眉毛と唇を美しく綺麗にアートメイク

アートメイク・アーティスト

田中 里沙さん

 幼い頃から絵を描くのが好きだった。絵を描く才能が豊かな父親の絵を見ては自分も父のように上手に描きたいと練習するものの上手には描けず落書きばかりしていた女の子だった。ただその落書きは常に眉毛だったり目だったり唇だったり何故かいつも決まっていた。父のパステルで自分の顔に塗ってお化粧ごっこをして遊んだりもしていた。

 まさか、自分が後年、職業としてアメリカで、眉毛や唇の輪郭を際立たせるアートメイクの仕事に携わるとは当時は想像だにしていなかった。

 高校を卒業して広島の美容専門学校に通う。入学するにあたってメイク科と美容科を選択しなければならず、メイク科に行きたい気持ちはあったが、美容師免許取得した方がのちに自分にとって良いと思い美容科を選択。卒業後はヘアーメイク事務所に入社し、ブライダル、雑誌、テレビ関係の仕事でヘアーメイクを学んだが、2008年に来米、出産を経験、子育てをしながらももう一度美容の仕事をしたいと思ったが、当時住んでいた場所は田舎でヘアーメイクの仕事はなかったため美容師として髪の毛を切る仕事をすることに。それからは美容師として活動するもののいつも何かやりたいなと模索していた頃、インスタグラムで綺麗な唇の写真が目に入ってきて「私がやりたいのはこれだ」と直感した。それは、唇に傷を負って変形した形の上からアートメイクで綺麗なリップグロスを塗っているかのように施術した写真だった。2022年冬にノースカロライナからニュージャージーに引っ越してくるなりすぐタトゥーライセンスを取り、現役で活動しているアーティストの下でパウダーブローとリップブラシのコースを修了後、証明書を取得。現在はアートメイクアーティストとして少しずつだが活動を始めている。アートメイクは、タトゥーと違って2~3年ほどで薄くなってくるので、デザインが気に入らない時や変更したい時に、修正を行うことができる。

「大事な顔に施術をさせて頂くので、お客様の求めている『綺麗』を表現できるよう日々の勉強と練習を重ね腕を磨いていきたいですね。ただ施術をするだけではなく一人一人のご縁を大切にこのニューヨークで楽しくできたらなと思います」と話す。広島県出身。ニュージャージー州で家族と4人暮らし。

 (三浦良一記者、写真も)

編集後記 5_18

【編集後記】

  みなさん、こんにちは。ボーイスカウト米国連盟が今月7日、活動のより包括的な環境作りを目指し、組織名を公式に「スカウティング・アメリカ」に変更すると発表しました(本紙4面に記事)。ボーイスカウトは1908年に英国ロンドンで軍人のロード・ベーデン・パウエル卿が創設した青少年団体で、米国連盟は1910年に創設されています。日本では1935年(昭和10年)に日本連盟が創設されています。テキサス州を拠点とする創立114年の米国連盟は、8万2000人以上が受けたという性的虐待の訴訟が相次ぎ会員数が減少、2020年に連邦破産法で24億ドルの再建計画適用を申請しました。1972年には全米で約500万人に達した登録者数は、2018年は200万人強、現在は100万人強まで減って衰退してきています。一方で、男子のみだった活動対象を2013年には同性愛者のスカウト、15年には同性愛者の成人指導者、17年以降は女子にも広げるなど、多様性を考慮した組織移行に取り組んでいるようです。最高ランクのイーグルスカウトにはこれまで6000人以上の女子が登録され、現在の女子会員数は17万6000人以上と会員の10%以上を占めています。野外活動を通して健全な精神と体の青少年を育成するという活動は、4年に一度の世界ジャンボリーというキャンプが世界で巡回開催され、アウトドア活動を体験できる団体組織です。私も小学校4年生から高校を卒業するまで、地元の北海道北見第一団少年隊・年長隊に所属して、毎年夏のキャンプが楽しくて仕方がありませんでした。高校2年生の時には、オーストラリアのアデレイドで開催された第10回オーストラリアジャンボリー(1973年~74年=南半球なので年末が夏)の日本派遣団18人の一員として参加したことがあります。兄弟のいなかった私にとっては、3歳から4歳上の年長者達の言動、行動がとても新鮮で今の私の少なからずの人格形成にも影響を与えていると思います。ガールスカウトがあるのになんで、女の子がわざわざボーイスカウトに入るの?と以前は不思議に思いました。まあ、もともと女子校だった母校の青山学院も早くから男女共学になってますし、ボーイスカウトだけが男子オンリーでなくなるのも時代の趨勢かとも思いますが、名称がボーイスカウトでなくなることはちょっと寂しいですね。まあ、なんでもラディカルなアメリカならではのことで、伝統を重んじる英国や日本では、名称までが代わることは多分ないでしょう。それでは、みなさんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)

