編集後記 2022年8月20日号

【編集後記】

 みなさん、こんにちは。私は深夜に料理をして食事をすることが多いのですが、先日、クリームシチューが食べたくて買ってきたルーを箱から取り出して鍋に入れようとした時に、感触が違いました。プラスチックの密封容器にいつもはパンパンに入っていた固形ルーが、スカスカで半分しか入っていないのです。通常8個ある半分の4個の塊でシチューにとろみがつくのですが、今回はそれだとスープにしかならないので、6個の固形ルーを使いました。2個が半端で余りました。いちいち値段を見て買っているわけではないので、高いのか安いのか気にしてなかったのですが、さすがに、おー、こう来たかと今回は思いました。商品の値札は変わらないけど、よくよく見ると目減りインフレ。これをShrinkflationと呼ぶそうです。洗剤もコーヒー缶もパンも化粧品もそしてトイレットペーパーも。昨日は、金物店で強力接着剤を買ったのですが、中身は半分しか入っていませんでした。この調子だと、デオドラントバーのスティックの中身なんかも見えないところでしっかり量が削られていそうですね。だまされたと怒る消費者もいますが、量を減らしても値段をそのままにする方が、買う人も手が出しやすいと供給サイドは反論します。これは昔からある苦肉の策らしく、古くは、キャラメルの砂糖の量を調整するのにキャラメルについている溝を深くしていたとか、故多胡輝さんの『頭の体操』を小学生時代に読んで妙に感心した記憶があります。記録的な物価高が続くなか、とくに食料品価格は6月で前年同月比10・4%もの上昇となっていて、国勢調査局の6月のデータによると全米でおよそ2500万人の成人が過去7日間に十分な食事を取れなかったそうです(今週号1面に記事)。マンハッタンでのレストランでの外食はもはや富裕層のみの特権。庶民は家庭の食卓でなんとか工夫することになりますが、粗末な安い食材でもいかに美味しくいただくか、あとは料理の腕をあげるしか方法はなさそうです。それでは、みなさん、よい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2022年8月20日号)

(1)記録的物価高 食料品を直撃

(2)バブルの道のり 山あり谷あり

(3)NY日本人美術家協会 50周年記念展

(4)CDCが新たな指針 濃厚接触者隔離不要

(5)軍事政権に反対 NY在住ミャンマー人

(6)新鮮な日本野菜販売 ジャパンビレッジ夏祭りで

(7)日米の学生が茶道体験 裏千家の鈴木講師が解説

(8)NY日本人学校 新校舎で始業式

(9)全米そろばん大会 NY小島君が優勝

(10 )ファッションはエネルギー  キャッツ洋子さん

記録的物価高、食料品を直撃

国勢調査局が発表

全米の成人2500万人、十分な食事取れず

 記録的な物価高が続くなか、とくに食料品価格は6月で前年同月比10・4%もの上昇となっている。国勢調査局の6月のデータによると全米でおよそ2500万人の成人が過去7日間に十分な食事を取れなかったという。コロナ禍で失業率が現在の倍あった2020年末以来、最大の数となっている。アーバン・インスティテュートの調査によれば就労している人の17・3%が食料不安を経験したという。

 このため生活困窮者などに食品を無料で提供するフードバンクやフードパントリーを利用する人が増加している。200のフードバンクと6000のフードパントリーと食事プログラムをつなぐ米国最大のフードバンク・ネットワークのフィーディング・アメリカの6月の調査によれば、加盟組織の65%でサービスを受ける人が増加、減少したのは5%だった。

 一方、今年2月から5月の間で73%が食料品の寄付が減少したと答え、また94%が食料品購入費用が増加していると答えた。フードバンクなどへの現金寄付は今年第1四半期(1〜3月)は1億700万ドルで、昨年同期の1億5100万ドルの3分の2までに減少している。 

 記録的な物価高が続いているが、失業率は下がり、賃金は上昇している。賃金が上がったため、低所得者のための食料費援助であるSNAP(フードスタンプ)を受けられないことから、フードパントリーなどに頼る人も増えているという。

バブルの道のりって山あり谷ありだねー

 マンハッタンの6番街32丁目と33丁目に出現した巨大な芋虫? 実は風船でできた迷路ゲーム。中はトンネルになっていて、ロッククライミングやジェットコースター並みの滑り台が楽しめる。出るまでに大人でも30分以上かかる。入場料20ドル。バブルの中の道のりは、山あり谷ありでなんだか人生そのもの。(13日昼、写真・三浦良一)

