【編集後記】
みなさん、こんにちは。日本政府は本日、24日、新型コロナ対応の水際対策の一環として、日本人を含む国外からの全入国者に求めている陰性証明書の提出を9月7日から、3回目の新型コロナウイルスワクチン接種を条件に免除する方針を明らかにしました。これにより、現在、米国を含む海外から日本に渡航する場合に求められていた、PCR検査、検査証明書の提出をしなくてもよくなることになりました。入国前の検査については、経済界などからG7諸国並みに円滑な入国が可能となるよう、検査の緩和を求める声が上がっていました。入国者数の上限についても、早ければ9月中にも現在の1日2万人から5万人に引き上げる方向で調整しているそうです。日本を訪れる観光目的の外国人について、政府が添乗員がいないツアーも入国を認める方針を固め、実施の時期を検討しているそうです。添乗員付きツアーは、自由行動が制限されるため、そのような制限のない他のアジア諸国に旅行者が流れて行ってしまう現象があったためです。思えば、ただでもできるような検査を、提出する書類のサインをもらうためだけに200ドルも300ドルも使わなくてはならない政府の押し付けは、本当に帰国者泣かせでした。ゼロサムですから泣いた人の分だけ喜んだ人がいたと言うことです。払われた代金を受け取った海外の一部指定の医療機関はコロナ特需に沸いたかもしれません。まもなくこの陰性証明書の取得も終わるので営業妨害にはならないと思うので、誤解を恐れずにあえて言うなら、コロナ禍で立ち向かっている医療従事者は崇高な使命を激務の中でまっとうして賞賛に値する仕事ぶりでしたが、陰性証明書の値段は、あそこまで高くする必要があったのか、利権に寄り添って暴利を貪る行為に等しいものがあったのではないか、コロナ禍で一度も帰国しなかった私ですらそう思うのですが、言い過ぎでしょうか。当事者は帰国を控えて愚痴を言っても始まらないので、誰も公には言いませんけど、財布は痛かったはずです。コロナ蔓延の大騒ぎの日本で今水際対策の緩和というのも喜んでいいのか、危惧していいのか、やろうとしていることがお互いに反駁する打ち消し効果が作用するように思える迷走ぶりです。感染を抑えたい医療専門家とビジネス再開を急ぐ経済界とはおそらくこの事態打開に向かう立ち位置が違うんでしょうね。それでは、みなさん、よい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)
PCR陰性証明不要に
ワクチン3回接種が条件
9月7日からの日本入国
日本政府は24日、新型コロナ対応の水際対策の一環として、日本人を含む国外からの全入国者に求めているPCR検査における陰性証明書の提出を9月7日(水)から、3回目の新型コロナウイルスワクチン接種を条件に免除する方針を明らかにした。
これにより、現在、米国を含む海外から日本に渡航する場合に求められていた、PCR検査、検査陰性証明書の提出をしなくてもよくなることになった。岸田首相が首相公邸からオンラインで記者団の取材に明らかにした。
また、患者に求めている日本における療養期間も「全体的な感染状況の推移を見た上で、期間短縮などを含む全体像についてできるだけ早く公表すると発表した。入国前の検査については、経済界などからG7諸国並みに円滑な入国が可能となるよう、検査の緩和を求める声が上がっていた。入国者数の上限についても、早ければ9月中にも現在の1日2万人から5万人に引き上げる方向で調整している。
また、観光目的の外国人について、政府が添乗員がいないツアーも入国を認める方針を固め、実施の時期を検討している。添乗員付きのツアーは行動の自由度が低いとして、個人旅行を好む欧米の観光客などが訪日旅行を敬遠する要因になっているとの指摘が旅行業界から出ていた。