【今週の紙面の主なニュース】(2024年5月18日号)

(1)ジャパンパレードに5万人 日系99団体2500人行進

(2)あの日の散歩道 ニューヨークの魔法

(3)ブレイクスルーアート展 トライベッカで始まる

(4)NY山口県人会 伊藤市長迎え懇親会

(5)映画「ヒロシマへの誓い」PBSで26日放送

(6)夢を叶える時間術   篠原さんがタイムマネジメント講座

(7)真珠の芸術展21日から  上村栄司氏が来米講演

(8)Z世代のダンサー、ただいまNYで奮闘模索中 宮口えりかさん

(9)膨大な量の有効な努力こそ 田村麻子のカーテンコール⑤

(10)織晴美の何気ない日常的瞬間  ナウヒア画廊で開催

ジャパンパレード

 NY観客5万人! 99団体2500人行進

セントラルパークウエスト

  第3回「ジャパンパレード」が11日、セントラルパークウエストを会場に開催された。81丁目から67丁目まで当日は日系団体や県人会、同好サークル、スポーツ団体など99ユニット、2500人がパレードに参加し、5万人が楽しんだ。

 今年のパレードのグランドマーシャルを務めた元車いすテニス選手の国枝慎吾氏が沿道の市民に手を振り、ショーグンの衣装に身を包んだニューヨーク総領事の森美樹夫大使がオープンカーから市民の声援に応えた。

鬼滅の刃参上

 今年は日本からのスペシャルゲストとして、『舞台「鬼滅の刃」』のキャストが午後2時半過ぎにメインスタンド前に到着すると日米市民、子供も大人も写真を撮影しながらパフォーマンスに見入って大喝采となった。当日は、舞台版のキャストから竈門炭治郎(阪本 奨悟)、嘴平伊之助(佐藤 祐吾)、煉獄杏寿郎 (矢崎 広)、胡蝶しのぶ(門山 葉子)が演技した。NY披露初となる本人たちも「ニューヨークの熱気を肌で感じた」と感想を語った。

山口市が日本文化PR

NYタイムズ報道で人気急上昇

 今年1月にニューヨーク・タイムズ紙で2024年に訪れるべき52都市に選ばれた山口市もフロートを出して行進。瑠璃光寺五重塔や山口七夕ちょうちん祭りなどがデザインされたフロートに、祇園囃子保存会のメンバー10人が乗り込み、太鼓、笛、鉦(しょう)の三つの楽器で「日和神楽」「立田」「月」の3曲を奏でた。伊藤和貴山口市長、大庭達敏山口観光コンベンション協会理事長、湯田温泉マスコットキャラクター・ゆう子も乗車。ニューヨーク山口県人会のメンバーも、フロートに合わせて歩いた。また、ストリートフェアにも山口市ブースを出店、鉢巻を求めるニューヨーカーたちで長い行列ができた。

 伊藤山口市長は「日本の自治体が単独でジャパンパレードに参加するのは初めてと聞いている。応仁の乱で京都の文化をそのまま移したのが山口という歴史から日本文化の伝統を祭りという形で紹介した。ニューヨーク・タイムズ本社も訪問して、観光専門の編集者たちと面会し、社内でもかなりシビアな競争の中から52の都市を選んでいることを聞いた。私からは、これからもどうぞよろしくお願いしますと頼むのと同時に日本の地方都市、中小都市への眼差しを持ち続けて欲しいと気持ちを伝えた。NYタイムズ紙の報道以降、旅行関係者に話を聞くと宿泊はかなり手応えがあり、従来の東アジアからの観光客に加え、欧米豪からの観光客が増えていると聞く。これからも和のテイストをしっかり海外に発信していきたい」と話した。

 また今年はUSジャパン・ツーリズム2024年PRの一環としてダースベイダーやレイア姫など映画「スターウォーズ」のキャラクターを乗せたフロートも登場した。

 ジャパンパレードは日米交流、NYへの感謝、日系社会の連帯強化を目的に開催され、パレードのほかに今年もジャパンフェスの協力を得て、日本のお祭り屋台の食べ物など20あまりのテントがストリートフェアとして72丁目のセントラルパークウエストとコロンバスアベニューの間に登場したほか、日本文化紹介の書道や折り紙、ハローキティとの記念写真撮影、能登半島地震被災地支援の寄付募金活動をするテントも参加した。