CDCが新たな指針、濃厚接触者の隔離不要

 米疾病対策センター(CDC)は11日、新型コロナウイルスに関し、濃厚接触者に対しての隔離を不要とする新たなガイドラインを発表した。

 今後の学校やデイケア施設における感染者への隔離や、登校のための陰性証明を求めることは推奨せず、学校で児童の感染リスクを減らすための集団隔離の推奨も撤廃される。

 また、ワクチンの接種有無にかかわらず感染者と接触した人の隔離を不要とし、最後に接触してから5日間空けて検査を受け、10日間は高性能のマスクを着用するよう変更した。

 検査で陽性が確認された人は少なくとも5日間の隔離を推奨し、症状があるものの検査結果が出ていない人は結果が出るまでは隔離を求めている。

 今回の変更についてCDCは「ワクチンや治療法など、重症化を防ぐ手段はいくつもあり、リスクは大幅に減少している。パンデミックはまだ終わっていないが、新型コロナによって日常生活が大きく混乱することがないよう、今回の変更を行った」とした。

NY日本人美術家協会、50周年記念展覧会開催へ

 ニューヨーク日本人美術家協会(JAANY、松田常葉会長)の創立50周年記念展覧会が9月1日(木)からマンハッタンの天理文化協会(西13丁目43番地A/5番街と6番街の間、電話212・645・2800)で開催される。

 同協会は、1972年に、名誉会長である故飯塚国雄氏が仲間の日本人アーティストたちとニューヨークで設立した当地で最も古い日本人美術家の運営による非営利団体。これまで、展覧会での芸術作品の展示、アートを通じた日米間の文化交流、米国で活動する日本人アーティストの支援活動を行っている。

 出品者は、阿井次郎、青木壽子、青柳愛子、愛子Cascio、藤原未佳子、古川文香レオナート、佳奈ヘンデル、林幸江、平之内美穂、石田純一郎、柏木文子、Mi JungKim、越光桂子、松田常葉、三浦良一、長倉一美、小野田昌子、ロス郁子、シモン千加子、竹下宏、渡嘉敷亨、山本かりん、YUKAKO、遊真あつこの現会員と一昨年亡くなった名誉会長の飯塚国雄の25人。同展での優秀作品2点には「マックス・ブレッチャーJR賞」ならびに「末村敬三賞」の2賞が贈られる。オープニングレセプションは2日(金)午後6時から8時まで。期間中展示作品は購入が可能だが、出展作家による200ドル以下の買い求めやすいチャリティー小作品の展示・販売コーナーも会場に設けられる。会期は15日(木)まで。開廊時間は月〜木が正午から午後6時まで、土曜が正午から午後3時まで。金曜、日曜、レイバーデー(9月5日の月曜)は休館。但し2日(金)はレセプション時間帯のみオープン。

軍事政権に反対

NY在住のミャンマー人
募金昼食会開く

PDF(国民統一政府(NUG)」の自衛組織「国民防衛隊(PDF)」のTシャツなどを販売するオードリーさん

 ニューヨーク市一帯のビルマ(ミャンマー)人500人余りが6日、クイーンズ区のセント・ ジェームズ ・エピスコパル教会で募金昼食会を催した。

 ボランティアが腕をふるってモヒンガーやシャンヌードルなど、さまざまなビルマ料理を持ち寄り、販売収入は募金となって本国で軍事政権と戦う民主主義支持者の基金となる。NY市には2021年2月のクーデター以降に設立された主な募金運動機関が4団体あり、年間4〜5回同様な募金運動が行われるが、今回はSMS (Spring Myanmar Society)とH2B(Helping Hands for Burma) が主催した。 

 「ミャンマー国軍のクーデターで、それまでの軍事政権から民主主義へと国民の圧倒的な支持を得て民主主義に第一歩を踏み出したアウンサンスーチー氏とNDL(国民民主連盟)の幹部を国軍が追放し、拘束した」と説明するビルマ人たちは募金を国軍と戦う民主主義支持者に送金をする。

ミャンマー国ではクーデターを起こした国軍が予想以上に一般国民の抵抗をもたらしていると最近のAP通信やニューヨーク・タイムズ紙などが報道している。 

向かって左から:トゥン・トゥン さんSMS (Spring Myanmar Society), トゥレイン・ウィンタットさん (H2B; Helping Hands for Burma), ネイ・T・ミンさん (NYCBC), ゾー・M・テイン さん(H2B)

 NY市ビルマ人コミュニティ(NYCBC)の会長であるネイ・T・ミンさんは、「ニューヨークの一般市民にミャンマーの実情を知ってもらい、投獄されているアウンサンスーチー氏やNDLの幹部を支持する新興のCRPH(連邦議会代表委員会)とNUG(国民統一 政府」を承認してもらいたいと訴える。

