分身に芽生えた心 Gemini Man

Photo : WarParamount Pictures, Skydance and Jerry Bruckheimer Filmsner Bros. Pictures

「Crouching Tiger, Hidden Dragon」(グリーン・デスティニー、2000年)、「ブロークバック・マウンテン」(05年)など数々の名作を生み出し、二度のオスカーを受賞しているアン・リー監督が最新の映像テクノロジーを駆使して創り出したアクション・スリラー。
 米国防情報局所属の暗殺者が引退を決意したとたん、味方から命を狙われる。物語としてはどこにでもありそうな筋書き。売りは、暗殺者である自分を狙う暗殺者が自分とそっくりな若者、という仕掛けだ。
 リー監督の得意分野は心揺さぶる人間ドラマだが、映像技術への探求心も強い。「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(12年)ではライフボートでパイ少年と大海をさまようベンガルトラは8割以上のシーンでCGを使い、まるで本物の虎のよう。今年7月に公開された「ライオンキング」もCGを使ったバーチャルシネマトグラフィーが最大限に生かされ、実際の動物を見ているようだった。本作でリー監督が挑戦するのがその人間版だ。
 主人公ヘンリーにはウィル・スミス。クライブ・オーウェン、メアリー・エリザベス・ウィンステッドらが共演。
 幕開けはヘンリーが超特急列車に乗っているターゲットを狙撃するシーンで始まる。腕は鈍ってはいないし肉体的にも衰えは感じない。が、最近、昔ほど冷徹に仕事を全うできない自分に気付いていた。50の大台に乗りそろそろ見切りをつけてのんびりリタイア生活でも、と思っていたところに、突然、自分の命を狙う男が現れる。しかも男は自分の若い頃にそっくりの容姿で攻撃、防御の仕方までも同レベルだ。
 一体何が起こっているのか。国防情報局の殺人部隊プロジェクトが始動したのだ。気味が悪いと同時にヘンリーは暗殺者に対して怒り以外の不思議な感情が沸いてくるのを感じる。
 ヘンリーより30歳若いクローンはまさに若き日のウィル・スミスで表情も動作もリアルすぎてCGのすごさに圧倒される。
 物語的には斬新さはないが近い将来、故人となった名優が若き日の姿で新たな作品に登場する可能性に触れる一作だ。1時間57分。PG-13。(明)

https://www.paramount.com/movies/gemini-man


■上映館■
ARegal E-Walk Stadium 13 & RPX
247 W. 42nd St.
AMC Empire 25
234 West 42nd St.
AMC Loews 34th Street 14
312 W. 34th St.

ぼくめいた 6

短期集中新連載えほん

作・絵 三浦良一

 最近、時計の針が進んだり、遅れたりすることが結構多くなったからね。ほかのみんなも結構同じ悩みを抱えているようなんだ。
なにしろ長年、こずかれたり、ぶつかられたりしている間に
メーターが狂ってきているってこともあるからね。
でも、それにしても、この女の子、
どうしてこんなことをするんだろう?
(次号につづく)


Recently, our times are ahead or behind;
it happens quite often.
My meter buddies worry about the same issue.
After all, we’ve been around a long time,
so after getting pushed and hit,us meters begin to malfunction.
That being said,
I wonder why this girl chose this assignment?
(to be continued)

編集後記 10月12日号

■【編集後記】
みなさん、こんにちは。世界中の都市の情報を提供するタイムアウト誌は9月、世界で最もクールな(かっこいい)街ランキングを発表しました。同誌は、2019年度タイムアウト指数調査の一環として、世界各地の都市生活者2万7000人以上を対象に、物価や文化、芸術、飲食などの魅力のほかに、地元は上昇傾向にあると感じるか、などを問うアンケート調査を行った結果の総合ランキング上位10位は次の通り。1位リスボン、2位はなんと日本の下北沢、3位にラゴスのオニカン、4位ベルリンのウェディング、5位ロサンゼルスのヒストリック・フィリピーノ・タウン、6位オーストラリア、ホバートのザ・ウォーターフロント、7位パリのストラスブール・サン・ドニ、8位にニューヨーク、クイーンズ区のアストリア、9位マドリッドのエンバハドール、10位シカゴのピルゼンだそうです。今週号の1面で記事掲載しています。
2位の下北沢について「東京の中のブルックリン。新宿や渋谷ほど商業的ではないが、ヒップなヴァイブやアングラの反体制文化に満ちている」と伝えています。また8位のアストリアについては「多様性と芸術、エネルギーに満ちている」と評価しています。アストリアは日本人も多く住むエリア。確かにクリエーターたちが多いです。地下鉄でマンハッタン中心部に1本。家賃はマンハッタンよりははるかにリーズナブル。しかしいきなり世界8位とは、ニューヨーカーもびっくりなのでは? 家賃がブルックリンのように高くなっていかなけれが良いのですが。まだ土地も余ってるので、これから10年でひょっとしたら最も発展する地域かもしれませんね。それでは、みなさんよい週末を。(「週刊NY生活」発行人兼CEO三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】
(2019年10月12日号)