 オープニング式典でパレードを主催する山口幸一ジャパンデーインク会長は「天気のことがずっと心配でならず、私は昨晩ジャパニーズメソッドを使った」と胸からてるてる坊主を出すと会場に大きな笑いと拍手が起こった。「晴天にも恵まれ、ニューヨークの皆さんに日頃の感謝の気持ちをお見せでき、また日本の文化・食事をご紹介出来て本当に良かったです。今年は日米観光交流年でもあり、JNTOさんのみならず山口市にもご参加いただき、従来以上に日本のご紹介ができた事を嬉しく思っています」と挨拶した。式典ではアダムス・ニューヨーク市長、ホウクル・ニューヨーク州知事、州議会から感謝状が山口会長に贈られた。

 開会式では今年のパレードのメイン・アート・イメージとなるアートコンテストで優勝したブルックリン在住の田原沙織さんに全日空から日米往復航空券2枚が贈呈された。

 森大使は「沿道から『ショーグン!』と多く声をかけられました。テレビミニシリーズとして米国で放映された『将軍』は今年のアメリカにおけるトピックだということで、この衣装を選んだ。気持ちが引き締まるというか、皆の先頭に立っているという意識が生まれる元気の出る衣装ですね。今年は、従来の日本好きの人だけでなく、裾野が広がって多様性のあるパレードになった。NYへの感謝、日本文化紹介、アジア、太平洋諸国と日本が一体となってアメリカの中で生活しているという連帯意識の向上など、日本人、日系人の皆さんにこれからも応援の力を貸していただきたい」と語った。

 鬼滅の刃の皆さんは「鬼滅の刃はもちろん日本で人気の作品ですが、今回のパレードでニューヨーク市民の熱気を肌で感じました。老若男女問わず幅広い人たちが楽しんでいると思いました。アメリカでの人気の理由は、作品の中に、『前を見て生きていけ』というメッセージが強く詰まっているので『諦めるな』という『頑張って行こう』という気持ちが人の心に刺さっているのではないか。沿道からもすごい応援の声が聞こえて盛り上がってくれてありがとう。アニメが原作の2・5次元の作品が、今回の一歩が大きな一歩に繋がり、いつかブロードウエー作品の一員になれるよう、これからも私たちも頑張って行くので、皆さん応援してください。日本に帰ってきた時はぜひ舞台を見にいらしてください」と話した。大会事務局は、土曜日に登校している補習授業校児童が鬼滅の刃を見られるよう出発時刻を午後2時20分に遅らせていた。

