アダムス市長を起訴

収賄など5つの罪で

無罪主張し辞任しない意向表明

 ニューヨーク市のエリック・アダムス市長(64、民主党)が26日、贈賄、詐欺、違法な外国からの選挙資金集めなど5件の罪で起訴された。ニューヨーク市長の公邸となっているグレイシーマンションに同日午前、連邦捜査官(FBI)が突入。正午前に連邦検察当局は、大陪審により市長が起訴されたと発表した。トルコから何年もの間、無料航空券、海外での豪華な宿泊費、違法な選挙資金を受け取っていたとされる。

(写真上)ニューヨーク市の公式ホームページに掲載されたNY市長の紹介文

 起訴状によれば、アダムス氏はブルックリン区長時代から10年にわたって汚職と収賄が疑われる。贈り物や寄付の見返りとして、区長や市長の影響力を行使し、例えばトルコ領事館の高層ビル建設に消防局から安全許可を得るなどトルコ当局に便宜を図っていたとされる。

 アダムス氏は26日午後にグレイシーマンションの外で記者会見を開き、不正行為を強く否定、「私は選挙で選ばれた仕事をこれからも続けていく」と市長職にとどまり、「全力と全精神を尽くして」罪状と戦うと述べた。市長を同市の「恥」だなどと抗議する市民らによって中断も生じる混乱のなか会見は行われた。同氏は27日、連邦地方裁判所に出廷し、罪状認否で無罪を主張した。30日にはトルコ政府への便宜は合法だったとし、裁判所に贈賄罪の棄却を求めた。

 起訴された市長に対してアレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員をはじめとする民主党議員の何人かは辞任を求めている。一方、連邦下院のハキーム・ジェフリーズ院内総務(民主党)は「推定無罪」の原則を当てはめるべきだとした。市長を解任する権限を持つキャシー・ホウクルNY州知事も26日夜の声明で「選択肢を残しておく」と慎重な姿勢を見せた。公民権運動の指導者であるアル・シャープトン師はホウクル知事にアダムス市長を解任しないよう求めている。

 連邦機関は、アダムス市長に対しては2022年の市長就任以来、監視を強めていた。昨年11月には連邦検察とFBIはアダムス市長の電子端末を押収。また市長側がトルコ政府と共謀し違法な外国からの献金を受け取っていた疑いで、市長の首席資金調達者だったブリアンナ・サグス氏の家宅捜査を行うなどしていた。

相次ぐ高官辞任で市政は大混乱

市長選に向けて準備も

 捜査が進展するなか、ここ数週間は高官が相次いで辞任するなど市政は大混乱に陥っている。FBIに携帯電話などを押収されていたニューヨーク市警のエドワード・カバン本部長は9月13日に辞任。またトマス・ドンロン本部長代行も13日に家宅捜索を受けた。市長の主任顧問であるリサ・ゾーンバーグ氏も13日に辞任、アシュイン・バサン市保健局長官は23日に辞任した。エリック・アダムス市長の長年の政治顧問であるイングリッド・ルイス=マーティン首席顧問は市長起訴後の27日に、連邦検察とFBIによってブルックリンの自宅を捜索され携帯電話を押収された。召喚状も送られている。

 来年の任期満了前に市長が辞任あるいは解任された場合は、市政監督官ジュマーニ・ウィリアムス氏が後任となる。辞任や解任がなくても、すでに来年の市長選挙に向けて、ウィリアムズ氏のほか、ブラッド・ランダー会計監査官、スコット・ストリンガー前会計監査官ら市の高官や州上院のゼルナー・マイリー議員やジェシカ・ラモス議員ら、そしてアンドリュー・クオモ元州知事らが市長の座を狙って準備を進めている。

 5つの罪状すべてで有罪となれば、市長は最長で懲役45年の刑に処せられる。ただし、検察が賄賂容疑を立証するのは困難かもしれないと指摘する法律専門家もいる。アダムス氏が受け取ったとされる賄賂の金額は10万ドルと違法な選挙資金で、他の公職汚職事件に比べれば少額。賄賂の多くは部下の証言に頼らざるを得ない可能性が高いため、部下がアダムス氏の知らないうちに独断で行っていたとアダムズ氏の弁護団が主張する可能性がある。このため検察は追加の訴追を求める可能性が高いとの声がある。

 アダムス市長は、バイデン大統領の移民政策を批判したために連邦検察が動いたと証拠はあげず示唆している。しかし起訴を発表する記者会見で、ニューヨーク南部地区連邦検察のダミアン・ウィリアムズ検事は、この事件が政治的なものであるという考えを否定した。ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官も記者団に対し、司法省の起訴決定にバイデン政権は一切関係ないと語った。