首相は「ウイルスとの戦いは容易ではないが、過度に恐れることなく、変化するオミクロン株の特性を踏まえながら、できるかぎり感染防止と社会経済活動の両立を実現していくため、対応を加速する」と述べた。
JAPAN Fes 28日に開催
イーストビレッジに最大60店舗が出店
第64回ジャパンフェス(夏祭り)が28日(日)イーストビレッジの4番街9丁目と11丁目の間で午前11時から午後6時まで開催される。過去最大の60店舗が参加する。たこ焼き、焼きそば、抹茶ソフトクリーム、唐揚げといった日本の定番屋台フードはじめ、夏祭り限定のヨーヨー釣り、スーパーボールすくい、浴衣コンテストなど日本の祭りを象徴する食べ物や催しものを用意している。浴衣を着てイベントに参加した人には、受付で伊藤園のお茶がもらえる。詳細はウェブサイト www.japanfes.com
灰色人気が鮮明
欧米車も日本車もGREY is COOL
自動車の車体の人気色がグレーになったのは今から4年前、イタリアのフィアットが軍用機の塗装を模して車体を灰色にしたのが火付け役となったと言われている。メタリックではない、ぬめっとした単色が特徴で、暖色系と寒色系に分かれ、絵の具で塗ったような透明感のないフラットな色合いが特徴だ。
ベンツ、BMW、ポルシェ、ボルボなどの欧州車だけでなく、フォードのブロンコなどのトラックや乗用車でも広く見られ、日本車も続々と「グレーカラー」のボディ塗装車を米国市場に投入、いまやマンハッタンでも日常的によく見かけるようになった。これまで日本車のボディカラーと言えば白と黒の二色が、中古の査定においても高い価値をつけるため定番だったが、新しい年式の車ほど灰色比率が高くなる世界的傾向のなかでど真ん中を走っている。
(写真上)左上からベンツ、フォード(NY市内と近郊で19日、写真。三浦良一)
弾丸列車の殺し屋バトル
Bullet Train
ブラット・ピット扮する殺し屋が新幹線の中で他の殺し屋たちと壮絶なバトルを繰り広げるアクション・コメディ。原作は伊坂幸太郎著『マリアビートル』。
日本舞台の日本小説ながら登場人物の名前を含め英語作品として違和感のないよう脚本され、かなり大胆にハリウッドの味付けを凝らしている。ジョークと本気を混ぜながらのウィットに富んだ会話はアップテンポで「殺し屋」たちの流儀もオリジナリティを競う。
原作舞台の東北新幹線が東海道新幹線に、また悪魔の申し子のような男子中学生「王子」は「プリンス」という名のイギリスの女子高生に変わっているのがメインの違い。バトルシーンはいうまでもなく桁外れの爆笑ものでハリウッドお得意の「日本もどき」シーンも満載だ。共演はジョーイ・キング、真田広之、サンドラ・ブロックら。
オープニングは日本のロックバンド「女王蜂」アヴちゃんが歌う「Stayin’ Alive」の曲に乗り爽快に街を歩きながらスマホで誰かと話してるレディバグ(ピット)。やたらツキがなく弱気な殺し屋の彼はしばらく仕事から遠ざかっていたが最近復帰。ハンドラーのマリアビートルから急に「簡単なお仕事」を頼まれる。京都行き新幹線に乗ってあるブリーフケースを盗む、という依頼。東京を発ってまもなくブリーフケースは手に入れたが降りようと思ったらドアの前にもろ殺気立った男が立っていた。これがレディバグにふりかかるサバイバルバトルのキックオフだった。
次々に現れる新たな殺し屋たち。それぞれ目的、思惑は違っているがどこかで皆つながっている。レディバグは積極的に誰かを殺すつもりはないが攻撃されれば応戦しなければならない。さて生き残るのはどの殺し屋か。そしてレディバグが請け負った仕事の行く着く先は。
奥田民生のヘビメタ調「Kill Me Pretty」、カルメン・マキの「時には母のない子のように」、坂本九の「上を向いて歩こう」など場面に合わせた挿入歌の使い方も効いている。監督は「デッドプール2」のデヴィッド・リーチ。2時間6分。R。(明)