ジャパンパレード2024

99団体2500人が行進

 2024年ジャパンパレード参加団体は次の通り。

 NYPD騎馬警官、NYPDカラーガード、NYPDエイジアン・ジェード・ソサエティー、NYPDマーチングバンド、グランドマーシャル国枝慎吾、国旗(日本)ハンター大学日本語・日本文化学科、国旗(日本)石川県人会、国旗(米国)あおぞらコミュニティ基金、NY日本総領事館、NY市長と市機関、ハリソン市消防署、日系アメリカ人退役軍人協会、米陸軍士官学校 日本フォーラムクラブ、紐育太鼓愛好会、寒川神社、寒川神社神輿、ニュージャージー日本人学校、森美樹夫総領事、大使、NY総領事館、NY総領事館&フレンズ、国際交流基金NY日本文化センター、日本航空(フロート)、NY廣武館剣道、パークスロープロール、民舞座・NY花笠会、チェアマン、ジャパンデーインク、山口幸一専務執行役員米州総支配人、双日株式会社、双日株式会社、双日株式会社(フロート)、僧太鼓、誠道塾、NY市剣道クラブ、米国日本人医師会、丸紅アメリカ(フロート)、伊藤さちよ舞踊団、NY群馬県人会、剣禅道場、ヒサミツ・アメリカ・インク(フロート)、NY日系人会、NY日系ライオンズクラブ、紅玉よさこい、三菱住友信託銀行、鼓舞、コーリション・オブ・パシフィック・アメリカンズ、NY京都倶楽部、NY日本商工会議所、JCCファンド、日本クラブ、NY日本人美術家協会、サライカ・ムーブメント・コレクティブ、三井物産(フロート)、国際空手道連盟・極真会館、美和鼓、NY広島会&NY愛知県人会、ジャパンビレッジ神輿、ロングアイランド・ジャパニーズ・カルチャーセンター、ジャパン・パフォーミング・インク、森の家、慶應義塾NY学院、白虎館Dojo、NYCエリア柔道コミュニティ、東京海上アメリカ(フロート)、天手古舞、華鎖波、高知よさこいアンバサダー絆国際チーム合同よさこいチーム、早稲田大学NY稲門会、ミルクビンクのメイドカフェ、ブルックリン日本語学園、ハローキティ、江州音頭チーム、東京ブロンクスACG、公立学校147日本文化プログラム、ジャパンパレード公式フロート、『舞台「鬼滅の刃」』+着ぐるみ、ニューヨーク大学日本語プログラム、ブックエンド トゥータリング、LGBT+JAPAN、伊藤忠インターナショナル(フロート)、ハーレム・ジャパニーズ・ゴスペル・クワイヤー、ニューヨーク・ロリータ、日米ソーシャルサービス、NY奄美会、野村アメリカファンデーション、野村アメリカファンデーション(フロート)、太鼓マサラ道場、NY茨城県人会、NY茨城県人会神輿、アニメNYC、全日空(フロート)、日本空手協会NY道場、ミュージック・フォー・SDGs、国旗(米国)NY和歌山県人会、国旗(日本)米国北東部日本語教師会、山口県人会、山口市(フロート)、パセイックカウンティー・テクニカルインスティチュート、NYCJファッション、上智大学ソフィア会、ジャパンソサエティー、日本政府観光局(フロート)、ニューヨーク・ダンスアーティストリー・ハリヤマバレエ、ニューヨーク・ニュージャージー弓道会、アメリカン・ブディスト・スタディ・センター、住友商事アメリカ(フロート)、小倉直也バンド、日米合同教会、ジャザーサイズ・スカースデール、NY剣心会、明治大学学友会NY支部紫紺会、トリプルディダンスアンリミテッド、東京フロストバレーYMCAパートナーシップ、NYデ・ボランティア。   (行進順)

あの日の散歩道 ニューヨークの魔法

 今朝も空は真っ青で、ハドソン川の川面には太陽の光が反射し、輝いている。ヨットがゆったりと行き来する。

 こんな気持ちのよい日に、部屋で執筆? 神様がくれた最高のプレゼントではないか。

 そうだ、フェリーに乗ろう。

 ガバナーズ島に行かないかと友人夫婦に誘われたが、仕事があると断った。確か、十時発のフェリーに乗ると言っていた。運がよければ、会えるかもしれない。

 ガバナーズ島は、マンハッタン島南端のサウスフェリーからフェリーで五分ほどのところにある。ニューヨークがオランダ領からイギリス領になり、ガバナーズ島(英国植民地の総督の島)と呼ばれるようになった。独立戦争以降は、砦や基地の役割を果たしてきたが、今は夏の間、教育や遊びの場として市民に開放されている。 

 急いでアパートを飛び出し、走った。フェリー乗り場は、ワールドファイナンシャルセンターとは反対側の方角にある。

 近くのカフェでは、外のテーブルにすわって、三十代ほどの女性がひとり、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。すみませんが、と声をかけ、サウスフェリーはここから歩ける距離かしら、と尋ねた。

 十分くらいよ。でも、今日は天気がいいから、ちょっと時間はかかるけど、もっと景色のいい道順はどう?

  女性が聞き返す。

  It’s a nice walk.

  歩いたら、気持ちいいわよ。

 いえ、早く行ける道順を教えて。遅れそうなの。

 あら。じゃあ、最短距離がいいの?

 そう言って、女性が笑った。

 そういえば昨日も、見知らぬ人に道を尋ねると、同じことを言われた。

 ずいぶん急いでいるみたいだね。ちょっと遠回りでよければ、気持ちのいい行き方があるよ。こんなに、すがすがしい日なんだから。

  It’s a nice walk.

  歩いたら、気持ちいいよ。

 そう言われて、これからはもう少しゆとりを持って、早めに家を出ようと思ったばかりだった。いずれにしても、歩く道。景色を楽しみながら、散策できるほうが、何倍も楽しいではないか。

 やっぱり、気が変わったわ。景色のいい道順を教えて。

 私がそう言うと、女性は笑った。

  There you go.