 また、匿名希望の参加者は「NY市一帯では(約1万人と想定される)ビルマ人人口の約 70%から 80%がNUGとCRPHを支持しており、 クーデター以後の入米者を含めればもっと多くの支持率となる。8月のNLDメンバー4人の処刑は遺憾なことだったが、我々はその怒りを肯定的なエネルギーに換えて軍事政権と戦っていく。軍当局を打倒するのは非常に難しく、時間がかかるが、辛抱強く努力を続けていく」と語った。(ワインスタイン今井絹江、写真も)

新鮮な日本野菜を販売

鈴木ファームが27日ジャパンビレッジ夏祭りで

トキタ種苗とコラボレーション企画

 アメリカ東海岸で唯一の日本野菜農業を30年以上経営する鈴木ファームが27日(土)、ジャパンビレッジ(934 3rd Avenue, Brooklyn)で行われる第2回夏祭りに出店する。農場から直送した、取れたてでフレッシュな日本野菜の出張販売を行う。旬の夏野菜のトマト、なす、ピーマン、きゅうり、長ネギ、ゴーヤ、カボチャ、ししとうなど、どれも日本ではなじみがあるがアメリカではなかなか手に入らない野菜を豊富に取り揃えて販売する。価格は3ドルから。

 なお、今回の出張販売は日本野菜の種を育種する「トキタ種苗株式会社」とのコラボレーション企画により実現したもの。トキタ種苗は、日本のおいしい野菜を世界中に広める総合プロジェクト「Oishii Nippon Project」の活動を行っており、米国内での日本野菜の普及推進に努めている。トキタの種の野菜は鈴木ファームでも栽培されており、今回の出店で購入が可能。新鮮野菜の他、アメリカでも育てやすく品種改良されたトキタの種の販売も行う。問い合わせはEメールinfo@tokitaseedamerica.comまで。夏祭りの詳細はウェブサイトwww.japanvillage.comを参照。

日米の学生が茶道体験

第74回日米学生会議NYで

裏千家の鈴木講師が解説

 1934年に発足した日本初の国際的な学生交流団体である日米学生会議(Japan-America Student Conference:JASC)に加盟する学生のうち、日米合わせて約60人の代表団が第74回目日米学生会議プロジェクトの活動の一環でニューヨークを訪れた。6日には裏千家茶の湯センターの協力により日本の伝統文化である「茶道」についての勉強会を行い、日本の伝統文化の世界普及と国際化について学び、日米間の文化の相違について意見を交わし、両国の学生間の相互理解を深めた。

 当日はまず、NY市立大学ハンターカレッジの講堂を会場に、裏千家今日庵業躰であり裏千家NY出張所責任講師の鈴木宗慶氏を講師に迎え、茶道発祥の歴史と精神についての講話を行った。鈴木講師は、茶道が時代と共に変化と進化を繰り返し、裏千家の第15代家元、千玄室大宗匠の「一盌(いちわん)からピースフルネスを」の理念で海外に布教してきたこと、また、茶道がもたらす「静」のパワーと精神バランスが世界に「平和」をもたらすこと、そして、茶道が人や国の関係構築にどう貢献してきたかなどを分かりやすく解説した。続いて、同センター講師のフィリップ・ハファティ宗建氏とペイ・ツエン・タオ宗佩氏を交えパネルディスカッションを行い、学生からは積極的に質問が投げかけられるなど活発な論議となった。その後、裏千家茶の湯センターに場所を移し、同センターの講師による茶道体験を行い、茶道道具やお点前の所作の意味や重要性を学んだ。

 日本から参加した大阪大学工学研究科環境・エネルギー工学専攻・修士1年の山本悠太さんは「初めて茶道に触れた参加学生も多く、若者がいかに伝統を継承できるか考えさせられた。バックグラウンドに関係なく、国を超えてその場の空間と時間を楽しめることに価値があると感じた」と話し、日本の伝統文化の国際交流の重要性を実感した。また、鈴木講師は「本格的に茶道を学ぼうという学生たちの熱意が伝わってきました。『道』を極めるという日本独特の奥義に関する質問が出るなど、日本文化の神髄を深く学びそれを日米間で交流しようとする姿勢が強く感じられました」とコメントし、有意義な国際交流の勉強会となった。

リバーサイドの新校舎、NY日本人学校で始業式

 夏休み中にリバーサイド校舎への移転を終えたNY日本人学校は8日、2学期始業式を行い、きれいに整った校舎に11人の新入生を迎えた。「WELCOME BACK TO GJS」の文字が校内に掲示され、友達や先生と久しぶりに再会した子供たちの楽しげな声が校舎に響いていた。

