

(写真上)鮮魚取扱い指導に来米中の魚力商事・佐藤さん(右)と現場責任のエイドリアンさん。(写真、本紙・三浦良一)

 日本全国から豊洲に集まった魚を魚力のバイヤーが選んでオーバーナイトの空輸便で週2便直送。産地から1日、遅くとも2日でニューヨークの店頭に並ぶので新鮮そのもの。日本国内の高級料理店に並ぶのとほぼ同時に同質の魚を食べられるようになった。 

目がまだ生きているような金目鯛(写真、本紙・三浦良一)

 地下1階正面の魚売り場は「SAKANAYA」と看板が出て、手前の豊洲直送の氷台には旬のさんま(北海道根室)、金目鯛(鹿児島県)、鯖(京都府)、太刀魚(宮城県)、メバル(青森県)、甘鯛(山口県)、サワラ(石川県)、キンキ(北海道)、秋鮭(北海道)が頭をつけたままズラリと並ぶ。

 魚力商事東京本社から3か月交代の現場教育担当として着任している同社営業部副部長の佐藤成就さん(50)は「ニューヨークに住んでいる日本人の皆さんに食べて欲しいです」と話している。買った魚をその場で刺身や切り身など好きなように捌いてくれる。現場で指導を受けている寿司職人として職歴6年のエイドリアン・M・ハッチンスさん(32 )は「これまで自分の経験で40種類近い魚を捌いたが、ここ3週間の研修で75種類の魚に出会ってその品質の高さと包丁、技術に驚いている。職人として夢が叶った」と話す。

 ウェグマンズは1915年ニューヨーク州ロチェスター市に創業した老舗スーパーマーケットチェーンで、NY州郊外を中心米東海岸に100店舗ほどを展開している。

ウルトラマン登場、NYコミコンでライブ

円谷プロとバンダイ共催

 2006年から毎年、全米から大勢のアニメ&漫画ファンを集める一大イベント「ニューヨーク・コミコン」が、10月12日から15日までの4日間、マンハッタン西部のジェイコブ・ジャビッツ・コンベンションセンターで開催された。昨年は4日間で20万人以上を動員した同イベントだが、本年も入場券は早々に完売し昨年の記録を上回るほどの大盛況で会場はコスプレをしたファンたちで埋め尽くされていた。

 会期中、4階の会議場エリアでは、日替わりで様々な特別講演や催しが行われていたが、14日土曜日の正午からは円谷プロダクションとバンダイ共催で、現在放映中のシリーズ最新ウルトラマン、「ウルトラマン・ブレーザー」のスペクタクルライブが行われ、400席以上ある会場は特撮好きのニューヨーカーたちで満席となった。ライブショーは2部構成で、57年に及ぶウルトラマン・シリーズで初めて海外ファン向けに英語吹き替え版が同時配信されているウルトラマン・ブレーザーの魅力をニューヨーカーにアピールするもの。まずは、英語吹き替え版のナレーターを務めるメジャー・アッタウェー氏のMCで、主要キャストの吹き替えを演じる声優のリコ・ファヤード氏とニコラス・アンドリュー・ルイ氏を特別ゲストに迎えてのトークショーで、新しい切り口が日本でも話題になっている同作品の見所などを語った。続いては、主人公ウルトラマン・ブレーザーと地球防衛軍のロボット怪獣「アースガロン」が極悪宇宙人や凶悪怪獣たちとバトルを繰り広げるアクションショー。洗練されたスーツアクター達の迫力満点のアクションに、会場を埋め尽くしたニューヨーカー達は大きな声援と喝采を送っていた。

 一方、メインの展示販売フロアは、身動きを取るのも難しいほど人で溢れ返っていた。中でも、最大面積を誇るバンダイナムコのエリアは、各部門ごとにブースが分かれており、数々の巨大な人気キャラの像や等身大フィギュアが人目を引いていた。各種アトラクションや、商品販売コーナーでは、どの部門のブースにも長い列が出来ていた。また、ライブショーで活躍したウルトラマン・ブレーザーとアースガロンも同社ブースを訪れ、ファンと記念撮影をするなどして盛り上がった。