  そうでなくっちゃ。

 十時のフェリーに乗り遅れたら、次に来たのに、乗ればいい。

 右手にハドソン川を眺めながら、川沿いの遊歩道を歩いていく。マンハッタンと、ニュージャージー州やスタテン島を結ぶ通勤用のフェリーが、ゆったりと行き交う。右手の海に、自由の女神が立っている。海を眺めながら、女神に近づいていく。

 このあたりは、きれいですね。

 数日前に出会った車椅子の男性に、私がそう声をかけると、彼は答えた。

 そうだね、今は。でも、同時多発テロ事件のときは、地獄だった。

 二〇〇一年九月十一日のあの朝、高層ビルの窓から人々が身を投げた。地面に肉片が散らばった。コンクリートの破片や粉塵、窓から飛び散る書類が舞うなか、ビルや飛行機の残骸を避け、絶叫しながら、多くの人が川辺まで逃げ切った。

 いざというときには、川に飛び込む覚悟を決め、柵を越えて川の目の前に立ち並んでいた。私の友人も、川辺まで走り抜け、途方に暮れていた。やがて訪れたフェリーで、ニュージャージー州に逃れた。

 厳しい船の旅の果てに、ようやくアメリカにたどり着いた人々を、女神は迎え入れてきた。その女神のすぐそばで、二棟のマンハッタンの象徴は、沈むように崩れ落ちた。

 ニューヨークの人たちは大きな心の傷を負い、この界隈から遠ざかっていった。

 今、その川辺にはピンクと白のハマナスの花が咲き乱れ、ボランティアの人たちがしゃがんで手入れをしている。老若男女がジョギングしている。五、六歳の男の子がふたり、追いかけっこをしている。そんな風景を、ひとつひとつ記憶にとどめるように、私はゆっくりと川沿いを歩いていく。

 このエッセイは、「ニューヨークの魔法」シリーズ第4弾『ニューヨークの魔法のさんぽ』に収録されています。

ブレイクスルーアート展、トライベッカで始まる

 トライベッカ地区にあるワン・アート・スペース・ギャラリー(ワレン通り23番地)で、5月8日から2会期に分けて期間限定のグループ展「ブレイクスルー」が開催されている。

 「始めなければ、始まらない。」をテーマに、日本で活躍する計38人の新進気鋭のアーティストたちの作品が集結。青のペンのみを使用して緻密に幻想的な作品を描き上げるAoi Hanane氏、日本のカルチャーを象徴するような遊び心がありつつも調和のとれたミクストメディア作品を生み出すEMI・KIBAYASHI氏、アートを通して身体的なコンプレックスの昇華を目指すAkie Abe氏など、独自のアプロ—チを開拓していく現代日本作家たちの作品が展示される。

 第1会期は5月8日から12日まで開催され、レセプションパーティーが9日午後6時から開かれた。当日は日本から来米した2人の作家、YUKIKOの作品「愛と平和」とHIKARUの作品「ストリート。グラビティー」に注目が集まった。YUKIKOは流木と越前和紙に円相を般若心経といろはにほへとで描き「隔てのない愛」を表現。HIKARUは、立ち上がる時のエネルギーを表現した作品で独特の力強さを感じさせ、この作品が今月フランスで開催されたアートパズル展でグランプリを獲得、ドバイのアート展でも話題となるなど海外で高い評価を受けている新人。今月東京でも個展が開催される。第二期の参加アーティスに夜ライブペイントイベント(書道・足跡ペイント)は18日(土)午後6時から。入場無料。開廊時間は正午から午後6時。詳細はhttps://www.eventbrite.com/e/breakthrough-new-and-rising-japanese-artists–tickets-782085056457

NY山口県人会、伊藤市長迎え懇親会

 ニューヨーク山口県人会(沼田忍代表世話人)はジャパンパレード前日の10日夜、山口市と合同で懇親会をニューヨーク日系人会で開催した。当日は山口祇園囃子保存会10人を含む訪米団19人と合わせて50人あまりが参加して、パレードで演奏する日和神楽を楽しんだり、獺祭の日本酒を飲んだりして歓談した。同時間帯にニューヨーク日本総領事の森美樹夫大使の夕食会に招かれていた伊藤和貴市長も大使との夕食会後、懇親会の終盤に会場へ駆けつけ、県民を驚かせて大歓迎を受けた。

 また会場では、来米した山口祇園囃子保存会の代表で山口県神社庁の真庭宗雄庁長が、当日偶然に、小学校時代の同級生だったNY山口県人会のメンバー、サベッジ福田純子さん(70)と60年ぶりに再会するという感動の一場面もあった。

