編集後記
みなさん、こんにちは。今年に入って世界中が震撼したのがチャットGPTの人類への脅威です。NYタイムズ紙が2月に掲載したAIの書いたラブレターがいかに相手の心を打つか大反響を呼んだのですね。今週号の書評で掲載した『チャットGPTvs. 人類』には、会社の企画書も人事評価もすべてAIによってなされ、ホワイトカラーのやっている職種はどんどんと、なくなって最後には消滅してしまうのではないか、その「凄さ」と「怖さ」が書かれています。本の内容はさておき、米国の市民生活にすでに入りこんでいるAIの卑近な例を今回書評で紹介しました。前にもひょっとしてこの欄で書いたかもしれませんが切り口を変えて。実は、私はニューヨークタイムズ紙を郊外の自宅で定期購読してかれこれ15年くらいになるのですが、昨年あたりから、早朝に配達されるはずの新聞が、来たり、来なかったり、いいかげんな配達状況になり始めたのです。日本の新聞配達の事情から考えたら、これは絶対あってはならない信じられないことなのですが、配達されるのが週に2回くらいになってしまい、しかも曜日も時間もバラバラになってきました。日本なら、販売店に苦情電話を入れて、責任者が電話の前で頭を深々と下げて、新聞を抱えて飛んで来て、それ以降は絶対にこんなことは起こらないというのが常識です。でも、アメリカは違うのですよ。新聞の遅配、不配に対する対応は2択しかなくて、翌月のインボイスから代金を1部分差し引くリファンド(払い戻し)か翌日に配達するかのどちらかです。状況に応じて、リファンドや、翌日配達を繰り返した挙句、なぜ、こんな信じられないバカげたことが毎日起こるのか、オンラインの説明を細かくみていくと、リファンドと翌日配達以外に「チャットで(ボブ)と会話する」というボタンが見つかりました。もっと早く気がつけばよかったと、このいい加減な配達が起こっている理由を問いただしたい一念でボタンをクリックすると、すぐ先方のボブからテキストが返ってきました。「はい、こんにちは、私はボブです。いつもご愛読ありがとうございます。今日はどんな御用件でしょうか」と短い挨拶。
「新聞が来たり、来なかったり、いいかげんなのはなんで?」と怒りをグッと抑えたこちらのメールにもすぐ、しかし今度はレターサイズ一枚ほどの文字量のタイプでびっしり書かれたお詫びのテキストが瞬時に返ってきて、末尾には、「二度とこのようなことが起こらないように販売店に厳しく指導します」とあり、これでもう大丈夫かととりあえず納得したのも束の間、翌日以降も改善されませんでした。そしてまたカスタマーセンターで今度はもっと厳しく苦情を伝えようとすると「はい、こんにちは、マーガレットです。今日はどんな御用件でしょう。伺わせてください」とテキストがくる。翌日はチャーリーと、その翌日はフランクとチャットして苦情を言ったが、フレンドリーなボブも、マーガレットもチャーリーもフランクもみんなAIのロボットだと気がつくまでに1週間もかかってしまいました。AIロボット相手に苦情を言い続けていると、「メールで連絡しますか」という答えが唐突に現れました。メールの向こうには人の気配がしたのでこう書きました。「私はNYタイムズを15年以上愛読している日本人のジャーナリストだけど、こんなに嫌な思いを毎日させられているのは、今流行りのアジアンヘイトですか? 」と。すると2分もしないで短いメールが返ってきて「あなたの配達の苦情の履歴を見ました。すぐに対応します」という簡潔なメールがきて、翌日から、いいかげんな配達はピタッと止まりました。人間同士なら理解しあえますが、相手がロボットだと、感情がないので前に進まないことしばし。しかし、いい加減な配達をしていたのは人間なので、宅配業務がコスト削減によって、まともな人材を確保できていないという別の問題も今度は露呈するハメに。人類とAIの共存生活はもう始まっていることを痛感させられました。それでは皆さんよい週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)