 NYコミコンは、アメリカ社会における日本のアニメや特撮の根強い人気ぶりを改めて知らしめる4日間となった。

(本紙・久松茂、写真も)

就職内定取り消しも、ハマスとイスラエルの紛争大学に

 ハマスとイスラエルとの紛争が激化するなか、学生の全国組織「パレスチナ正義の学生たち(SJP)」が「抵抗の日」を宣言して12日、ニューヨーク市立大学やアリゾナ大学、カルフォルニア州立大学など全米の大学200の支部でデモが行われた。親イスラエルと親パレスチナの学生の間の対立が深まり、双方から暴行や嫌がらせが報告されている。

 マンハッタン北部にあるコロンビア大学は12日、関係者以外のキャンパスへの出入りを制限すると発表し、13日にキャンパス内で予定されていた大規模なパレスチナ支持集会を回避した。入構制限はイスラエルの男子学生が図書館前で女子学生に棒で叩かれた事件がきっかけという。男子学生はハマスに連れ去られた人質のポスターを持っており、口論になったとみられる。警察は容疑者の女子学生(19歳)を逮捕した。コロンビア大学では「パレスチナに正義をコロンビア学生の会」などがパレスチナ支持を表明している。

 ニューヨーク大学法科大学院の学生弁護士会のライナ・ワークマン会長(24)は、ハマスの攻撃による「多大な命の損失はイスラエルに全面的な責任がある」として、パレスチナを支持する声明を発表した。ロイ・マッケンジー学部長は、学部の見解ではないとし、民間人の殺害やテロ行為は許されないと非難した。ワークマン氏を内定していたウィンストン&ストローン法律事務所は10日、同社の見解と相入れないとして雇用契約を解消した。

パレスチナ系市民が抗議

市長「イスラエルと共に」

抗議行進するパレスチナ系住民(13日午後5時半、42丁目で、三浦良一撮影)

 エリック・アダムスNY市長は2日夜、イスラエルのための追悼集会で親パレスチナ支持者を非難し、週末のテロ攻撃を正当化できないと訴えた。

 アダムス市長はゴルダ・メア広場で議員たちとともに、ダビデの星をかたどったキャンドルを灯した。「罪のない子どもたちを家から引っ張り出し、殺害し、通りを引きずり回し、遺体に足をかけた。我々が目撃したことを正当化することはできない。誰もこれを祝うべきではない」と述べた。

 ここ数日、中東からもたらされた悲惨な映像や画像をめぐり、抗議行動が衝突している。アダムス市長は、イスラエルの9・11として知られつつあるものを祝う人々を非難し「私は、人々が鉤十字を掲げている抗議行動を見ている。アフリカ系アメリカ人が自由と生存権のために戦おうとしたときにも、同じ鉤十字のシンボルが使われた。これはあらゆる境界線、一線を越えている」と訴えた。

 また、周囲を取り囲む数百人の参加者に対し「ニューヨークはイスラエルとともにあり、イスラエルの人々には自らを守る権利があると信じている」と述べた。この集会には、ジュマーン・ウィリアムズ行政長官とアントニオ・レイノソ・ブルックリン区長、他の選出議員やラビたちが多数参加した。

パレスチナ支持者就職に不利の見方

 ハーバード大学ではハマスがイスラエルへの大規模攻撃を開始した7日に、すぐさま33の学生団体が連名で「パレスチナ情勢に関するハーバード・パレスチナ連帯グループによる共同声明」と題した声明文を発表した。ハーバード大学パレスチナ連帯委員会が執筆したもので「進行中の暴力はすべてイスラエル政権に責任がある」とイスラエルを非難した。(1面に記事)

 声明は全米の注目を集め、共和党のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)は9日、「ハーバードはいったいどうしてしまったんだ」とX(旧ツイッター)で反発した。ヘッジファンド大手パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントのビル・アックマン氏など数人の実業家がハーバード大学に対して署名した学生の氏名公表を要求し、その学生は採用しないとXで公言。サラダチェーンを運営するスウィートグリーンのジョナサン・ネーマンCEO、ヘルスケアサービス企業イージーヘルスのデービッド・デュエルCEOらも続いた。