(1)秋の足音鮮やかに  1面

(1)NYラーメンコンテスト  3面

(2)松坂慶子さんトークショー 3面

(3)小手鞠さん児童出版文化賞 5面

(4)ジョーカー厳戒態勢   5面

(5)JAAゴルフ72人参加   6面

(6)オープンハウスNY    8面

(7)NY生活ウーマン     15面

(8)史佳カーネギー公演   22面

(9)映画 Joker      22面

(10)絵本ぼくめいた6    12面

松坂慶子と秋の夕べ

日本クラブで11月7日ディナートークショー

 日本クラブ(西57丁目145番地)は11月7日(木)午後6時30分、女優の松坂慶子さんを迎えたディナートークショーを開催する。
 NHKの大河ドラマ「西郷どん」や連続テレビ小説「まんぷく」で主人公の母親役を演じ橋田賞を受賞するなど女優としての幅をさらに広げる松坂さんが、ドラマや映画への出演エピソード、趣味の音楽やフラダンス、ニューヨークやハワイでの体験談などを語る。バイオリニストの小澤真智子の生演奏もある。
 参加費は一般120ドル、会員100ドル(食前酒、特製弁当、デザート付)。
 問い合わせ、申し込みは電話212・581・2223またはEメールinfo@nipponclub.orgまで。協賛企業は日本航空、TTAインク、木村酒造、サンポップ・インターナショナル、Strategic Legal Solutions, Inc.、 大島会計士事務所。

鬼そば優勝 ジャパンフェス NYラーメンコンテスト

 ジャパンフェス実行委員会主催NYラーメンコンテストが5日と6日、ニューヨークで開催され、来場客人気投票で東京渋谷から参戦した「鬼そば藤谷」が得票数1371票で優勝した。日本国産味噌とオマール海老のコラボレーションに人気が集まった。店主のお笑い芸人「HEY!たくちゃん」は「おいしいって何度もお客さんが来てくれたのがうれしい」と表彰式で涙を流した。2位はマルチョン(1236票)、3位は麺屋和人(908票)だった。

小手鞠さん児童出版文化賞

第68回小学館児童出版文化賞

原爆の是非公開討論
米8高校生の証言小説化

 第68回小学館児童出版文化賞に、ニューヨーク在住の小説家、小手鞠るいさんの作品『ある晴れた夏の朝』(偕成社)が選ばれた。正賞としてブロンズ像、副賞として賞金100万円が贈られる。贈賞式は、11月14日に都内で開催予定。同書は、アメリカの8人の高校生が広島・長崎に落とされた原子爆弾の是非を肯定派・否定派に分かれて公開討論(ディベート)する様子が描かれる。
 小手鞠るいさん喜びのコメント「アメリカで暮らすようになってから27年、在米日本人作家として、このような賞がいただけて、とても嬉しいです。そして、小説家になりたいと思った13歳から数えると、50年後のこの受賞。地道にがんばってきて良かったなぁと、喜びを噛みしめています。本作を読んでくださったすべてのみなさんと、この受賞を分かち合いたいです」。同時受賞は、田中清代(たなか・きよ)「くろいの」(偕成社)、おくはらゆめ「わたしといろんなねこ」あかね書房)の2作品。受賞3作品中2作品が偕成社だった。備選考で選ばれた候補作を対象に、審査委員の荒井良二、今森光彦、鈴木のりたけ、富安陽子、森絵都の5氏による最終選考会が開催され、受賞作が決定した。