(写真)必死で応戦するレディバグ(ピット)Photo : Scott Garfield/Sony Pictures
■上映館■
AMC Empire 25
234 West 42nd St.
Regal E-Walk Stadium 13 & RPX
247 W. 42nd St.
AMC 34th Street 14
312 W. 34th St.
日本クラブ友情の手助け
NY日系人会の水漏れ被害で
「場所使って」提供申し出
「敬老会ができる」JAA安堵
ニューヨーク日系人会(JAA、佐藤貢司会長)が入居する12階建てビル(西45丁目49番地)で大規模な浸水事故が発生してまもなく3週間。上階のタンクが破損し、大量の水で12階から7階までが水浸しとなり、JAAのある11階全フロアが事務室を除いて今も使えない状態だ。JAAでは来年1月に移転を予定している5階への入居を早めてもらうようビル管理会社と交渉しているほか、保険会社との手続きに追われている。完全ではないが、ホールの一部は10月くらいからは修理して使用が可能になる見込みだが、8月いっぱいの行事予定はすべてキャンセルとなり、9月開催予定のサクラヘルスフェアもすべてオンラインでの開催に切り替えた。日系高齢者に向けて毎月開催しているランチ敬老会も8月は見送った。9月以降の開催は、場所の確保が問題となっている。リースが切れる年末までの会場フル稼働が難しいとみられるからだ。
日系人会の事務局に日系3団体で共に名を連ねる、日本クラブとNY日本商工会議所(JCCI)から、日系人会の活動で必要な場所を提供したいとの申し出があった。8月18日に前田正明事務局長から日系人会に正式に連絡があった。両団体名で正式のお見舞いの言葉と今後の提案として、日本クラブ会館スペースの提供で協力したい旨申し出があり「日頃のJAA活動でスペースが必要で、日本クラブの空いている部屋を予約状況に応じて提供したい」というもの。今月いっぱいは、館内清掃と修理のため閉館しているが、9月以降については予約が可能であることを伝えた。また「その他、当方でできることがあれば、遠慮なくお知らせください」と支援の手を差し伸べた。
JAAの野田美知代事務局長は「本当にありがたいご提案で感謝しています。これで9月の敬老会ができるかもしれない。日系人会のメンバーの人たちも、ホールが閉館しているのを知っていても毎日のように訪ねてきて、中にはお金までおいていく人もいて、こんなに沢山の人たちに心配してもらっているんだと実感しました」と喜んでいる。敬老会についてはニューヨーク日本総領事館とも連携し近く関係団体の担当者が集まり会合を開く予定だ。
また、ジャパン・ソサエティーのジョシュア・ウオーカー理事長も19日夕、野田事務局長とスーザン大沼名誉会長に「この度はNY日系人会のビルが被害に遭われたことを知り、心を痛めています。弊会に何かできることがあればご協力させてください。コミュニティーの場が一日も早く復旧することを祈っています」と支援の準備があることを伝えている。ジャパン・ソサエティーはアメリカの団体だが、日頃日本文化を米国に紹介することを目的に活動しているため、黙って放っては置けないと歩み寄っている。ただ9月は国連総会と重なり、ジャパン・ソサエティーの施設に予約が入っていることもあり、日系人会の行事予定とジャパン・ソサエティーの状況など、両団体の役員を兼務している弁護士の村瀬悟さんが間に入って現在調整している。村瀬さんは「クラウドファンディングを立ち上げて支援を求めるなどすぐアクションをとれればいいが、保険会社との手続きがまず終わらないとそれもできないようだ」と話している。いずれにしても、さまざまな活動を通してニューヨークの日系社会の中心的集会場となっている日系人会のピンチに日系社会各方面から手が差し述べられ「困った時はお互い様」の助け合い精神で声を掛け合っている。NY日系人会館は、今月1日の水漏れで図書室、廊下などの天井板が剥がれ落ちるなどの被害を受けた。事故当時は夜中で人がいなかったため、幸いケガ人はいなかった。またピアノと日系人会の100年の歴史を保管してある資料室のダンポール箱が濡れずに無事だった。電話、インターネットも現在は使える状態に復旧している。
(写真)水漏れで天井が剥がれ落ちた日系人会ホール(今月1日、本紙撮影)
まだまだサマーメニューで食卓に彩りを
プロに聞く、生き生きEATS(イーツ)
元気と美味しいを求めて料理の達人が腕を振るう (28)