 ハーバード大のクローディン・ゲイ学長は10日、「テロリストによる残虐行為」とハマスを強く非難する声明を発表した。ハーバード大学学生会のうち17団体は500人余りの教職員と共に共同声明を通じて「イスラエル批判声名は完全な間違い」と指摘した。

 保守系の団体は大学のキャンパス周辺で11日、声明に署名した学生の氏名と写真をさらす宣伝トラックを走らせ、ネットにも掲載した。ニューヨークポストは、この日までに4団体が支持の立場を撤回したと報じた。金融業界や弁護士業界にはユダヤ系が多く、パレスチナ支持者は就職に不利との見方がある。

NY日本総領事館

デモに注意喚起

 ニューヨーク日本総領事館は、ニューヨーク市内におけるイスラエル・パレスチナ武装勢力間の衝突に伴う抗議活動の発生について在留邦人に対して注意を喚起する呼びかけを行っている。内容は次の通り。

(1)イスラエルとパレスチナ武装勢力の衝突に伴い、今月8日以降マンハッタンのタイムズスクエア、国連本部付近、イスラエル総領事館前(2番街の42丁目と43丁目の間)などでは大規模な抗議活動が実施され逮捕者が出ている。

(2)今後も双方の支持グループが参加して同様の抗議活動が実施されることが予想され、参加者が多い集会やデモ会場付近では、抗議活動がエスカレートし警察と衝突したり、またそれをきっかけとして参加者を巻き込んだ暴動に発展したりする可能性がある。

(3)在留邦人の皆様は、今後もこういった抗議活動には常に留意し、自身の生活圏において現在何が起きているのかを報道などで最新の情報入手に努め、デモや集会が行われる可能性のある場所や周辺(1に言及した施設周辺に加え、モスク、シナゴーグ等の宗教施設を含む)には、目的なく不用意に近付かないなど、不測の事態に巻き込まれないよう、十分注意する。

 また、ニューヨーク日本総領事館ウェブサイト内にある「ニューヨーク安全マニュアル」(https://www.ny.us.emb-japan.go.jp/jp/j5/ny-anzen-manual_2023.pdf)を参考にする。

永住権申請資格抽選

DV2025プログラム

 米国務省は、毎年最大5万5000人に米国永住権(グリーンカード)の申請資格を与える宝くじ永住権プログラムを実施しており、今年も「DV2025プログラム」を今月4日から受け付けを開始している。応募受付の締め切りは11月7日(火)正午(東部標準時)。 登録期間中に複数のエントリーを提出した場合無効となる。一人応募は一通限定。DV2025プログラム説明書の英語版PDFが唯一の公式版。DVプログラムへの登録に費用はかからないが、面接が予定されている選考対象者は、領事がビザの資格があるかどうかを判断する正式なビザ申請の前に、ビザ申請料金を支払う必要がある。このプログラムで選抜された申請者(選抜者)は、DVの資格を得るために資格要件を満たさなければならない。無作為のコンピューター抽選によって選抜者を決定する。過去5年間に5万人以上の移住者がいる国と地域の出身者は申請資格がない。国籍ではなく出生地で資格が決まる。日本生まれの人は申請資格があるが、日本国籍を有していても非資格国で生まれた場合資格がない。詳細は https://travel.state.gov/

日本人男性か?重体で発見

財布に日本円。ロス南郊で

お知り合いではありませんか?