「ジョーカー」厳戒態勢

Photo : Warner Bros. Pictures

上映劇場での警備を強化

 大手映画配給会社のランドマークシアターズとAMCは映画「ジョーカー」の10月4日の封切を前に、上映劇場でのマスクやフェイスペイントを禁止すると発表した。またリーガルも映画館でジョーカーの格好をした人は警備員が追い出すことにした。
 タイムズスクエアにある映画館、AMCエンパイア25では公開初日の4日、マスクやフェイスペイントはしていなかったが、ジョーカーが殺人を始めるシーンで尋常でない様子で激しく拍手をした男性が警備員に追い出された。そばにいた人から注意されても拍手をやめなかったため観客の数人は恐くなり出て行ったという。
 ニューヨーク市警は、「厳重に監視され、必要に応じ追加要員を配置する」としている。ただし、ニューヨーク市では同程度の警備は毎日のように行われており、具体的な脅威が報告されているわけではないので特別な措置は取らないという。
「ジョーカー」はバットマンの悪役であるジョーカーの誕生を描いたフォアキン・フェニックス主演の映画で、第76回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。2012年にコロラド州オーロラで「バットマン」上映中に起きた乱射事件の犠牲者遺族から、映画は暴力を誘発するとの懸念する書簡を製作したワーナー・ブラザーズに送っている。また連邦捜査局(FBI)は、ジョーカーの孤独で怒りに満ちたキャラクターは「インセル」(非モテ)と呼ばれる鬱屈した人々を過激な態度に駆り立てていることがインターネット上で確認されたと報告している。
 映画を制作したスタジオであるワーナー・ブラザーズは「物語の機能の一つは複雑な問題に対し様々な会話を引き出すことです」と映画を擁護し、「間違わないでください。ジョーカーは現実世界の銃によるいかなる暴力も支持していません」との声明を発表している。映画は全米4700館以上で公開され大ヒットを記録している。

関連記事:孤独が悪に変わる時 Joker

JAAゴルフ72人参加

チャリティー・トーナメント

鈴木和幸さん優勝
2位漆原さん、3位古田さん

左から、廣村大会委員長、服部支店長、 優勝した鈴木さん、山野内大使

 午前9時30分、曇り弱風。各自が決められたホールから合図と同時に一斉にスタートするショットガン方式でトーナメントがスタート。集合時は肌寒ったが、天候は徐々に好転。気温も上昇し秋晴れの下でのプレーとなった。
 今回も12ホールを隠しホールにしてハンディキャップを算出する新ペリア方式を採用し順位を決定。元来の実力に加え、運も順位に大きく左右する今大会で、見事優勝の栄冠に輝いたのは鈴木和幸さん。アウト42、イン40のグロス82、ハンディキャップ12、ネットスコアー70・00で優勝を飾った。「『まさか優勝はない』、と思っていましたので大変嬉しいです」と喜びを語った。

2位の漆原さん

 2位は、アウト40、イン40のグロス80、ハンディキャップ9・6、ネットスコアー70・40で漆原ケンさん。わずかに0・4及ばなかった。漆原さんは2015年に優勝、昨年に続き入賞を果たした。

3位入賞の古田さん


 3位はアウト45、イン46のグロス91、ハンディキャップ20・4、ネットスコアー70・60で古田義章さんが入賞した。
 ベストグロスは、男性部門が2アンダーの70でK・H・ワヤンさん。女性部門は85でラウンドしたキー・ベイクさんがそれぞれ獲得。今回も75歳以上の「グランドシニア」が4人参加。大会から記念品が贈呈された。
 順位発表と並行して恒例のラッフルも開催。今回も豪華賞品が多数出品され大盛況。特賞の「JFK・東京往復ANAビジネスクラス航空券」は、佐藤圭太さんが獲得。ANAの服部支店長から目録が手渡された。ラッフル1等は濱坂健立さんが獲得。IACEトラベル(石田圭子会長)から、アメリカ国内線往復チケットが贈られた。
 なおラッフルの売り上げと参加費の一部は、JAAのソーシャルサービス活動に充てられる。
最後はデビッド廣村大会委員長が、参加者・協賛企業および個人に感謝の意を表明。次回大会への抱負を述べるとともに再会を約束。トーナメントは無事終了した。 (ケーシー谷口)

75歳以上のスーパーシニア4人が参加

非公開のビルを見学できる「オープン・ハウス・NY」

 環境問題をはじめ、古い史跡や建物をどのように維持し、その文化を現代に反映、継続させるか、そして最新デザインの建物から学ぶものは何か。デザイン、アート、エネルギー、テクノロジー、土木工学など現代建築にまつわるものを見据えて、グリーンでサステナブルな社会に取り組むオープン・ハウスの動きが、ヨーロッパからアメリカに伝わり、2003年にスタートした同「オープン・ハウス・ニューヨーク」。恒例のオープンハウス週末を、今年から金曜が加わって3日間の期間となり、今月18日(金)から20日(日)まで開催される。

