田村明子・著
青春出版社・刊
英語表現を磨きたいと思っている日本人の大人は案外多いのではないだろうか。テレビ英会話教室の番組や、ラジオ英語講座で何度も発音の方は練習した経験は過去にあっても、実際の商談やレセプションで、知らない人と自分から自己紹介して仕事と関係ない話を5分以上英会話で続けた経験となると、海外出張や国際見本市会場での場数体験がないとそう多くは得られない。
本紙読者は、すでにニューヨークまたはその近郊在住者なので、アメリカ人と接する機会は、接客業で外国人専門の店員でもない限り普通に日本国内で生活している人以上には多いはずだ。しかしこちらで生活していても、極端な話、スーパーに買い物に行ったり、街中のコーヒー店で注文するくらいの日常生活では大した英語力は必要もなく、問題は、アメリカ人の中に入った時にいかに、見下されることもなく、冷たくあしらわれることもなく、お互いの立場を尊重しながら会話を維持していけるかだ。だいたいこういうことを考えていること自体、実際にそれが自然と身についていなくて、会話もできていないことの証のようなものなのだが。だが、住んでいれば自然と会話力が身につくというそんな簡単なものではないことは、住んだ人が一番よく知っている。 15歳で米国に留学して帰国せず、そのまま40年以上英語と日本語のバイリンガル生活を続けてきた著者が気づいたのは「英単語や文法の知識より、ずっと大切なことがある」ことだ。それは相手の目を見て(アイコンタクト)、にっこり微笑んで、「Hi, how are you?」と第一声をかけるだけで break the ice 、打ち解けた雰囲気になる。ものを頼んだときには必ず「Please」をつける。それだけでとりあえずは失礼なヤツだとは思われずに済む。エレガントな言い回し、社交術は、自然と身に付くものではなく、学んで体得するものだということがわかる。何を話すのか、その中身がもちろん大切だが、それをいかに美しく表現できるのかもまたある意味、何を話すのかと同等以上に大切だということを教えてくれる一冊だ。 (三浦)