今回は、料理家のひでこ・コルトンさんに、夏が終わる前にぜひとも楽しんでいただきたいアペロール・スプリッツと、アペタイザーにグリルした桃とブラータのカップレーゼ、メインは、パスタ(冷製桃とミントクリームのフェッデリーニ)でサマーメニューを作ってもらいました。
ひでこコルトン
COLTONS NEWYORK 代表NY*おもてなし料理家 &
ライフスタイル・エキスパート
オンラインサロン「COLTONS NEWYORK SALON 」運営
米国フジテレビ(料理コーナー5年間レギュラー出演)
著書:「NYのおもてなしレシピ」(講談社)、「ニューヨーク流自分を魅せる力」(WAVE出版)
公式ホームページwww.hidekocotlon.com
今回のレシピ動画はインスタグラム:@hidekocolton
クッキングYou Tubeチャンネルは、
https://www.youtube.com/c/HidekoColton
You Tube アペロール・スプリッツ動画は:https://youtu.be/X-O4W64k_rk
■アペロール・スプリッツ
〈1グラス分〉
ワイングラスにたっぷり氷を入れ、グラスの約1/4程度アペロールを注ぐ。
プロセッコを注ぎ、輪切りしたオレンジを飾って出来上がり。(インスタ動画参照 @hidekocolton )
■桃とミントクリームの冷製フェデリーニ
①白桃は半分に切りタネを取り除き、薄く櫛形に切る。
②ボールに生クリーム、ミント、エクストラバージンオリーブオイル、レモンゼストを入れ良く混ぜ、白桃を加えてよく絡める。(この時桃が柔らかい場合は潰す)
③ ②にプロシュートを加えてさっと混ぜる。
④鍋にたっぷりのお湯を沸かし、海水ぐらいの塩分になるようしっかり塩を入れる。
⑤パスタを入れパッケージ通りの調理時間よりやや早めに取り出し、流水でサッと洗った後、氷水につけてしっかり冷やす。この時氷水にも海水同様の塩気をつけておくのがポイント。
⑥冷えたパスタを桃のソースに入れてよくソースを絡める。
⑦盛皿に入れ上に削ったペッコリーノ・ロマノチーズを振りかけて出来上がり。
材料 <2人分>
白桃 1個
生クリーム 大さじ2
エクストラ・バージン・オリーブオイル 大さじ2
レモンゼスト(皮すりおろし) 小さじ1
ミント 大さじ1(千切り)
プロシュート 2枚(微塵切り)
細いスパゲティー(Fedelini フェデリーニ) 140g
塩 適宜
ペッコリーノ・ロマノチーズ 適宜
■グリルした桃とブラータのカプレーゼ
①桃は縦半分にカットしてタネを取り除き、エクストラバージンオリーブオイルを塗って綺麗な焼き目がつくまでグリルする。
②大きな盛り皿の中央にブラータをのせ、バジルの葉をおきグリルした桃をのせる。
③トップにエクストラ・バージン・オリーブオイル、バルサミコ酢を振りかけて出来上がり。(お好みで塩胡椒を振って味を整える)
材料 <2〜4人分>
黄桃 2個
エクストラ・バージン・オリーブオイル 大さじ2+トッピング 適宜
ブラータ 約4個(大きい場合は1個)
バルサミコ酢 適宜
バジル 約6枚
大林宣彦監督「戦争三部作」を上映
BAMで26日から9月1日まで
ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック(BAM:30 Lafayette Ave.)は26日(金)から9月1日(木)までの1週間、2020年4月に亡くなった大林宣彦監督作品3作を上演する。今回の上映作は戦争をモチーフにした三部作と呼ばれるもの。上映は日本語、英語字幕付き。入場料は一般16ドル、会員8ドル。詳細はウェブサイトhttps://www.bam.org/を参照する。
■「この空の花 長岡花火物語(英題:Casting Blossoms to the Sky)」(2012年公開)1945年の長岡空襲とその後の長岡花火への流れを描いたセミドキュメンタリー映画。空襲で亡くなった人々への追悼の思いから打ち上げられる花火大会を舞台に、04年の中越地震、11年の東日本大震災の追悼の思いも込められた作品=写真上=。
■「花筐(はながたみ)」(17年公開)がんで余命宣告された大林監督が挑んだ、監督生活40周年記念作品。原作は檀一雄の同名短編小説。1941年の春、主人公とその個性的な学友たちは迫り来る戦争の気配のなかで多感な日々を過ごす。戦争三部作の最終章にあたる青春群像劇。佐賀の伝統「唐津くんち」が映画史上初の全面協力しているのも見どころ=写真下=。
