日本語「大好き」アメリカ人

日本語コースある大学
ただ今全米に113校


裏千家茶の湯センターの協力で、日本語を学ぶ学生たちが中心となって開催した茶道のお手前(12月3日、ハンターカレッジで)

 いま北米で日本語を学んでいる日本人以外の人は約17万人いる(国際交流基金調べ)。また日本語を教える教育機関は米国内に1241か所あり、日本語コースのある大学は全米で私立公立合わせて113大学に及んでいる。

 日本語教師の数も全米で約4100人に上り、公立高校で日本語の授業をしている学校もあり、日本語に限定せず、日本文化、東アジア研究の大学機関まで入れると相当数に上るものと思われる。

 本紙新年号では、そんなアメリカで日本語を学ぶ人たちの実像を追い、日本語がなぜ米国の若者たちを惹きつけているのかをテーマに特集した。 

日本語学習ブーム  NY最前線の現状

若者が「日本文化に魅力」
新聞記事も大学で教材に使用


本紙の「週刊やさしいにほんご生活」の記事を教材に授業する日本語日本文化科の学生たち(10月27日)

 日本のアニメや漫画、J-POPなどの人気で、日本語を学ぶ外国人が増えている。国際交流基金が2021年度に実施した、「海外日本語教育機関調査」の結果報告書によれば、カナダを含む北米での日本語を学ぶ学習者数は17万9695人で、その内米国では16万1402人。日本語を教える教育機関数は北米で1372校、米国内には1241校ある。日本語学習の目的では、「アニメ・漫画・J-POP・ ファッションなどへの興味」が特に高く、北米においては92・1%を占めているほか、「日本語そのものへの興味」が82・2%、「歴史・文学・芸術等への関心」 が81・9%と3項目が8割を超えて多く回答されている。ニューヨークで、日本語を教えている教育機関であるジャパン・ソサエティー(JS)の日本語プログラムの担当者に日本語を学ぶ学生の現状について、そしてコロンビア大学の日本語教育プログラムで日本語を学んでいる学生に話を聞いた。       (石黒かおる、写真も)

ハンターカレッジ
日本語日本文化科を設立

 ニューヨーク市立大学のハンターカレッジに最初の日本語クラスができたのは1996年。一昨年日本語日本文化科として語学学科が新設された。現在初級261人、中級154人、上級25人、選択小目(食文化、語用論、講師養成)30人の計470人が登録している。

  マーヤン・バルカン日本語日本文化科長のクラスは日本語を学び始めて2年と2か月、5学期目 (上級レベル1)の学生を担当し、授業では古川明代副科長と共に本紙・週刊NY生活で掲載している「週刊やさしいにほんご生活」の欄を授業で活用している。

 10月27日、同記事が初めて日本語授業の教材として使われた。当日授業で使われた記事は、日本食のマナーや敬語の使い方、「七転び八起き」という日本に古くからある諺に関するもので、授業の中でわかりやすく解説された。

 バルカンさんは「日本語を教える上で文法やひらがな、カタカナだけでなく、相槌を打ったり、自分から挨拶するという日本独特の文化的背景が日本語を使ったコミュニケーションには大切だ」という。

 2月12日には、これまで国連国際学校で開催されてきた日本語を学ぶ近郊公立高校約300人余りが参加する春祭りがハンターカレッジに場所を変えて開催される。

 古川さんは「ハンターは公立大学なので公立高校の生徒たちが将来受験する可能性が高く、大学の雰囲気を事前に知る上でも生徒に役立ち、また大学と高校の日本語教育の連携にもつながる」と話す。

 同大では日本語学科の学生が中心になって作成した現代日本語劇・岸田理生の「糸地獄」を1月30日から2月1日まで同大ケイ・プレイハウスで上演するなプログラムが目白押しだ。

ジャパン・ソサエティー
過去最高の履修登録者


使用する教科書を手にする中西先生

 お話しを伺った日本語プログラムの中西真美先生は、2010年からJSで日本語を教えている。プログラムはレベル1から13まである。レベル1ではひらがなと動詞、レベル2ではカタカナと過去形、レベル3では漢字とフォーマルなスピーチ、レベル4では否定形などと順を追って学んでいく。

 コースは春学期が1月から4月までの10週間で文法を習い、4月に5週間の会話クラス。5月末から8月初めまで夏学期(10週間、文法)、8月に5週間の会話コース、9月末から12月始めまで秋学期(10週間、文法)、12月中旬から1月半ばまで5週間の会話コースとなっている。1クラスは10人から20人程度。現在、全クラスで約1000人の生徒がいるそうで、特にパンデミックの後は、ウエイティング・リストにキャンセル待ちの人がいるほどで、2024年の秋はJS始まって以来のブレイキング・レコードとなる日本語クラスの申し込みがあった。

 「パンデミックも終わり、日本に旅行ができるようになり円安も拍車をかけた、日本食大好き! 日本に行っておいしいお寿司が食べたい! と日本語を習いたい人が増えた」と中西先生。パンデミック前は80代の生徒さんもいて年配の人が多かったが、パンデミック以後は、10代や20代の若い人も増えて生徒の平均年齢は約30歳代だという。目的もパンデミック前は日本の会社に勤めているので日本語を学びたいなど仕事がらみや日本映画が好き、日本文化が好きなどの理由が多かったが、パンデミック以後は日本のアニメや漫画、任天堂のゲームが好き、日本に行ってゲームセンターで遊びたい、秋葉原のメイド・カフェに行きたいなど、日本オタクで日本語を学びたいという人が増えたと話す。生徒の中にはメイド・カフェのメイドのような服を着て授業に来た人もいた。