 体育館で行われた始業式では、岡田校長が「皆さんはリバーサイド校舎の1期生。初等部中等部、みんなで協力してGJSの新しい歴史を創っていきましょう」と話し、児童生徒も真剣なまなざしで聞いていた。次に、2学期に頑張りたいことについて発表が行われ、初等部代表者は「英語とテニスを頑張りたい」=写真左上=、中等部代表者は「自分から率先して係などの活動をしたい」=写真左下=と発表した。

 2学期は多くのイベントがあり、4か月半に及ぶ長い学期。仲間で協力し、自分たちで自分たちの学校を創っていく実りの学期が始まった。

全米そろばん大会、NY小島君が優勝

 カリフォルニア州サンノゼで8月7日、全米そろばんコンテストが3年ぶりに対面方式で行われ、ナショナルレベルの生徒87人が全米から参加した。

 当日は小学生3部、中学・高校と5部門に分かれそれぞれの腕を競った。

 高校の部で、ニューヨーク代表の小島アンドリュー君(9段、佐藤そろばん教室)=写真=が優勝した。読み上げ算の部とフラッシュ暗算の部で共に優勝、ペーパーの部で2位だった。

 同教室のオープンは1977年、日本での指導を入れると50年になる。現在はスカースデール教室の対面クラスとオンラインによるクラスを行なっている。5名程度の少人数クラスですべて個別指導。それぞれの子供の能力を最大限に引き出すことを目標としている。同教室を運営する佐藤タカ子さんは「そろばんは一つ一つ理解し練習を積み重ねていくことしか上達の方法がなく、忍耐も必要なのですが計算力、あんざん力だけでなくそれに伴う集中力が養われ、なによりも子供達の自信となっていくことがいちばんのメリットです。それを裏付けるように親子2代で来てくれる生徒も増え、ご父兄が子供の頃に習っていてやはりそろばんをという生徒さんも多いです」と話す。

 同教室の卒業生には、日本での超一流大会クリスマスカップの英語読み上げ算部門の読み手もいる。当地での1級合格者105人、段位合格者77人。問い合わせは電話914・472・1181、詳細はウェブサイト www.TheSorobanSchool.com

ファッションは前向きなエネルギーを放つ

ファッション工科大学 社会科学部経済学准教授

キャッツ 洋子さん

 ファッション工科大学(FIT)は、1944年に設立されたアート、デザイン、ファッション、テクノロジーの分野の学科を擁するニューヨーク州立大学だ。ファッション経済学は、キャッツさんが10年前に同大に提案してクラスとなった新講座。しかし半年ごとの雇用契約更新は、無記名の学生からのアンケートに重きがあり、査定では毎回コメント欄を全部読み上げられる。「教授の英語が全くなっていないから、経済学が理解できなかった」と毎学期言われ続けた。

 「反省を次へのチャンスに切り替えて」、前回より少し踏ん張り、常に一歩踏み込んで「110%のクオリティを目指して」進み続けたことで次第に評価が上がった。「新しいコンセプトを受け入れてくれるニューヨークは、挑戦のしがいがあります」と穏やかな笑顔を見せる。

 だが自分のクラスを持って1年経った時に乳がんの宣告を受けた。36歳だった。健康には人一倍気をつけて生きてきたのになぜ、と裏切られた気持ちで落ち込んだ。抗がん剤治療もきつかった。それでも「自分が作ったクラスは自分で教えたい」と腫瘍内科の医師に相談。辛い治療だけど副作用に対する薬も増えたので、できないはずはないと頑張った。「ファッションの大学で、自分は一体どうやって教えればいいのか。女性のシンボルである髪や胸をなくす治療をしながら、どうしたら自分らしくいられるのか」葛藤した。最初に購入したオレンジウィッグを友人に見せたところ、ブログにファッションを記録していったら? と勧められて始めたブログや抗がん剤治療室の待合室で「あなたのターバン姿すてき、どうやってやるの?」から派生した帽子作りもファンが多い。ファッションが患者の心に寄り添うもので、装う美は、自分だけではなく周囲の人にもポジティブなエネルギーを放つことを実感した。今年、定年がない永久にFITで働ける地位を得た。完治のないステージ4になってから3週間に1度の点滴治療は一生続く。癌患者のかっこいいアート写真の展示会を開くこと、ファッションと経済の分野を多方面から見るようなカリキュラムを作ること、いつかメトロポリタン美術館のガラに招待されること、などまだまだ見果てぬ夢はいっぱいある。「そのためにも生きて行かなきゃですね」。家庭では妻であり母でもある。(三浦良一記者、写真は本人提供)