NYのアーティスト野村さん
作品「パイオン・プレート」無事地球に帰還
ニューヨーク在住のアーティスト、野村康生が、人類初のアート宇宙展示を行った。スペーステインメントPTE社(本社シンガポール、榊原華帆CEO)は2023年3月に国際宇宙ステーション(ISS)へと打ち上がった野村のアート作品「PION Plate」が、宇宙での旅を経て6月に地球に無事帰還したと11月に発表した。
作品「ほしの姿観 | Eyes on Us (通称 PION Plate)」が、高度約400キロメートルの軌道上を秒速約7・9キロメートルで飛行している国際宇宙ステーションで直接宇宙環境に長期間晒れた後、無事に地球に帰還したのだ。約68ミリ四方の作品「PION Plate」は両面に特殊なレザー加工が施され、表と裏を重ね合わせて一つのイメージを結ぶ設計となっている。3か月間、国際宇宙ステーション外部に設置された特別なプラットフォームで宇宙空間に曝露された。
大阪大学で作品披露
PION理論がアートになって原点回帰
この作品が「Study – 大阪関西国際芸術祭」の一部企画展として2023年12月23日から28日まで世界初公開された。展示キュレーションを担当する同社アート事業統括の斯波雅子さんは「今回の展示の舞台となる大阪大学、中ノ島センターは、作家がアーティスト活動を通して提唱する「PION理論」の元となる、湯川秀樹博士がノーベル物理学賞受賞のきっかけとなったπ中間子理論発見の場でもあり、元々のπ中間子理論をアートという形で実践に移し、それをこの場所で展示すること自体が原点回帰ともいえます。世界で活躍する日本人アーティストによる、文字通り宇宙規模のアート表現を、先ず日本の皆様にご覧頂けて嬉しいです」と話す。
キュレーターを務めた斯波さんが今年力をいれているのは共同創設者兼エグゼクティブ・ディレクターとして準備を進めているブルックリン実験アート財団(BEAF)で、日米文化交流の場として既に日本の有名アートサポーターの前澤友作氏が設立者・会長をしている現代芸術振興財団(CAF)の最初のアメリカコラボパートナーとして3月から活動をスタートさせること。斯波さんは「何年も日本のアーティストをサポートし、CAFに文化交流の大切さを訴えかけてきた結果の実現となり、大変光栄」と話している。
「宇宙人に向けて地球人が展示した作品なんです」
広く宇宙へと向けられたオモテ面には私たちが好奇心や冒険心、探究心によって進歩させてきた”文明の目”が刻まれ、宇宙から地球を見下ろすウラ面には、そうした私たち人類がどんな存在であり、いま地球上でどのような活動を行っているかを見つめる”内省の目”が刻まれている。
この二つの視線が重なり合う”あわいの境界面”を野村はPION(パイオン)と呼んでいる。PIONプレートは全部で5つ。古代から宇宙の基本的な力として哲学されてきた5つのエレメントと(火、水、大地、大気、宇宙)それを象徴する5つのプラトン立体(正四面体、立方体、正八面体、正十二面体、正二十面体)をモチーフにして展開される。
プロジェクトのスタートは正十二面体が表す”宇宙”を象徴する場所=国際宇宙ステーション(ISS)へ一枚目のプレートが送られた2023年3月。そこからこのプレートが地球に帰還するまでの3か月間、野村は自らの手で地上の残り4つのエレメントを象徴する場所へ、同じコンセプトが刻まれたプレートを送り届ける旅に出た。
野村は武蔵野美術大学で油彩を専攻して2004年に卒業、アート表現を模索する中で人類が宇宙空間に飛び出した20世紀こそ重力からの解放と陰と陽、白と黒、裏と表、天と地という方向性と時間からの解放を21世紀の人類に向けたメッセージを作品に込め、これまで、NYのソーホーのギャラリー「ナウヒア」やブルックリンのJコラボなどで前衛的なコンセプチュアルアート作品を発表してきている。
野村は言う。「PIONは重力から解放された純粋な三次元空間、つまり宇宙に設置されてはじめて完成するインスタレーション。つまりこれは宇宙人に向けた、私というよりも地球人が展示した作品なんです」。