こうして私たちは日本語を好きになりました。
文・小味かおる
「侘び寂びを理解するために」
ウェストブルック・ジョンソンさん
トロンボーン奏者でウェブ開発者のウェストブルックさんは、約15年前に日本語学習を始めた。きっかけは「侘び寂び(ワビサビ)」の本。「即興演奏」に似ていると思いながら読み進めると、あとがきに「ワビサビを本当に理解するには日本語がわからなければいけない」とあった。すぐに語学学校ヒルズラーニングの初級クラスへ。その後は仕事の昼休みを利用して週に1回、会社の会議室で個人授業を受けた。仕事が完全在宅勤務となった今はオンライン授業で、ニュースを読んだり文法を学んだりして、新しい言葉に出会うとノートに書く。
友人宅のパーティーで日本人と知り合い結婚。成田空港でテレビ東京系列の「YOUは何しに日本へ?」の取材スタッフに囲まれた経験も。「よく日本のドラマやニュースを見るし、家庭での会話は日本語の方が多いかな」。年に1、2回は日本を訪れ、今は日常会話に不自由しない。「妻の家族や友達ともっと話せるようになりたいとは思うけど、それは学習ゴールじゃない。日本語学習はウォーキングしたりするような生活習慣の一部」。
「愛読書は源氏物語」
マティアス・カワジャ君
ハロウィーンのコスチュームは日本から取り寄せた「狩衣(かりぎぬ)」、愛読書は「源氏物語(英語版)」、住みたいところは「平安京」、会いたい有名人は「天皇」。14歳のマティアス君は、ここ2年ほど日本の歴史に夢中だ。2023年春、家族旅行で訪れた京都に魅せられた。その夏に語学学校ヒルズラーニングのティーン対象の夏季集中コースで初級を終え、現在は週に2回、個人授業を取っている。授業はオンラインなので、時にはイタリアの避暑地や祖父のいるブラジルから、そして別荘への移動中の車内からと、できるかぎり授業を休まない。数か月前には、文法や漢字の勉強に加えて、英訳を見ながら百人一首の音読も始めた。
先日は、初めて紀伊國屋書店に行って「古事記」や「隠れキリシタン」などの英書を7冊もまとめ買い。「本ならいくら買ってもいい」とお母さん。ジブリの映画は好きだが、アニメやゲームなど日本のポップカルチャーにはほとんど興味がないマティアス君の最終目標は、日本の古典文学を日本語で読むこと。
「日本のおばあちゃんときちんと話したい」
カーシュ・アキさん
「日本のおばあちゃんときちんと話したい」。米国人の父と日本人の母を持つアキさんは、4年前から本格的に日本語を学んでいる。語学学校ヒルズラーニングのティーン対象夏季集中コースで「あいうえお」から始め、昨年は日本語能力試験N4に合格。
現在は大人向けの初中級コースに在席中で、「日本語だけで話そうとする人たちだから、刺激がある」と、向上心旺盛だ。クラスメートとはLINEで日本語のおしゃべりを楽しんでいる。
母親の方針で小さい頃からベビーシッターは日本人だったし、日本のドラマをよく見ているし、聞くのは得意だ。アキさんのような環境で育つと、くだけた日本語が定着しがち。でも「日本では、ていねいな言葉遣いが大切だと思うので」と言い、きれいな日本語を話すことを意識している。
高校4年生の今、大学進学が目下の課題。米国の大学に加え、英語で学位取得が可能な東京大学PEAKなど日本の大学も候補だ。「将来は、日本に住んで、日本語を使って仕事をしたい」。魚が大好きで、豊洲市場の近くのキッチンが広い家に住むのが夢。
「岩手でボランティアを経験」
ガブリエラ・ガンジスさん
ハンター大学4年生で、日本語クラブ会長を務めるガビさん。高校生のときに家族旅行で初めて日本へ行き、少しだけ習った日本語を紙に書いて会話を試みたが、伝わらなかった。「言葉が理解できないと旅行を本当に楽しめない」と痛感した。夏休みに岩手で被災地ボランティアを経験して、大学で本格的に学び始めた。2年前に日本語専攻が新設されたのを機に、歴史から日本語に専攻を替え、今夏は2か月、札幌の語学学校へ短期留学。「私が日本語を間違っても、日本人は気にしない。だから、トライして!とみんなに言いたい」。
もともと歴史好き。「日本の歴史は第二次世界大戦のことだけ習った。もっと教えたい」。小学生のとき、2つの日本との出会いがあった。日本発祥の織りものSAORI。今はそのスタジオで指導を手伝う。ほぼ同じ頃、友達に貸りた漫画「犬夜叉」で、日本の中世史に触れた。そんな自分の経験から「歴史漫画を使って教えたら、子供たちは楽しいと思う」と言う。大学院で歴史を学び、将来は歴史の先生になりたい。
「日本語は発音がきれい」
カレン・ワングさん
3つの大学に通うカレンさんは、5年生の時に日本語と出会った。「姉が『ワンピース』を見ていて…」。姉よりハマって600話以上、続いて「名探偵コナン」も数多く視聴。「日本語は発音がきれい」と大好きになり、日本語選択がある高校で3年間基礎を学んだ。クイーンズ大学で中国語を専攻していたが、2人の友人の「日本語専攻の方が仕事を得やすい」とのアドバイスを機に専攻を変えた。ニューヨーク市立大学には、特別な学際研究での学士取得制度がある。これを利用して、クイーンズの自宅から片道2時間以上かけて、マンハッタンのハンター大学で言語学、バルーク大学で現代日本文学の講座も取っている。「日本語の難しさは、あいまい表現と助詞」。
ミドルベリー大学(バーモント州)大学院に新設された教師養成プログラムへ進学予定で、公立校での日本語教師の資格取得を目指す。「中国からの移民である両親は、私の夢を応援してくれると思う」。いつか日本に行ってみたいと言うカレンさん、後輩たちへのメッセージは「続ければ続けるほど分かってくる」。