■「野のなななのか(英題:Seven Weeks)」(14年公開)北海道芦別市を舞台に、葬儀のために集まった家族の姿と、その家族に関わる終戦の秘話を通じて、3・11以降の日本のあり方を見つめる。「なななのか」とは、生者も死者も彷徨い人となり、生と死の境界線が曖昧な四十九日の期間のこと。
本場の舞台芸術作品で活躍
俳優・プロデューサー
小野 功司さん
ニューヨークでミュージカル俳優、プロデューサーとして活動する小野功司さん。パンデミックもほぼ終わり、演劇業界も活気づいて、ミュージカルや舞台出演が続き、そして新作ミュージカル『えんとつ町のプペル』アシスタントプロデューサーとしてNYでの製作も手がけている。
早稲田大学法学部在学中から並行して演劇学校に通い、数々の舞台を踏んだ。大学卒業後は米国に留学。帰国後、東京ディズニーランドでダンサーとして活動し、その後、ミュージカルの道へ進んだ。2008年から2018年まで劇団四季に11年間在籍し、数々のブロードウエーミュージカルに出演した。また、ファミリーミュージカルを日本全国で公演してまわる「こころの劇場」や全国の小学校に美しい日本語の話し方を伝える「話し方教室」といった劇団の社会貢献活動にも積極的に参加した。
ニューヨークに移住したのは劇団四季退団後の2019年。O1ビザを取得してさあこれからという2020年3月、コロナですべての予定がキャンセルとなって劇場が閉鎖に。一旦一時帰国してプペルの日本公演を成功させて、昨年末にニューヨークに戻った。特にパンデミック後に演劇が復活してきたせいか、今年からは、春からニュージャージー州でピピン、アリゾナ州で芝居に、夏はニューハンプシャー州で「王様と私」のダンサー役に出演するなど引っ張りだこに近い大忙しだ。これまでライオンキング、 ウエストサイドストーリー、コーラスライン、クレイジーフォーユー、 エビータ、ピピン、キング& アイ(王様と私)、 人間になりたがった猫、ガンバの大冒険など日米で多数踏んできた舞台経験が、今米国で求められているのをひしひしと感じるという。米国には若い日本人俳優はいるが、なかなか大人に見える日本人の役者ですぐに舞台に立てるポジションの人材が少ないのも奏功しているようだ。
小学校の時に、父親に市民会館で上演された芝居をよく見に連れて行ってもらった。「アンネの日記」の舞台が印象的で「とても怖かったけど、舞台の上に別世界が広がる演劇というものにすっかり魅了された」のが俳優を目指すきっかけとなったそうだ。来年開幕を予定している米国の新作芝居で、世界貿易センタービルを設計した日系二世の建築家、ミノル・ヤマザキを演じる。タイトルは父親と同じ名前の「ミノル」だ。「今の自分があるのは父親のおかげ。ありがとうという言葉と、感謝しかないです」と言う。大学卒業後に弁護士ではなくダンサーの道に進んだ時も両親は反対しなかったそうだ。
将来は「日本のミュージカル界とブロードウエーの距離をもっともっと近づけたい、日本のミュージカル俳優が普通にブロードウエーの舞台で活躍できる環境を整えたいと願っている」。「自分自身では渡米する前に英語を万全に鍛えてきたつもりだったが、NYの演劇学校に来てみたら全く歯が立たなくてとても苦労した。後から続く若者にはそんな思いはしてもらいたくない」とも語る。「思った以上に日本人の英語の発音は聞き取れないらしい。母音、子音の発音、声を腹からではなくて顔から出すということも知った。まだまだこれからが挑戦ですね」と少し遠くを見るような表情を見せた。(三浦良一記者、写真も)
自分でエンジンかける力を
ビリギャルのモデルだった
小林さやかさん
小林さやかさん(34)は、坪田信貴著のノンフィクション『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称・ビリギャル、2013年KADOKAWA刊)の主人公となった人物だ。本は、日本で120万部のベストセラーとなり、2015年には土井裕泰監督、有村架純主演で『映画 ビリギャル』が公開され280万人が見る大ヒットとなり社会現象になった。これまでに講演を日本国内で500回以上、本が出版されて7、8年経ったコロナ直前でも年間120回もの講演をしていた。
この9月からニューヨークのコロンビア大学教育大学院に2年間留学するため先月来米した。米国生活をスタートしてまだ1か月。現在は、語学クラスを履修中だが、とにかくニューヨークで見るもの接するもの何もかもが新鮮な感動で溢れているという。語学クラスで知り合った学生たちとも仲良くなって毎日、日記に書くことがいっぱいだそうだ。