 カリフォルニア州ロサンゼルス市南郊サンペドロで今月9日、外傷性脳損傷の身元不明男性が発見された。ロサンゼルス郡の公衆衛生当局が、サンペドロで重傷を負った患者の身元確認に一般市民の協力を求めている。ロサンゼルス郡保健サービス局によると、この患者は20代半ばのアジア系男性で、外傷性脳損傷を負った後、同市ワイルダー・アディション公園近くの住宅地、サウスメイヤー通り3700番地で倒れているのを発見された。負傷の原因は公表されていない。男性は黒いバックパック、日本の通貨が入った財布、旅行サイズの衛生用品数点を持って発見されたとのこと。タトゥーや目立つ傷はない。当局によると、男は身長1メートル75センチ、体重約70キロ。11日以降18日現在も、ハーバーUCLAメディカルセンターに入院しているが、鎮静剤を投与されたまま意識不明の状態が続いている。

 同病院では身元確認に役立つ情報を持っている人からの情報提供を求めメディアアラートとして本人の写真と併せて情報を公開。地元でニュースやインターネットで報道されたことから、日本からロサンゼルス日本総領事館に「旅行に行ったまま連絡が取れなくなった息子かもしれない」と心配する問い合わせが数件あったという。総領事館の館員がメディアアラート翌日に病院に行ったが、男性が日本人であるという確証が得られなかったため、在留邦人やロサンゼルスの日系社会に対しての公表や情報の提供を求めるメールなどは発出していないという。心当たりの人は電話424・306・5305、ハーバーUCLAメディカルセンターまで。しかし病院では「邦人安否の確認は日本総領事館にして欲しい」と話している。

介護のいらない体づくり、健康へ導く音楽健康指導

馬場田晃一さん

 ニューヨーク日系人会(JAA)と邦人医療支援ネットワーク(JAMSNET)が共催する第17回秋のヘルスフェア(後援:ニューヨーク日本総領事館)で、日本で人気の有名講師陣がYouTubeで講演配信する恒例の「ライオンズ大学・大人の教養講座シリーズ」第7弾が9月21日から10月1日まで開催された。講師陣はファーストブランド社(本社大阪市、河本扶美子社長)が運営するマイベストプロ登録の専門家3人。企画はNY日系ライオンズクラブ。

 第2時限の講義は、介護のいらない体づくり・健康へ導く介護福祉士で音楽健康指導のプロ、馬場田晃一(ばばた・こういち)さん(山形県新庄市)が楽しく長続きする独自の介護予防プログラムを解説した。

 馬場田さんは、故郷で介護福祉施設ケアホーム「カナン」を営む傍ら、DJの経験を活かし音楽を取り入れた「次世代型介護予防体操」を広めている。今回はその中から、手足を使った簡単な運動を動画で紹介した。次世代ダンスミュージックと題して、ラップの音楽に乗せて、若者でも参加できるような軽快なリズムで「パニックリズム」の練習。てのひらでグーチョキパーの順をランダム(順不同)に入れ替えながら反射神経を刺激し、顔の目、口、鼻を音楽のリズムに合わせてこれもランダムに触れていく。そして認知症の予防になる早口言葉。「隣の客はよく柿食う客だ」「スモモも桃も桃のうち」や、有名な「東京特許許可局」「庭には二羽鶏がいる」など懐かしい遊びを交えた運動や「パタカラ体操」というレゲエに乗せた口腔の運動など日本語の早口ことば以外は、国境を超えた老化防止の運動メソッドとして海外でも活用の道がありそう。2018年「介護予防体操 花笠音頭」で優秀賞受賞、19年「認知症予防体操最上川舟唄×HIPHOP MIX」で優秀賞などを受賞している。動画に関する問い合わせはNY日系人会、電話212・840・6942、Eメールinfo@jaany.org まで。

風の環定期コンサート今年で最終回

音楽監督

白田 正樹さん

 第15回風の環コンサートが11月5日ニューヨークのマーキンホールで開催される。いまその準備に追われているが、コロナ禍中断を挟み16年間続いた定期コンサートの一区切りの最終回となる。思いはひとしおだ。

 きっかけは2001年9月11日の米国同時多発テロだった。母校東北大学の先輩の子供が犠牲になった。自分も投資銀行勤務時代にワン・ワールドセンターの84階にいたことがある。人ごとではなかった。仙台二高時代から合唱部に入り、学生時代もコーラスを続けたが、社会人になって1976年川崎重工の駐在員としてニューヨークに赴任、LNG船の受注やメキシコ湾で使用する石油掘削リグを受注するなどがむしゃらに働いていた。

