日本の政治家の地位はどうして低いのか

 自民党における裏金の問題で、政治倫理審査会が開かれたが疑惑の当人たちは関与を否定。自ら出席を決断した岸田総理も、事件の構造に切り込むことはなかった。結局のところは、一部の政治家が立件された以外は、会計責任者が罪をかぶるという幕引きとなりそうだ。

 では、このまま事件はウヤムヤになるかというと、そうはならない。4月の衆議院補欠選挙3選挙区については、1議席が不戦敗、残る2議席も連敗の可能性は十分にある。6月の都知事選については、小池人気に便乗するために解散総選挙をダブルでぶつける案があったようだが、現在の情勢では強行できる条件は薄い。

 このままだと、来年、つまり2025年7月の参院選と10月の衆院任期切れを意識して、自民党の各議員は「少しでもダメージを少なくできる旗印」を求めて、右往左往し始めるであろう。動揺が少なければ、本年9月の総裁選では誰も手を挙げられず岸田氏の無風続投もあるが、夏場に動揺が激しくなれば看板の書き換えもある。上川陽子氏へのスイッチという説はまだ消えていない。その場合、9月の総裁選では菅義偉氏などが石破茂氏を担いで対抗するであろう。

 しかし、政権の顔を換えてもよほどのブームにならない限りは、次の総選挙で自民党の大敗は避けられない。その場合は、国民民主党などを連立に取り込み、それこそ玉木党首を首班に担いで自民党のスキャンダルを国民が忘れるのを待つという戦術もあり得る。

 問題は、どうして自民党としてはそこまで転落する覚悟をしているのか、ということだ。それは、倫理観が欠落しているとか、人間として善悪の区別がつかないということではない。そうではなくて、政治家に力がないのである。言い換えれば、国政に関わる政治家の地位が低いという問題がある。

 まず、今回の問題で言えば、裏金の使途について政治家は、口が裂けても言わない、いや言えない。その裏金の行方であるが、主として選挙区対策だという。具体的には、県議、市議など地方政治家にカネを配り、また一緒になって冠婚葬祭や宴席など、あるいはトラブルの仲裁や就職の斡旋などで有権者に便宜を図る必要があるのだ。要するに選挙区における泥臭い人間関係の中で、政治家が良いように使われているのである。けれども、そうした活動の多くは公明正大なものではないので、そのための資金については、使途を明かすことはできないというわけだ。

 今回の政治倫理審査会で目立つのは、この点に関する政治家の身勝手な居直りだ。例えば裏金について納税する気持ちはないという。苦労して選挙区を掘り起こす必要経費として使っている以上、そこに課税されるのは理不尽という思いがあるのだろう。民間であれば税務署に対して使途を否認すれば100%課税されるわけで、政治家の感覚には呆れるしかないが、相手に迷惑をかける以上は使途を明かせないのは当然と思っているようだ。

 この間、自民党を揺るがせた政治とカネの問題はどれも似たりよったりである。二世議員が中選挙区時代から続いていた観劇ツアーを行い、差額を負担していた問題もそうだ。本人は主要閣僚を担える能力がありながら、有権者の「たかり」に屈して来たのである。大問題となった「桜を見る会」なども、総理総裁を選挙区から送り出す満足感では足りずに「格安参加の便宜」を求めた有権者にも大きな非がある。宗教団体との関係もそうだ。関係を切ろうとしても、当の団体から関係をリークされている(らしい)中で、一種の恐喝に屈しているとも見える。

 どうして自民党の政治家は、そのように有権者に「やられ放題」なのか、アメリカと比較すると愕然とする。少なくとも、アメリカでは有権者が予備選で候補を直接選ぶし、その際の基準は政策で決まる。議会では、選挙区の要求する政治的判断を議員は代弁するので党議拘束はない。したがって、民意はそのまま議会の議場に届く。

 日本の場合は、この点に大きな欠陥がある。そもそも予備選がない。また選挙の際に議員個人の公約を信じて投票しても、政務調査会などへの影響力もない議員の場合は影響力はゼロ、議場では党議拘束のため議員は無力、結果的に有権者の選択は無駄になる。そんな中では、議員は選挙において有権者に対してアピールするものは、個別にはほとんどない。だからこそ、「最後のお願いに参りました」などと連呼して投票を懇願するわけだ。そのバカバカしいほどの低姿勢に「たかってくる」地元組織や有権者の歪んだ期待に応えるために、裏金が必要というわけだ。

 こうした弊害を無くすために小選挙区制が導入されたはずだが、政権担当能力のある2大政党制が定着しなかったことで、結局は元に戻ってしまった。その意味で、現在の日本政治の低迷には野党にも大きな責任がある。それ以前の問題として、有権者にも反省の必要な点は大いにあると言えよう。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)