 普段は一般公開されない歴史的建築物や、許可無しでは入れないようなレストラン、ホテル、空港など公共建物をはじめ個人邸宅などを全市規模で市民に一般公開し、同運動の目指すところを実際に目のあたりにして体験してもらい、広く認識を広めることを目的としたアウトリーチ活動の一端を担っている。ゾーンとして新しい取り組み活動をしたり、古い物を現在に適応させ共存している地区へのアウティングツアーなどはこの週末期間に限らず適宜催されているが、建築家だけでなく環境問題専門家や地区保全保存のリーダーなど、この活動はボランティアで運営されており、ハウスツアーだけでなく、討論や勉強会、ワークショップなども計画されている。

 建物への入場は無料だが、予約が必要となる。公開場所や詳細などはwww.ohny.orgまで。自分の住む街の認識と価値観に目からうろこが落ちる発見があるかもしれない。写真の建物はブルックリンのケント通り25番地のビル。

その2「バベットの晩餐」

ジャズピアニスト浅井岳史の2019南仏旅日記

  やはり時差ボケだ。夜中に起きて二度寝、結局朝寝坊をしてしまう。が、バケーションに来ているのだ。何を急ぐことがあろう。
 昼過ぎにこの中世の街Uzes市(ウゼ)の真ん中にそびえる城に出かける。ここは古くはローマ時代から栄えた山と川に囲まれた風光明媚な街なのだ。紀元前1世紀にはすでにローマの水道が作られていた。近くにpont du gardという世界遺産にも登録された有名な水道橋があるが、その上流の当たるのがこの街である。
  当然のことながら、そういうところは奪い合いになる。ウゼは8世紀にはアラブのウマイヤ朝に占領され、アラブの最北端に位置した。かつてエジプトがローマ帝国でキリスト教国であったことは驚きだが、南仏がイスラム教国家? これはさらなる驚きである。それをレコンキスタでキリスト教軍が奪回したことは周知の事実である。
  フランスには大きく分けて二つの地域がある。一つはYesをOuiと言うパリを中心とする地域、もう一つはYesをOcと言う南仏である。言葉の名前が地名になり、ここをLangued’oc、ラングドック地方という。それはOccitaneとも呼ばれ、世界的に有名なフランスのブランドL’Occitane en Provenceはここの文化を商品化している。
  ウゼは長い間キリスト教ビショップが治める街として繁栄した。が、パリのルイ8世が併合を企て、13世紀にルイ9世(私の研究テーマ)との間で和解が成立。1229年に公爵(Duke)が置かれ、それ以来800年間、この城はDuch d’ Uzesと呼ばれ、同じ家の末裔が今も住んでいるという。現在の城主様に是非会ってみたいものだ。
  素晴らしい円形の城下町には中世の石の建物がそのまま残る。城が見えた! 眩しいプロヴァンスの太陽に石の建物とロゴ入りの屋根が映える。早速入場。城のゲストではないので、チケットを買う。フランスの田舎の城は、大抵フランス語のツアーでしか中に入れない。そこに庭だけ観たい人、翻訳が欲しい人など、ややこしくなる。英語では中々通じないので、伝家の宝刀フランス語で頑張った。そうしたら、後ろにインディアナから来たというアメリカ人夫婦がいて通訳をしてくれと言う。日本語も少しできる彼らと共通点も多く会話が楽しかった。
  フランスの城は大抵そうだが、中世の古い部分と近代の豪華な宮殿が共存する。古い鎧の兜があり、ご先祖様のバストや肖像画がたくさん並べられている中に何と今の城主の家族の写真もある。近代の部分には教会があり、光輝いていた。そして屋上から見た景色の素晴らしいこと。石の建物と屋根が緑の森の中に円形の中世の街を形づける。この景色は13世紀から変わっていないはずである。
  最後にアクシデントがあった。中世の城には大抵地下に牢獄がある。入り口が一つしかなく一回入ったら出られない。恐ろしくも囚人はそこで忘れられてしまうというので、城の牢獄をOublie(忘れた)と言う。ゴーストが出ると言う噂があるそのウブリエを覗いていたら、サングラスを落としてしまった。幸い深くはないので、下の方に落ちているのが見える。一瞬、自分で取りに行こうかと思ったが、それは危険だ。それに忘れられたら大変だ。サングラスを諦める? それは城にとっても良くない。で、夫婦でさっきの受付のお兄さんにお願いに行った。たった一人で切り盛りしているお兄さんは、入口を閉鎖して、石が風化していて危ない中、頭をぶつけながらサングラスを拾ってくれた。なんて素晴らしい人だ。名前を聞いたらトニーだと言う。深々と感謝した。