 リモート・ワークも可能になり、日本で日本企業に勤めながらオンラインでJSの日本語クラスに日本から参加している米国人の生徒もいる。また、パンデミック以後は米国の会社を退職したら日本の田舎に移住して、古民家を改築して住みたいと話す生徒さんもいるという。

コロンビア大学
曖昧表現や食文化も学ぶ


教科書を手にするワングさん

 コロンビア大学の日本語教育プログラムで学んでいるリサ・ワングさんはコロンビア大学の傘下にある全米でも最難関の女子大バーナード・カレッジの4年生。最初の2年は、NY州のハミルトンにあるコルゲート大学で学んだ後、バーナード・カレッジに編入した。コルゲート大学で初めて日本語を学び始めたというワングさん。コルゲート大学の日本語プログラムは少人数でクラスの生徒は10人ほど。クラス・ルームは畳の部屋で靴を脱いで部屋に入り勉強した。ひらがな、カタカナから学び、日本の古典文学「源氏物語」を読んだり、アニメーション映画「かぐや姫の物語」の映画鑑賞、茶道の実践などの授業を通して日本文化を学んだ。

 バーナード・カレッジに編入してからもコロンビア大学で日本語教育プログラムを取っている。バーナード・カレッジはコロンビア大学の傘下にあるため、コロンビア大学の授業も取ることができる。日本語クラスはレベル1から5まであり、レベル5になるとネイティブ・レベルの日本語が要求される。試験にパスしないと上のレベルには進めない。現在、ワングさんは日本語レベル3のクラス。レベル3では「曖昧表現」を習っている。

 米国では「YES」か「NO」の表現だが、日本人は良く「曖昧」な表現をする。日本の食文化についても学ぶ。なぜ、味噌汁が日常的に飲まれるようになったのか、「味噌汁の歴史」を学んだ。映画「おくりびと」(滝田洋二郎監督、2008年)をクラスで鑑賞し、日本では亡くなった人の体を清め、化粧をして葬るのを知って驚いた。中国の埋葬の仕方とは全く異なっていた。映画鑑賞後、クラスで日本の文化についてディスカッションをした。また、曽野綾子の中吊り小説「帰る」を読みクラスで語りあった。「帰る」は帰る場所があるのはいいことだという「帰る」をテーマとしたストーリー。ある男性の妻が、35歳の時に脳溢血で倒れ、それ以来23年間、寝たきりで病院に入院している。妻は58歳に、夫は59歳になった。男性は仕事を終えた後、毎日、病院に立ち寄り妻を見舞ってから明かりのついてない自分の家に帰るという話だ。そして「帰る」をテーマにした自分のエッセイを日本語で書く課題も出た。

 ワングさんのクラスは約10人で、その半数が中国人だという。クラスメイトの中には日本の漫画やアニメで展開されている「呪術廻戦」や「進撃の巨人」が好きで日本語に興味を持ったという人いるそうだが、ワングさんの場合は違う。

 ワングさんが日本語を学ぼうと思ったのは、父親が日本企業に勤めていて日本語を身近に耳にしていたからだった。幼いころから父親は日本と中国を行き来していた。父親が日本語を話すのを聞いたり、父親の同僚が家に来て父親と日本語で会話するのを聞いていて日本語に興味を持った。5歳の時に日本に行きディズニーランドと温泉に行った楽しかった思い出もある。コロンビア大学で学士号を取得して卒業したら、日本に留学して大学院は東京大学か京都大学で経済学を学びたいと話す。そして将来は、日本の企業で働きたいと目を輝かせていた。

*中吊り小説は、90年代初頭にJR東日本の中吊りに連載された19編の人気作家による短編小説。


漢字検定1級に合格

12年前に非漢字圏育ちで初めて

ブレット・メイヤーさん

 ブレット・メイヤーさん(42)はニュージャージー州出身で現在静岡県在住。高校時代にアニメにハマったきっかけで漢字を独学し、2012年に非漢字圏育ちで初めて日本漢字能力検定1級に合格した。続けて日本文化の隅々まで探検し、漢字教育士や滑舌認定講師、日本茶インストラクター、茶手揉技師教師補などさまざまな資格を取得。現在は日本でラジオやテレビに出演しながら、国内外の教育機関で漢字や日本茶などの分野で講座を開催している。

 「子供の頃パズルが好きで、漢字には「へん」など部首の組み合わせとヒエログリフのような象形文字の要素があって、パズルのように組み合わせて文字ができている。一つの文字に深い意味や歴史までもが含まれているのが楽しかった。絵を描くのは好きで上手ではないけれど、漢字なら自分の手で書けるアートだと思った」と言う。漢字検定2級は2136の常用漢字、準1級は常用漢字+人名漢字合わせた3000字、1級は「ドンと難しくなって」倍の6000字が対象で、新字体と旧字体、日本と中国の古典に出てくる漢字が含まれる。現在六法全書を読んでいて、次は日本の司法試験にも挑戦したいそうだ。   (三浦)