努力は運を呼び込む
大森智子・著
KATSU ZEN USA・刊
ニューヨークには、日本から転勤や大きな後ろ盾の企業のサポートなどを受けずに単身やってきて、自分の夢を叶えようとする若者たちがいる。その元若者たちがこの地で根を張り、アメリカ社会を相手に堂々と勝負して成功する、側から見れば人生の成功体験者の物語を仰ぎ見る思いだが、そこには本人の並々ならぬ努力と勇気が呼び寄せる強運といった人生ドラマを読み取ることができる。
同書の著者、大森智子さんは、1992年に単身で来米、96年に俳優としてオフ・ブロードウエーの舞台に立つ。公演中にアパートの火事で全てを失い、俳優業を離れる。ニューヨークの日系テレビ会社でメジャーリーグ中継を担当、その後、出版社に転職して英語版の月刊誌立ち上げを経て、米国のゴーゴーカレーのオーナー社長としてレストラン経営に乗り出し自立。全米で15店舗の直営店とフランチャイズを経営して昨年その会社を売却し、現在は、日本を含む海外から米国進出を目指す企業の支援やコンサルタント、執筆、講演活動に忙しい毎日を送っている。
本書『言葉を変えると収入が上がる 人生が変わる』は、大森さんの実体験を織りまぜながら、キャリアと自分を磨く自己啓発書として多くの人に読まれ、アマゾンの売れ筋ランキングベストセラー本となっている。
言葉の使い方、話し方はコミュニケーションを取る上で重要なスキルであることは誰もがわかっているし、ひとつの雛形があったとしても、誰もが同じような口調で同じような笑顔で会話をすることなどはありえないし、ロボットでもAIでもないので、心の通じる何かがそこに求められることになる。挨拶、「いいですね」という相手をまず肯定することから始まる会話、笑顔という見えざる言葉、相手の話を聞くという会話方法など、舞台、出版、飲食業経営という一見つながりのない人生経路を辿ってきている筆者の背骨と心に貫いているコミュニュケーション哲学が本書にはわかりやすく書かれている。
誰もが社会に出て、学生時代とは異なる実社会の仕組みや、入った会社組織の風土、社風など、未経験の分野に足を踏み入れる時がある。基本的なルールや技術、知識を学ぶ段階だ。武術でいえば型の習得。師匠や先輩、教科書などから教えられることを忠実に守り、基礎を固めることがまず大切だ。これを「守」(基本を学ぶ)。次に、基本を学んだあと、自分なりのスタイルや方法を探究し、既存の枠組みを超えていく。キャリアで言えば、新しいアイデアや業務の効率化、新規プロジェクトの提案など、これが「破」(革新を加える)段階。そして、これまでの経験を活かして独立すること。自分だけの独創的な仕事を展開し、業界に新しい風を吹き込むことができる段階、これを「離」(独自の道を進む)と言い、この守破離を体現してきた大森さんが言うと説得力がある。アメリカは日本と違って定年がない。自分の人生は自分のもの。他の人にできないことで頑張れば、努力は実る。「運は努力が好きなんです」。努力は運を呼び込む。運命を好転させる。頑張っていて、そして読んでよかったと思える一冊だ。 (三浦)