 山口市は、今年1月にニューヨーク・タイムズ紙の「2024年に行くべき52か所」の一つに選ばれたことを受け、ニューヨーク総領事館から自治体国際化協会を通じてパレード参加を要請されていた。パレード当日は伊藤市長ら市職員、山口観光コンベンション協会、湯田温泉旅館協同組合、そして山口祇園囃子保存会のメンバー総勢19人がフロートに乗って行進、県人会のメンバーも一緒に歩いて山口市をPRした。 (20面に記事と写真)

サーロー節子の不屈の反核人生描く映画「ヒロシマへの誓い」

PBSで26日放送
動画での視聴も可能

 米公共放送(PBS) は5月31日(金)まで、カナダ在住の元被爆者で反核運動のパイオニア、サーロー節子さん(85)の人生を、被爆二世で同映画のプロデューサーである竹内道さんとの出会いと友情を通して描いた2019年製作のドキュメンタリー映画「ヒロシマへの誓い(The Vow From Hiroshima)」」をテレビ用に再編集(56分)して放送している。時間は州や地域によって異なるが、ニューヨーク市を含めた多くの都市では、メモリアルデーウィークエンドに当たる26日(日)午後7時から放送。また、PBS.org および同アプリを通じてビデオ・オン・デマンド(VOD)/ストリーミングでも視聴できる。 

 サーロー節子さんは13歳で被爆、奇跡的に生き残ったが家族と広島女子学院の同級生の多くを失った。以降、カナダや米国、英国、日本で被爆体験を公に語ることで核兵器廃絶を訴えてきた。2017年のノーベル平和賞授賞式での感動的な受賞スピーチは同映画のクライマックスだ。監督は、エミー賞や全米監督協会賞を受賞したベテラン映像作家のスーザン・ストリックラー。日本映画平和賞を受賞。

 全米でテレビ放送する目的について竹内さんは「今年のアカデミー賞を総なめにした『オッペンハイマー』では、核放射性降下物が人間や環境にどれほど壊滅的な影響を与えるかについてほとんど触れていなかった。(テレビ放送で)より多くの米国人に知ってもらうことにより、核廃絶と平和交渉の重要性について意味のある会話のきっかけとなれば。まだこの作品を観ていない日本の方々もぜひ」と話している。詳細はwww.thevowfromhiroshima.com から。

真珠の芸術展、上村栄司氏が来米

ギャラリーMAXニューヨークで21日から

 パールアート作家、上村栄司(うえむら・えいじ)の展示会「真珠の芸術」が 5月21日(火)から25日(土)までソーホーのギャラリー・マックス・ニューヨーク(ブロードウエー552番地4階、401号、電話212・925・7017)で開催される。ニューヨークでは2年ぶり8回目の開催。

 上村は、 三重県南伊勢で祖父の代から真珠養殖を営む3代目で、真珠に限りない愛情を注ぎ制作に取り組んでいるユニークなパールアート作家だ。

 身に着けるジュエリーだけでなく、身に着けない時間もアートとして楽しめるパール作品を次々に発表している。

 上村は「 真珠は生物が作り出す唯一無二の宝石。 私はその真珠を世界に一つだけのアートとして楽しんでもらいたい。 特別の日だけでなく、遊び心のある、日常に溶け込むようなパール作品を作りたい。ふとした一人の時間に絵画のように眺めたり、家族や友人との楽しい時間を演出したり。 そして出かける時には相棒のように連れ出して色々な場所で自身を輝かせる。そんなことをイメージしながら、毎日真珠と共に人生を歩んでいる」と話す。

 オープニングレセプションは5月21日(火) 午後6時から8時まで。アーティストトークは午後6時30分から7時まで。 5月21日を除く展示期間中、事前に予約すれば、上村氏に個別に応対案内してもらえる。予約はEメールmfuji@gallerymaxny.com 藤島さん。定員になり次第締め切り


Gallery Max New York (4階)

入場無料

552 Broadway (bet.Prince and Spring Street/ Intercom#9)

Room 401 New York, NY 10012

Tel.212-925-7017 Cell.917-704-1743

E-mail: mfuji@gallerymaxny.com

夢を叶える時間術

篠原さんがタイムマネジメント講座

JAAヘルスフェア

 ニューヨーク日系人会(JAA)主催第16回春のヘルスフェアで、NY日系ライオンズクラブが企画したプログラム「ライオンズ大学:大人の教養講座シリーズ」第8弾がYouTubeで公開されている。各講師30分程度の凝縮セミナー。期間中何度でも自由に視聴できる。第3回目の今週号では篠原丈司氏(タイムマネジメント講師)が「タイムマネジメント講座 夢を叶える時間術」を解説している。