 文化的なことなどする余裕も時間もなかったが、84年に退社、サプリメントの製造販売会社を立ち上げて独立、会社が軌道に乗って落ち着いた時に9・11と遭遇した。 51歳だった。社会のために何かしたい。仕事以外で自分にできることはなんなのか自問した。歌が自分にあった。合唱する仲間がいた。

 被災者追悼が目的で始まったコンサートは、毎年テーマを変えながらも、東日本大震災、ハリケーンサンディー、そして熊本地震の被災地支援には、歌手の水前寺清子さんをNYに招いてコンサートを行うなど、いつも、被災者に寄り添う目線でプログラムが組まれた。今年は2月にトルコを襲った巨大地震の犠牲者追悼と早期復興を支援するチャリティーコンサートを予定している。

 ニューヨークでコンサートのあとは、すぐ故郷仙台に戻り、仙台フィル50周年記念コンサートに参加する。「セビリアの侍」という曲があるからだ。400年前、伊達政宗の命を受けてスペインに渡った支倉常長の末裔たちが今なおハポンさんという名前で生きている。2012年スペインのコリア・デル・リオ市に住むハポンさんたちとの文化交流を白田さんは開始した。ハポンさんたちを宮城やNYへ招待した。合唱団TOMOや風の環少年少女合唱団の子供たち、石巻の子供たちのスペイン・イタリア訪問ツアーを毎年のように開催し現在はハポン・ハセクラ後援会の会長を務めている。今年からは、大阪国際音楽コンクールの理事として若手の発掘と支援に力を入れている。「若い才能のある人を応援したくなるんですよ」顔が綻ぶ。今後は活動の後継者の育成と、いままでの経験を生かして、日米の音楽演奏公演のサポートなどをしていきたいという。

 (三浦良一記者、写真も)

     ◇

 チケット(20ドル)は 会場のウェブサイトwww.kaufmanmusiccenter.org またはKaufman Music Center 電話212・501・333で販売中。詳細はwww.jch-tomo.orgまたはhttp://kazenowa911.blog6.fc2.com

化粧の芸術美を追い求める人生

メイクアップアーティスト

小林 照子さん(88)

 パンデミックを全く感じさせない5年ぶりのニューヨーク。日常を取り戻した街行く人々の姿や景色に驚きを隠せない。日本では、3年間のマスク生活で、若い女性がマスクを外せなくなっているのと対照的だ。いまや中学生同士の「顔認証」は「マスクあり」が「標準仕様」になってしまっていて顔をむき出しにするのは怖い、恥ずかしいと誰もマスクを外さない。「マスクに隠れた顔の下の部分にコンプレックスを持っている人たちが、20代、30代になった時にどういう影響が出てくるのか、それをどう改善していけばいいかが、メイクアップアーティストとしての課題だと思っています」と話す。

 「日本の女性は自分の顔にマイナスイメージを持っていて、化粧で欠点を修正すれば良くなると思っている。皮膚は心と直接に繋がっているんです。美容の世界では感覚的に以前から分かっていたことなんですが、化粧に興味を持っている学者たちによって、最近、撫でる、触れることで心が和むホルモンの分泌が促されることが実証され、皮膚が変われば心も変わるのよ」と言っている。

 小林さんは、1991年にコーセー取締役・総合美容研究所所長を退任後、56歳で起業、美・ファイン研究所を設立。2010年に高校卒業資格とビューティの専門技術・知識の両方を取得できる青山ビューティー学院高等学部をスタートするなど美容業界での若手の育成に尽力している。88歳を迎えた今もビジネスの第一線で活躍し、近年は現場力を持った女性リーダーを育成する「アマテラス・アカデミア」を開講し、25歳から39歳まで面接で選んだ女性15人を1年間学習してもらう人材育成にも一層注力。すでに70人が修了し各界で活躍している。