  城を出ると門前に露店が準備をしている。どうやら今夜はお祭りのようだ。なんてラッキーなんだ。街の広場でアイスクリームと飲み物で休憩。それもフランスならではの非常に格調の高いスウィートだ。NYでプロデュースを手掛けている女性シンガーのデビューコンサートが決まったと知らせが入った! アイスクリームがもっと甘くなった!すっかりスウィートになってひとまずアパートまで帰る。徒歩10分だ。
  本来はアパートで自炊をするのが常なのだが、今夜はお祭りもあるし、初日から掟を破って外食をすることにした。夕方は冷えるのでそれなりの服に着替えて、昼間たっぷり楽しんだ城の前に戻る。
  出店を見て回る。トリュフ屋がある。頻繁に南仏に来ながら今まで知らなかったが、トリュフには黒トリュフと白トリュフがある。お馴染みの黒トリュフは南仏産で1キロ800ドルで取引され、白トリュフはイタリア産で1キロ2000ドルだそうだ。純粋のトリュフは高いので、トリュフのクリームを買う。特別なディナーで出そう。
  目星を付けておいたレストランへ。フランスでは夏の夜は外で食事をするのが普通である。星空の下、薄暗いキャンドルのテーブルにつく。英語を喋るのは失礼になるくらい超フランスの夜である。ウェイトレスの女性が超優しい。料理は、前菜にピーマンのツナ詰め、メインにプロヴァンスのチキン、プロヴァンスのエビ、北アフリカ料理のクスクス、美味しいパン、表面が硬いので割って食べるクリームブリュレ、ティラミス、このクオリティーの高さは何だ! 決して高級レストランではないが、長い間に培われてきた食文化がここにある。やはりフランスは世界で押しも押されぬ文化大国だ!
  映画「バベットの晩餐会」の如く、すっかり料理で幸せになって、星空の下中世の石畳を歩いていると、城の前の市役所でタンゴ大会があって、街のおじさん、おばさんが着飾って楽しく踊っている。どこかダサくてパリの洗練さは全くないが、集う人たちの楽しさはどうだ!こちらが感動してしまう。しばらく見入ってしまった。
  その感動を胸にアパートに戻る。プロヴァンスの初日は、今までの辛いことをすべて帳消しにしてお釣りをたくさんくれる幸せな一日であった。(続く)
(浅井岳史、ピアニスト&作曲家)
www.takeshiasai.com

日本の形式美で日本人の幸せ観を問う

現代アート作家
薄紫 かなさん

 ブルックリンのレッドフックエリアにあるBWAC(ブルックリン・ウォーターフロント・アート・コアリション)によって開催されている展覧会「カラー・アート・エキシビッション」で、近代美術館(MoMA)PS1のアシスタントキュレーター、ジョセリン・ミラーによる審査でこのほど審査員賞を受賞した。作品は布で縫い上げた棒状の紐を結びあげたもので、着物の帯紐などの「結び」にヒントを得た造形。紅白の紐は日本を象徴しており、タイトルは「Self binded happiness(Red and white)/セルフ・バインデッド・ハピネス」。
 作者の薄紫さんは「文化に縛られていることは、型をもつことは、幸福なのか呪縛なのかということを表現したかった」という。「アメリカの文化は縛られていることは不自由、イコール不幸だと考えられているので、そのコントラストを出したかった」とも。
 文化背景のある結びを使って、型にハマることが、幸福なのか、不幸なのかを問う、見る者によって両義性をもつ奥深い作品でもある。型や形式を重んじる日本独特の伝統や文化を表現したところが評価された。
 薄紫さんは、1988年東京都生まれのコンテンポラリーアーティスト(現代美術作家)。阿佐ヶ谷美術学校のIC科(イメージクリエーション科)在学中に映像会社の映画試写制作に携わり、学校を卒業後デザイン会社勤務のち2016年に来米した。2018年にはマイアミのマナ・コンテンポラリーで茶室の屋外インスタレーションを制作して発表、注目を集めた。今年は、韓国のCICA 美術館によって薄紫さんの代表作Crow peopleのインスタレーション作品が選ばれ展示された。
 常に現代社会における自身の考察をアートとして昇華し、価値概念の側面を見つめて制作している。東京、イギリス、ニューヨーク、マイアミ、韓国で作品を発表し、今年は美術館での展示も果たして活動の幅を広げている。
 ニューヨークに来て3年半、世界各国のアーティストたちと交流するなかで、自分自身のルーツである日本文化を見つめ直す機会ともなった。「日本の形式美を題材とした作品として形に残すことができた。将来的には、常に自身の過去の発想に囚われることなく常に新たなコンセプトと発想で作品を作り続けたい」と語った。展覧会は27日(日)まで。 (三浦良一記者)
 開催地住所は481 Van Brunt St. Door7, Red Hook, Brooklyn