40+女の人生 「バツ2」ではなく「丸2」と呼びたい理由

第3話 ニューヨークで気づいた、私が「バツ2」ではなく「丸2」と呼びたい理由

 ニューヨークの友人に「日本では離婚経験者をバツイチと呼ぶ」と話したときのこと。その友人は、誰もが振り返るようなオーラを放つ映画女優、L。彼女は端正な顔立ちと大胆なファッションで知られ、ヨーロッパ出身ながらハリウッドの頂点に君臨するスターです。最近では、ある国際的な映画祭で主演女優賞を受賞し、雑誌の表紙を飾ったばかり。ニューヨーク滞在中には、アッパーイーストサイドのペントハウスからソーホーの隠れ家カフェまで、彼女が訪れる場所が話題になるほどの存在感を持っています。

 その日、ダウンタウンのアートギャラリーで行われたプライベートビューイングに参加したときのことでした。作品を眺めながら、「日本では離婚経験者をバツイチと呼ぶ」と話すと、彼女は細長い指でワイングラスを回しながら、フランス語混じりの英語でこう言いました。「バツ?なぜそんなネガティブな表現を?離婚は新しい自分を見つける旅の始まりでしょ?」と、まるでスクリーンから飛び出してきたかのような優雅な口調で返してきたのです。

 実は、この「丸2」という言葉を最初に耳にしたのは、私が尊敬し、会話を楽しむある男性の友人とのやり取りでした。彼はニューヨークのビジネス界で活躍し、知的でユーモアに溢れる人。常に新しい視点を与えてくれるその存在は、私にとって大きな刺激です。その彼が、「バツではなく丸でしょ」とさらりと話した一言に、私は心を打たれました。それは、人生を肯定的に捉える、彼らしい優しさと哲学の表れでした。その後、このアイデアを友人女優のLにぶつけてみたのです。

 「丸1」が最初の結婚なら、「丸2」は新しい学びと経験が加わった人生。女優Lにそう伝えると、彼女は微笑みながら、「それこそ、私が言いたかったことよ」と。離婚を通じて得た強さや柔軟性を象徴するこの言葉は、ニューヨークの多様性と再出発への前向きな姿勢と響き合っているのだと感じました。

 一方で、日本には素晴らしい文化があります。厳しさや規律を守る姿勢、家族や社会の絆を大切にする価値観。それらがあるからこそ、夜でも安心して歩ける安全な街が形成されているのです。私はその日本文化を深く尊敬しています。そして、その文化が背景にあるからこそ、「バツイチ」という言葉には重みがあり、責任感の現れでもあるのだと思います。ただ、時にその言葉が過去の経験を否定的に捉える側面を持つことも事実かもしれません。

 ニューヨークは、多様性が息づく街。この街では、過去の経験を「良い」「悪い」と単純にラベル付けすることはなく、そこから何を学び、どのように生きていくかが問われる。たとえば、混血の人々を「ハーフ」ではなく「複数」、マルチレイシャルと呼ぶ文化もその一例です。二つ以上の文化を持つことは、その人自身を豊かにし、アイデンティティの核となるものと考えられています。

 今思い出せば、別の日、ソーホーのカフェで再会した友人は、私がこれまでどのようにニューヨークでの生活に馴染んできたかを尋ねてきました。「異国で成功するなんて、あなたの努力と情熱の証ね。特に、シングルマザーでアメリカに来て言葉も文化も違う中で成し遂げたのは、本当にすごいことよ」と、真剣な眼差しで言われました。その言葉に胸が熱くなり、ニューヨークという街で得た挑戦と成長の意味を改めて考えさせられました。彼女の視点には、この街ならではの多様性への尊重と、人の物語を讃える温かさが感じられました。

 ニューヨークで感じたのは、人々が過去を「欠点」ではなく「ストーリー」として語る姿勢です。離婚も異なる文化のバックグラウンドも、人生を豊かにする「丸」や「マルチ」として受け止められています。それは日本の文化とは異なる考え方ですが、お互いの価値観を理解し、尊重し合うことでより広い視野を持てるのだと感じます。

 過去の経験や自分の背景を「誇り」として捉え、新たなステージを「丸」や「マルチ」として描く。この視点は、より自由で豊かな人生への扉を開いてくれるかもしれません。ニューヨークの街角で名もなきストリートアートを眺めるような気持ちで、自分の人生にも新たな「丸」と「ダブル」を見つけてみませんか?

藤田カンナ

美容クリニック「Re:forma」と「Kirei House」代表として日本の美の哲学と、米国および世界中から取り入れた先進的な技術を融合させ、心身の調和を重視した総合的な美容と健康ケアを提供。女性の健康をサポートするために開発、Femtechアワードを受賞した幹細胞製品の米国代表。KAATSUスペシャリスト認定資格およびインテグレーティブ・ニュートリション認定ヘルスコーチの資格を持ち、コロンビア大学で学んだビジネスと経営の知識を活かし、事業運営や顧客サービスにおいて、常に最先端のアプローチを追求している。