 小林さんには、もう一つの顔がある。体に化粧品を絵の具として肉体をキャンバスにして表現する「からだ化粧」という新たなジャンルのアートに情熱を注ぐ芸術家としての顔だ。生花よりも命の短いはかなさを持った瞬間的な芸術だ。「ここに描いて」と肌の囁きが聞こえるのだと。もともと肌が持っていた記憶が呼び覚まされることによって生まれるアートなのだろう。美容とアート。化粧と芸術。彼女にとっては、化粧で彩るからだ全体の隅々までが全部顔なのだという。

 (三浦良一記者、写真も)

フルクサスと日本人女性

60年代初頭の芸術

ジャパン・ソサエティーで開幕

 フルクサスにおける日本人女性アーティストの重要な役割に焦点を当てた初めての展覧会「アウト・オブ・バウンズ フルクサスと日本人女性芸術家たち」が10月13日(金)から2024年1月21日(日)まで、ジャパン・ソサエティー(JS)ギャラリー(東47丁目333番地)にて開催される。1960年代初頭にアーティスト、作曲家、詩人のネットワークとして始まり、国境を越えて新しい芸術表現様式を定義したトランスナショナルなムーブメントであるフルクサスにおいて、日本人女性が果たした本質的な役割を探求する初めての展覧会で、同ギャラリーの全スペースを使用し100点以上の作品を展示する。    

 昨年、ムーブメント創設60周年を迎え、同展では、久保田成子(1937〜2015年)、オノ・ヨーコ(1933年〜)、斉藤陽子(1929年〜)、塩見允枝子(1938年〜)の先駆的な日本人アーティスト4人の貢献に焦点を当て、フルクサスと1960年代以降のより広範な芸術運動における彼らの役割について考察する。フルクサスはラテン語で「流れる小川のように連続的に移動すること、通り過ぎること」を意味し、フルクサスのアーティストたちが流動性と不確定性の概念を重要視していたことを示している。絵画や彫刻といった従来の芸術形式を避け、フルクサスのアーティストたちは、映画、音楽、パフォーマンス、出版、大量生産されたオブジェの流用などに新たな表現手段を見出した。この芸術運動は、偶然の出来事、日常生活のはかないものや行為に芸術的価値や意味を持たせることで伝統的な美的概念に挑戦した。

 開廊時間は水〜日曜の正午から午後7時まで。入場料は一般12ドル、シニア・学生10ドル、JS会員・16歳以下は無料。チケット・詳細はウェブサイトhttps://japansociety.org/を参照する。

(写真)Peter Moore Yoko Ono with her “Morning Piece” installation, New York, September 12, 1965, 1965 Photography by Peter Moore; © Northwestern University

人類とAIとの生存戦争『The Creator』

 

  人間対AIが生き残りを賭けて戦うSFアクション。ベストセラー小説、アメコミ、ゲームなどを原作としないもろオリジナルのストーリーだ。

 「Godzillaゴジラ」「ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー」の監督ギャレス・エドワーズが「ピノキオ」の脚本を手掛けたクリス・ワイツと共同で脚本を執筆、本作の監督も兼ねている。「地獄の黙示録」「ブレードランナー」などをヒントにいずれ起こりうる人間とAI激突という未来の地球を構想してみた、というところか。

 近未来、人間が作り出したAIがある時を境に自分たちでAIを作り出し、人間との抗争が始まった。AIがロサンゼルスで核を爆発させたのを機に全面戦争となり、どちらが先により高性能のAIを作り出すかが戦争終結のカギとなっていた。

 特殊部隊の隊員ジョシュア(ジョン・デイヴィッド・ワシントン)は人類を滅亡させる兵器を作り出すとされるAI側「クリエーター」を探すため、ニューアジア地区に潜入する。ニューアジアは人間とAIが共存する社会で欧米の対AI戦争には反対している。長期にわたる生活でスパイであるはずのジョシュアはマヤ(ジェンマ・チャン)という女性と恋に落ちてしまう。