 篠原さんは、大分県出身で、1992年に三越に入社。2009年に社会保険労務士篠原事務所設立。22年には子供向けのタイムマネジメントを普及する協会も設立するなど、時間術を社会に広げる活動を通して 日本の働き方改革の企業支援を行っている。

 篠原さんは「働くことが幸せにつながるためにはタイムマネジメントが必要なスキルとなる」と話す。1日の時間8万6400秒をお金に例えて、何に使うかをイメージさせてタイムマネジメント=時間術の定義を「本当に大切なことに有限の時間をなるべく多く使う技術だ」と述べた。第1フェーズに「時間の使い道」、第2フェーズの「時間の作り方」を説明した。幸せな人生の実現は「目標達成」+「効率化」で成し得るとし、それにより無駄な残業の削減、生産性の向上、業務改善能力の向上、夢の実現、決断力の向上、良い行動の習慣化、ストレス減少、自己肯定感の向上が望めるなどと話した。「夢」を考える上で大切なことは「現在の延長戦では考えないこと」「全てがうまくいったら」「自分自身が幸せな状態」をイメージする。夢の実現に必要な3要素は(1)夢の解像度を上げる(2)視野を広げる(3)段取りが大切。物事には重要で緊急なこと(例:トラブル対応)、重要でそれほど緊急でないこと(準備や計画)、緊急だがそれほど重要でないこと(お付き合い)、緊急でも重要でもないこと(消費)がある。緊急のことばかりに追われていると、重要だが急がないこと(準備)が疎かになる。その部分を確保することが大切だ。時間の使い方に優先順位をつけて自由な時間=可処分時間を作り出すこと。意識して時間を有効活用することが幸せに結びつく自由な時間を作ることができる、などと解説した。動画はURLにて公開中。https://youtu.be/SOAFr-G_2Us

Z世代のダンサー、ただいまNYで奮闘模索中

ダンサー、俳優

宮口 えりかさん

 日本で活躍していた芸術家やタレント、俳優が、自分の人生の新たな可能性に賭けて新天地を求め、ニューヨークで日々闘っている。そんな日本の若者たちが多い。日本で暮らしていれば自分の進みたい道で仕事や生活が約束されていたものをわざわざ捨ててまでなぜ彼らは来るのか。福井県出身のダンサーで、フロリダで開催されたNDAナショナルチャンピオンシップ全米第一位、日本国内でも全日本チアダンス選手権大会で全国一位を何度も獲得した宮口えりかさん(27)もその一人だ。日本女子体育大学在学中から株式会社オリエンタルランドが経営する東京ディスニーシーのダンサーとして、クリスタル・ウィッシュジャーニー、ヴィランズ・ワールド、パーフェクト・クリスマスなど多くの作品に出演し、2018年度TBSドラマやミュージックショーなどに出演するなど俳優としても活躍、モデルとしてもドコモ Ahamo 広告、読売ジャイアンツグッズのイメージモデルなどに採用され活躍していた。

 そんな宮口さんが、2019年、一人でアメリカ旅行に来て、NYのタイムズスクエアに立った時に「自分はNYに呼ばれている。なんて今までの自分は小さい存在だったのか。ここで踊りたい」という想いが胸を打った。「今の自分を変えるのは今しかないのではないか」そんな思いにかられながら大学を卒業後、パンデミックが落ち着いた2022年9月にようやくニューヨークに来ることができた。