愛知県名古屋市で高校2年だった夏、母の勧めで塾の面談へ赴いて坪田信貴氏と出会い、慶應義塾大学に現役合格を志した。坪田氏の懇切丁寧な指導で猛勉強に励んで1年半で偏差値が40上昇した結果、第一志望の慶應義塾大学文学部と上智大学には不合格だったものの、慶應義塾大学総合政策学部・関西学院大学・明治大学への現役合格を果たした。
本が出版されたのは、大学卒業後、冠婚葬祭会社でウェディングプランナーとして勤めていた時だった。「勇気づけられて頑張れた」という感謝の声があった一方、「もともと頭が良かったんですよね」や「自分にはできない」という自己肯定感の少ない人からの声も多かった。500回も講演しているうちに「私が講演して回るだけでは何も変わらないのかもしれない」との不安が募った。
2019年3月、初の著書『キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語』(マガジンハウス)を出版。日本全国からの講演依頼は続いた。
2021年3月、聖心女子大学大学院文学研究科人間科学専攻教育研究領域博士前期課程修了した。「昔の私がなぜ、頑張れたのか」を科学的に証明するため「学習科学」という分野の研究をする心理学のゼミで学んだ。その結果、勉強の頑張りは、遺伝だけではなく「学習環境が大事」だということが分かった。
「聖徳太子」を「せいとく・たこ」と読み、日本地図を描いてみてと先生に言われて「まる」を描いた高校2年の時の小林さんを慶應に向かわせたのはいったい何だったのか。
坪田氏から「東大行く?」と聞かれ「イケメンのいる大学がいい」「なら慶應ボーイのいる慶應か」「わあ、めっちゃウケる。櫻井翔くんのいる慶應!」。それが小林さんのエンジンのスイッチが入った瞬間だった。「動機は不純と怒る人はいるかもしれないけど、それでいいと思う。自分にエンジンがかかったんだから。好きな人と同じ大学行きたいとか、なんでもいいんです。子供を自動車に例えると、エンジンがかからない車を親が後ろから力ずくで押しているような光景を数多く見てきましたからね」。
では子供が自分でエンジンをかけることができるために、親ができることはなんですかと聞くと「子供と対話すること。押し付けとか命令ではなくて、子供が「僕はこう思う、私はこう思う、なぜならこうだから」と言える環境が一番大事です」とキッパリ答えが返ってきた。「私が頑張れたのは、自分でエンジンをかけられたこと、いいコーチの坪田先生がいたこと、サポートしてくれる家族がいたからです」と話した。(三浦良一記者、写真も)
忠実な車掌
ニューヨークの魔法 30
岡田光世
検札にやってきた車掌は、乗客から切符を受け取ると、じっと眺め、すぐに突き返した。
私はロングアイランドのグレートネックに行くために、ペンシルベニア駅から列車に乗っていた。
その乗客は、私の前の窓際の座席にすわっていた。Tシャツにジーパン姿の四十代くらいの白人男性だった。
That ticket is expired. It’s no good.
そのチケットは期限が切れているだろ。もう使えない。
No good?
使えないだって?
No, it’s expired.
だめだ、期限が切れている。
乗客はあ然とする。
I can’t take it.
私は受け取れない。
車掌はきっぱりと言う。
乗客はどうしていいかわからない。
I can’t take it. I can’t take it.
私は受け取れない。私は受け取れないよ。
同じことを繰り返されても、乗客は納得できない。
Then can I get a refund?
じゃあ、払い戻してもらえるかな。
No.
だめだ。
乗客は途方に暮れる。
No. Try it next time.
だめだ。次のときにやってみな。
乗客は首を傾げる。いったい、どういうことだ?
Give it to the next conductor. Maybe he won’t notice.
次の車掌に渡すんだ。気づかないかもしれないだろ。
なるほど。そういうことか。
Understand?
理解できたか。
Yes.
ああ。
乗客は声をひそめてそう言うと、穏やかに運賃を支払った。
とりあえず車掌は、その場をうまく収めたというわけか。
このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第6弾『ニューヨークの魔法をさがし
て』に収録されています。