 しかしその頃、ハウエル大佐率いる特殊部隊はマヤがクリエーターと深い関わりがあることを突き止めマヤの住居を急襲、妊娠中のマヤは殺され、ジョシュアは重傷を負う。

 数年後、マヤと子どもを失い、生きる希望が見いだせないままのジョシュアは新たなクリエーターを探すためニューアジアに向かうが、彼が探し出したクリエーターは少女の姿をしたアルフィーという進化型AIだった。

 ビジュアルでは定評のあるエドワーズだけに近未来の世界、高機能防衛システム、最先端兵器など驚嘆の光景が広がる。タイ、カンボジア、ベトナム、ネパールなど実際のロケの映像効果が臨場感を最大限に引き出す。ニューアジアの戦闘員ハルン役で渡辺謙が出演。2時間13分。PG13。(明)


■上映館■

Regal E-Walk 4DX & RPX

247 W. 42nd St.

AMC Empire 25

234 West 42nd St.

AMC Loews 34th Street 14

312 W. 34th St.


芸術の秋でアート巡り

編集後記

みなさん、こんにちは。芸術の秋ですね。時間のない人のためにニューヨークで半日で見て回ることができるいま旬なお勧めの展示スポットを3つご紹介します。メトロポリタン美術館近くにあるアルベルティーヌ書店(5番街972番地、79丁目)の庭の外側に、アントワーヌ・ド・サンテグジュペリの児童文学に登場する「星の王子さま」のブロンズ像が登場しました(今週号の1面に掲載)。高さ4フィートのブロンズ像はフランス人彫刻家ジャン=マルク・ド・パスによる作品で、「星の王子さま」出版80周年を記念してル・スヴニール・フランセ米国協会とアントワーヌ・ド・サン・テグジュペリ青少年財団が製作しものです。塀にちょこんと腰掛け空を見上げる星の王子さまと同じポーズで並んで座って記念写真を撮影する女性が多くいましたよ。次は、チェルシー地区の共に同じ24丁目にある大手有名画廊2軒です。一つは美術館なみの広さを持つガゴシアン・ギャラリー(西24丁目555番地)で、9月12日から故石田徹也(1973~2005)の絵画展「My Anxious Self」を開催中です。1990年代まで続いた日本の「失われた10年」と呼ばれる不況期に世に出た彼の絵画は、この時期の日本社会を特徴づけていた絶望感、閉塞感、断絶感を、急速な科学技術の進歩の後でも捉えていて不気味ですが、カフカのような不条理を湛えた絵画や作品によって、現代人が直面する課題を寓意的に描いています。見る人によって好き嫌いがはっきり分かれる作家でしょうけど、屈折した深層心理を描いた部分、怖いもの見たさでぜひどうぞ(今週号の3面に掲載)。そして最後は、画廊に行かなくてもマンハッタンの6番街の55丁目の南東の交差点角に突っ立っている親父さんの像といえば、あれかと思う人もいるでしょうが、キャバリア・ギャラリー(西24丁目530番地)では、アーティスト、ジム・レナートの新作彫刻、ドローイング、ペインティングの個展「Balance」を開催しています。プロトタイプの台座に置かれた粘土彫刻には、詳細なスケッチが添えられてデッサン力と造形力が凄いです。文章表現力が乏しいですがなんとも凄いとしか言いようがないです(今週号6面に掲載)。以上3点の美術案内でした。実際に足を運んでいる時間すらない人は、せめて今週号の本紙でお楽しみください。それでは皆さんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2023年10月14日号)

(1)第3回ジャパンパレード 来年5月11日(土)に開催

(2)星の王子さま銅像五番街に 出版80周年記念

(3)日本の芸能一堂に RANMANカーネギー公演

(4)日本の不条理描く 故石田徹也NY展

(5)過疎化に耐えられない地方どうする あめりか時評

(6)堀江さんの「最後の乗客」 映画祭で5冠獲得

(7)孤独な人物のバランス 巨匠ジム・レナート展 

(8)鬼そば藤谷が優勝 ジャパンフェスラーメンコンテスト

(9)ウェグマンズ 18日に開店へ

(10)ホテル「幽霊屋敷」体験談 NY州に散在する84軒