 現在はコンピューターアート関係の学校に籍を置きながら、ブロードウエーダンスセンターとステップス・オン・ブロードウエーの2つのメジャーダンス・スタジオをかけもちで週に3日から4日のレッスンに明け暮れる毎日だ。周りのレッスン生たちがオーディションの体験などを話して情報交換する姿に日々刺激を受けながらも、学生というステイタスから一日も早く脱却して人前で踊る生活をこのニューヨークで実現させるため葛藤する毎日でもある。「ここに来る前は、私はなんだってできる、そう思ってました。ですが現実は、この思っていたこととは真逆で、オーディションすら受けることができない。事務所に履歴書を送るにも、まずステータスを聞かれる。結果、何もできない自分の存在が悔しくて仕方がない。自分はなんのためにニューヨークに来たのかと失意に苛まれることも少なくなかった。そんな時に自分を支えたのが高校時代の部活の顧問の言葉。「やってやれないことはない、やらずにできるわけがない」だ。今でもこの言葉を忘れることはない。まだ、ニューヨークで有償で踊ったりすることは立場上できないが、ニューヨークでは数多くの無料公演やステージ公演の機会があることも知った。踊り続けることで自分の道が開けていく。そう自分を一番に信じて様々なチャンスに挑んでいくつもりだ。日本での栄光を捨て、海外で白紙のまったくのスクラッチビルドからキャリアを作り出す、本人には試練な話だが、そんなZ世代の若者のライブ現在進行形のNY生活の姿は、閉塞感に覆われている現代の日本の若者たちに一縷の希みと勇気を与えそうだ。

 (三浦良一記者、写真も)

膨大な量の有効な努力こそ

 米国の大学では、5月に卒業式が行われる事が多く、私がNYで大学院に在籍していた頃もやはりそうでした。卒業式前に何度も事務局から式への出欠を尋ねられ訝しげに思っていた所、なんと式当日に声楽学科のトップは私だと発表され、壇上でまさかの表彰を受ける事に。しつこい出欠確認の理由をやっと理解したのですが、そんな事も、もう20年以上前…という昔の自慢話ではありません(笑)、今月はここから始めさせて下さい。さて、思いがけずトップを頂いた私は意気揚々と、さぁ次は世界の壁に挑戦だ、案外たやすく超えられるかも!?と、一流歌劇場に立つ夢を見ながら、色々なオーディションを片っ端から受け始めました。が、これが見事に通らず、何一つ役を貰えないどころか、私が精魂込めて準備したオーディションでも、全く無関心な扱いをしばしば受け、傷つく事もしょっちゅうでした。完璧になれば通るだろうと、さらに歌や演技、ディクション(舞台発音)、語学レッスン等に励み、受け続けましたが、それでも全く成功せず、センミツ(千個オーディションを受けても3個しか通らない)、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)などの言葉を覚えたのもこの頃でした。ある時、いつも以上に良く歌え、審査員達も立ち上がり拍手をして、今回のベストは君だとまで言われたオーディションで、結局役がもらえなかった事があり、流石にこの時ばかりは大号泣して、もうオペラを辞めようと街を彷徨った事がありました。歌の上手さだけでは決まらないオーディションの複雑さは、時を経た今、私自身が審査をする側に経って分った事ですが、当時は、悔しさと悲しさと、納得できない思いで一杯でした。しかしそんな中、私を救ってくれたのは、国際コンクールの存在でした。

 芸術に点数をつけるのはおかしい…等の意見もある中、オーディションと違い人種、容姿、劇場の政治的な理由、などはほぼ関係なく、純粋に歌の質だけで勝負できるコンペティションはずっと公正に感じ、べらぼうに上手でも、やはりオーディションに入らず苦しんでいたアジアの友人歌手達が上位の賞を取っていた事実は、励みになりました。また入賞がきっかけで、オーディションでは取れなかったオペラやコンサートの仕事に繋がる事もあり、点数で競わされる事は、確かに気持ち良くはありませんでしたが、オーディションとはまた別のチャンスと思うようになって行きました。ところで人と競うと書きましたが、厳密には実はそうではありません。大切なのは、自分がベストを尽くせるのか、の闘いです。膨大な量の有効な努力こそがベストの演奏を生みますが、それが出来た時、演奏家は結果に拘らなくなり、決して人との競争ではないのだという事を真に理解します。(ただ大抵そういう場合、良い結果がついて来ますが)今月末にも、私が関わる大阪国際音楽コンクールの入賞者コンサートが、カーネギーで行われます。自身との闘いに勝った若者達が、次は世界の檜舞台にてベストの演奏が出来るよう私も祈っています。

田村麻子=ニューヨークタイムズからも「輝くソプラノ」として高い評価を受ける声楽家。NYを拠点にカーネギーホール、リンカーンセンター、ロイヤルアルバートホールなど世界一流のオペラ舞台で主役を歌う。W杯決勝戦前夜コンサートにて3大テノールと共演、ヤンキース試合前に国歌斉唱など活躍は多岐に渡る。2021年に公共放送網(PBS)にて全米放映デビュー。東京藝大、マネス音楽院卒業。京都城陽大使。